「ブッ、ブー。」

二車線道路の左側をノロノロ走っている僕の車を、後続の車両が次々と追い越していった。あまりにも遅いので癪に障るのであろうか、追い越し間際にわざとらしくクラクションを鳴らしていくのもあった。

 僕は勤め先の学校から帰り道の街道を走っていた。家に帰る途中だった。夕方の丁度せわしい時間帯だったのでこんなにのんびり走るのは気が引けたが、僕はあえてゆっくり運転していたのだ。

 周りの景色は薄墨色の黄昏の中にすっかり沈み込んでしまい、点在する建物や樹木は僕の目にはまるで切り絵のように映っていた。それらは遠くに散らばっていたので厚さと共に遠近感をも失い、ただのシルエットだけになっていたが、それがかえって自分の存在をモノトーンの情景の中で強く主張しているようにも思えた。

 黒みを帯びた青空は、遠くまで直線的に続くコンクリートの堤防で下半分を切り取られていた。殺風景な景色の中で唯一色彩のあるものは、対岸にある背の高い煙突のてっぺんで瞬く紅い警告灯だけで、これが否応なしにドライバーたちの注意をひきつけていた。

 まだ夕方になったばかりなのに、周りに全く人影は認められなかった。日中たまに見かける、土手の上を走る付近の住民のジョギング姿もなかった。動いているものは車だけだった。勤め先の都区内の町はずれを離れた時はまだ西日が電柱に長い影をつけていたというのに、冬のこの時期は本当に日の暮れるのが早い。

 「ゴットン、ゴトン。・・・キキッ。」

 道路が首都高の橋脚の下に入り込んだ途端、路面の凹凸がひどくなってきた。この辺は元々湿地帯だったところを埋め立てて居住地にしたところであるが、今走っている道路は舗装して大分経っていると見え、高速の両側の橋脚を地下でつないでいる鉄筋部分を除いて一様に陥没してしまい、逆に鉄筋部が浮き上がっている様に思える。なんとも運転がしづらい。