丸紅の研究所所長、柴田氏が出した『飢餓国家ニッポン』こちらでは新書という性格からか、論理展開の根拠となるデータがそれほど多くのっていませんでした。

食糧争奪―日本の食が世界から取り残される日/柴田 明夫
¥1,890
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新書のほうより、2007年にでたこちらのほうが詳しくデータが載っているし、視野の広さに驚かされると思います。というよりこれを読めば、新書のほうは読まなくていいくらいです(オイ)。

主張の大部分は『飢餓国家ニッポン』と変わっていないので詳細は見ませんが、帯に書いてあるものを見れば大体わかるでしょう。

【本書の内容】
第1章 マルサスの悪魔がやってくる-逼迫する食糧市場
第2章 飽食の時代とそのわな-「爆食」中国の幾何級数的インパクト
第3章 脅かされる大地-荒れ狂う環境と水不足の時代
第4章 高まる食卓への不安-食品に混入する「異物」
第5章 立ち遅れるなニッポン-争奪戦から取り残されないために

これらを見ればわかるように、自給率向上論をほとんど網羅したような本になっています。
ただ、(欲をいうようで変な感じですが)逆に「詳しすぎて漠然とした」印象もあります。どういうことかというと、それぞれの理論をデータや供給体制から裏付けているのですが、価格下落要因も取り上げているし、結果的にどういう予測につながるのかがわかりにくいのです。
たとえば、
「ハリケーン「カトリーナ」は、穀物市場に二つの面からのインパクトを及ぼした。一つは物流面での影響だ。穀物輸出の約七割がこの地域を経由して海外に搬送されている。しかし、ハリケーンによって~流通ネットワークがあちこちで寸断された。このため、シカゴ穀物市場では行き場を失った穀物が市場にあふれるとの観測から売り圧力が強まった。もう一つは生産面への影響だ。ハリケーンが通過した産地で、収穫期を迎えた作物への障害懸念が強まり、~需給報告に関心が集まった。しかし、USDA報告では~上方修正された。特にトウモロコシはアナリスト事前予想の上限をも上回るものであり、一気に需給緩和感が広がった。となると、05年秋のシカゴ穀物市場では、輸出のパイプが正常化しないなかで収穫が進むことになり、ハーベスト・プレッシャー(収穫期の売り圧力)から、大豆、トウモロコシ、小麦が改めて下値を探る展開となった」
「異常気象が頻発している」という文脈のなかでのものなのですが、わかりにくいことこの上なし。
カトリーナで日本が輸入できなくなる寸前だったと『食糧自給率100%を目指さない国に未来はない』では言っていたんですが、それによって価格は下がると。
価格高騰を言っていたはずなのに、価格が下がって輸入途絶する事態もあり得るということなんでしょうか。輸出量への転換がなされないと国内で余った分下がるのはわかるのですが・・・シカゴの先物価格はほとんど世界価格に等しいと思ってたんですよね。
というか、05年の価格が今から見ると全く値動きが無いように見えるので、現在では全く参考にならない話とも考えられるのですが。
うーん・・「価格高騰だから自給率」ってのがそんな単純な話でもないってことかな。

ぜひこの本と比べて読んでほしいのは、二つの批判本です。
『食糧危機をあおってはいけない』は、向上論のそれぞれを批判しているのですが、実は『食糧争奪』でも同じデータを紹介しています。そしてその同じデータを見ながら正反対の意見をいっている、ということを興味深く読めると思います。
『日本は世界5位の農業大国』は、小規模農業優遇をやめてプロ農家に任し、市場経済で競争させることを提案していますが、『食糧争奪』では1981年に「日本の農業は先進的産業であり、輸出産業化を目指し、政府は競争政策を導入し、優秀な農業者が自由に活動できるようにするべきだ」という報告書があったことを紹介しています。(読んだかぎりではそれに反対しているようには見えません)そして、現在まで改革が進まないことを「根本的な何かが足りない」とし、それは農地改革だとしています。つまり、減反や放棄などをさせず、「真の意味で農地を有効に利用するもの」に耕作を任せるべきだと主張しています。

しかし今の複雑な農業問題を解決するには、「農業内部だけの政策では不可能である。農業の担い手をとっても、農水省が力こぶを入れて支援していきたいと考える四十万戸の大規模農家(プロの経営体)では、農業の多面的機能を発揮することはできない。多くのセミプロ農家やアマチュアのホビー農家の役割も大きい」と書いています。
そういう意味では現在の政策におおむね沿った形での農政理解ということでしょうか。

「世界穀物総生産の20%が輸出に振り向けられる」こと、つまり国内での余剰分のみが市場に出される穀物の性格から、「混乱要因」というような言葉で不安定になることを憂いていますが、輸出国では数年ごとに振り子のように供給姿勢がぶれること、増産すると価格下落を招き、減産すると高騰を招きと、「結局どうなるのが一番望ましいのかがわからない」のが、日本だけでなく世界に目を向けると非常にやっかいな問題です。
元から安定的な市場ではないにもかかわらず、安値で安定していたがために輸出国の農家が怒り出す。それに答えてバイオ燃料などで需要を作るとすぐに逼迫して世界の食糧危機となる。
元々バイオ燃料は燃料の中東依存からの脱却に、農家の所得向上も視野に入れて取り入れられたもので、環境問題などは後付けの理由です。
つまりここでも供給者と消費者の対立構造があるということですね。

関係ないですが、この本がでたのは07年1月。
もしこの頃にこの本を読んで、正直に信じて先物取引をやってたら大金持ちになってたでしょうね。賞味期限は1年半だけでしたが。