今回は2016年2月のドイツはハンブルクからです。
今日はチューリッヒ室内管弦楽団(Zürcher Kammerorchester)の演奏会です。
チューリッヒ室内管弦楽団は1945年にエドモン・ド・シュトウツによって設立されたスイスのオーケストラです。1945年と言えば第二次世界大戦が終わった年です。その後、ハワード・グリフィス、ムハイ・タン、ロジャー・ノリントンがこのオーケストラを指揮してきました。
今回の指揮者は、ウィリィ・ツィマーマン(Willi Zimmermann)。スイス・バーゼル生まれで、6歳からバイオリンを習い、シャーンドル・ツェルディ(Sándor Zöldy)、シャーンドル・ヴェーグ(Sándor Végh)、ギュンター・ピヒラー(Günter Pichler)などに師事します。アマティ・カルテットのリーダー、ヴィンタートゥール・ムジークコレギウムの第一コンサートマスター、チューリッヒ室内管弦楽団のコンサートマスターなどを務めています。指揮者としてもベルリンフィルのメンバーで構成されるバロックアンサンブルのベルリン・バロック・ゾリステンの指揮なども振っているようです。
今回のコンサートは、いろいろとちょっと変わったコンサートでした。まずは、ウィリィ・ツィマーマンの弾き振りです(ヴァイオリンを弾きながら、指揮をするスタイル)。そして、1785年に作曲されたピアノコンチェルトがなんと2曲も演奏されました。
最初の曲は、
行進曲 ニ長調(Marsch D-dur KV 249)が演奏されました。1776年の作品です。
二曲目は、
ピアノ協奏曲21番(Klavierkonzert Nr. 21 C-Dur KV 467)。
ピアノは、ヤン・リシエツキ(Jan Lisiecki)。
1995年カナダ生まれのピアニスト(両親はポーランド人)。5歳からマウント・ロイヤル大学の音楽院でピアノ学び、9歳でオーケストラとの共演、10代でニューヨークのカーネギーホール、パリのサル・コルトー、ミュンヘンのガスタイクなどでリサイタルを開き、著名なオーケストラ・指揮者との共演など、大きな成果を残してきている話題の若手ピアニストです。
1785年に作曲されたこのピアノ協奏曲。映画などでも使われていて、特に第二楽章が有名なのではないでしょうか。
モーツァルトがこの曲を完成させるのが予約演奏会の前日の3月9日。翌日の3月10日にはブルク劇場で初演をしているようです。ほとんど練習する間もないでしょうから、即興演奏のようなノリなのでしょうか。すごいですよね。
三曲目は、
シューベルト:交響曲第5番
Franz Schubert: Symphonie Nr. 5 B=Dur D 485
今度は、再度オーケストラのみの演奏です。
1816年に作曲された曲で、初演の記録はきちんと残っていないようです。
モーツァルトとシューベルトを並べて聞いてみると、この2人の音楽への向かい方の違いのようなものを感じます。モーツァルトは音でころころと遊んでいるような、そんな印象の曲が多く、ピアノ協奏曲の第三楽章なんかは、まさにそんな印象。一方、シューベルトは心のうちにある「歌」を音に託していくような曲が多く、比較的古典的な作風と言われる交響曲5番でも、やはり違いは歴然と感じます。シューベルトを聞くと、やはりこの人の曲は「歌」が流れていると感じます。そして、変ロ長調の第一楽章、変ホ長調の第二楽章、ト短調の第三楽章、そして最初の変ロ長調へ戻る第四楽章。この構成もシューベルトの歌心となんともうまく呼応しているように思います。第二楽章などは、転調が繰り返され、どこか違うところへ行くのかと思えば戻ってくる。それがなんとも身もだえしてしまいます。
四曲目は、
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
Klavierkonzert Nr. 20 d-Moll KV 466
再度、ヤン・リシエツキの登場です。今日2曲目のピアノ協奏曲。
21番とは打って変わって短調の協奏曲です。モーツァルトが初めて短調で書いた協奏曲だそうです。そして30曲近くあるモーツァルトのピアノ協奏曲の中でたった2曲しかない短調のピアノ協奏曲のうちの1曲です。そして、短調曲であるにもかかわらずモーツァルト作品の中でも人気の高い曲の一つです。ベートヴェンも心酔していたとか。そして、ベートーヴェンはじめ、ブラームス、クララ・シューマン、ブゾーニなど多くの音楽家がこの曲のカデンツァを残しています。
ピアノ協奏曲第20番。オーケストラの後、ピアノソロが入ると、そこで静寂が訪れます。ピアノのソロが演奏されているのに、何故かそこには静寂を感じるのです。でも、このまま静寂が続くのかと思えば、短調ながらモーツァルトのいつもの音遊びが始まり、コロコロと音が転げ始め、そしてオーケストラが戻ってきます。21番も演奏会ぎりぎりで書かれていますが、この20番も作曲が終わったのは、やはり演奏会の前日。当日の朝は、まだ写譜師がパート譜を書いていて、通しで練習する時間もなかったとか。しかし、初演は大成功だったそうです。恐るべしモーツァルトです。
ヤン・リシエツキの演奏、結構独特な感じがします。面白かったのはかなり頻繁に左足を後ろの方に引いてまた戻す動作をする癖があるようですが、体重のかけ方を変えたいときにやっているのでしょうか。その頻度がかなり高いくて気になって気になって仕方ありませんでした。それと、緩急のつけ方が少々大げさな傾向があったように思います。まだ、若いので老練という感じの演奏ではなく、若々しさがあって、でも注目の若手だけあって、かなりよく考えられた演奏だったと思います。
シューマンのトロイメライがアンコールで演奏されました。
チューリッヒ室内管弦楽団も素晴らしい演奏でした。指揮振りなので少し細かいところのニュアンスの揃いで気になるところがあったり、合わせるために動作が大げさになっていて、それが少し音に反映しているところもあったように感じますが、全体的にはとても満足度の高い演奏でした。
ライスハレ近くのビルに書かれていた絵。なんとなく気になって写真撮りました。