最寄駅を過ぎて、そのまま上り方面を線路わきの歩道に沿って真っすぐ歩いて鉄橋に出た。本流の那珂川に合流する前の山間部を流れるこの支流は蛇行が激しく、流れの凸側を大きく削って急峻な崖を形成し、反対の凹側には大量の小石と砂を堆積してなだらかな丘と成し、それを下流に向かって交互に繰り返している。鉄橋は崖側をかなり削り取って高度を下げ線路を渡して向こう岸に通しているが、それでもかなり高さがある。恐らく30メートルを超えるのではないか。鉄板の歩道に足を踏ん張って真下をのぞき込むと膝が自然とガクガクする。手すりをしっかり掴んでいないと怖いぐらいだ。向こう岸の住人は列車に乗る時はいつもここを渡ってくるのだ。今日僕は初めて歩いて渡った。これまで母と一緒に何度も列車に乗り、鉄橋のたもとの集落には川岸に降りる小道があることを知っていた。そこが今日の僕の出発地点である。
今日は川下りのため一番粗末な半ズボンとシャツを着けていた。このまま水に潜るつもりだ。それにここまでの陸路と川底を長く歩くだろうからとサンダルを履いてきていた。「さあ、行くぞ。」と心の中で気合を入れ、僕は川の中に入っていった。
「サンダルを履いてきて正解だった。」僕はそうつぶやいた。ここの川底はいつも遊んでいるところと違って岩肌が向き出ていて小石類はあまりない。岩の角はぎざぎざが残っており裸足で踏むと痛そうである。ここはずっと以前から川に降りて調べてみたいと思っていたところだ。列車で通るたびに真下の川を見つめて、「ここにはきっと化石がある。」と思っていた。
川岸に寄って目の高さの岩肌をじっと眺めながら歩いた。「あっ、尖ったものが表面に出てる。」そう思った僕は、小石を拾って尖った先でその周囲を掘り崩したら、黒光りした小指の先ほどのカケラが出てきた。「サメの歯だ。」僕はすぐに分かった。前に同級生が学校で「お兄ちゃんがとってきてくれた。」と大事そうに見せてくれたことがあったからだ。あちこち見回すとそれらしい突起が沢山出ていて、どうやらここにはサメの歯の化石が固まってあるらしい。「ようし、今日はこれだけ。ここは僕だけの秘密の場所にしよう。」そう大人っぽい分別を示して化石をポケットにしまい、僕はその場所を離れた。