実は車の助手席には、セキセイ・インコを入れたテイッシュ・ペーパーの箱が置いてあった。孵ってまだわずかの雛である。だから、車を大きく揺らして怖がらせないようにとなるべくそっと走ることに神経を使っていたのだ。低速で走ればよかったのだが、後続車があるのであまりスピードを落とすわけにもいかなかった。
「ゴットン。」・・「ピッ。」
「ゴト、ゴットン。」・・「ピ、ピッ。」
でこぼこ道の振動がひどくなった途端、いままで物音一つ立てていなかった助手席の箱の中から、エンジンの騒音に混じって、心細げな、かぼそい鳴き声が僕の耳まで届いてきた。
丁度うまい具合に目の前の交差点で信号が赤になったので、僕はブレーキをゆっくりと踏んで車を停め、サイドブレーキを引いた。安全ベルトを緩めて助手席まで身体を伸ばし、そこに置いた箱に被せたタオルをそっと持ち上げ、横目で中を覗き込むと、箱の周辺からなんとなく動物臭い匂いが漂ってきた。
取り出し口の狭い隙間から、底に敷き込んだ柔らかいテイッシュの紙に半ば埋もれた、インコの赤ちゃんの頭と背中だけが見えた。この箱が臨時の鳥かごというわけだ。
タオルをとられて急に冷たい外気が入り込んだので、寒そうに小刻みに体を震わせている。その様子が一層インコを不安げな風に見せている。
「うん、どうやら元気そうだな。」
僕は安心してまた箱にタオルを被せた。
丁度信号が青に変わったのでハンドルを切ってT字路の交差点を左に折れ、さらに広い道路に入ってようやくでこぼこ道を抜け出すことができた。さあて、ここまで来れば家までは車であと5,6分のわずかな距離である。
「娘たちが、僕の帰りを首を長くして待ってるだろうなあ。」
僕はそうつぶやきながら車の列の途切れた道の遠方に目をやり、アクセル・ペダルを少し踏み込んだ。