>軽音部を辞めたコウキは、ライブハウスに出ようと考えた。
そして、市内で一番栄えている駅の近くにライブハウスを見つけた。
見つけたその瞬間、コウキはそのライブハウスに入った。
(小さいな・・・)
コウキは、そう思った。
そこは、アコースティックライブの専門のライブハウスだ。
それを知らなかったコウキは、その規模に驚いた。
そして、スタッフらしき人に睨まれていることに気付いた。
「すいません、今日は、ライブやってないんですけど。」
と、素っ気なく言われた。
「あの、出演したいと思ったんですけど。。。オーディションとかしてますかね?」
コウキは、戸惑いながら言った。
「あーちょっと待ってくださいね。」
そう言って、スタッフらしき人は奥へ行った。
そして、その奥から別の人が現れた。
「どーも、はじめまして。ここのオーナーの山下と申します。よろしく。 ライブに出たいの?」
その人は、オーナーの名にふさわしくないほど、髪がぼさぼさのおじさんだった。
「はじめまして。突然、すみませんが、ライブに出たいと思って来ました。
オーディションとかやってるんですか?」
「いや、うちはすぐにでも出られるよ。チケットのノルマはあるけどね。」
「すぐに出られるんですか?!じゃあ是非出たいんですが、チケットのノルマって何ですか?」
「簡単に言うと、出演者がうちにお金を払って、そのお金でチケットを発行するから、そのチケットをノルマ以上売上げれば、出演者に儲けが出る、てこと。まあ、出演料だと思って。」
「はあ・・・じゃあそれは、1ライブいくらなんですか?」
「1ライブで、15,000円だよ。てか、学生?一人でやってんの?ギター?」
「えっと、高校2年で、軽音部に入ってたんですけど、辞めて一人でライブやりながら、バンドメンバーを探そうかなと思っています。一応、ギターをやってます。」
「高校2年かぁー若いねー。軽音部でも、ギターとヴォーカルをやってたの?」
「いえ、軽音部では、ギターだけでした。」
「今、オリジナルの曲とかある?」
「いえ、まだありません。」
「あー、そっかー・・・うちは、一応オリジナルだけでお願いしてるんだよね。」
「そうなんですかー・・・わかりました。」
コウキは、勢いに任せて、入ったことを少し後悔した。
(冷静に考えると、まだまだライブに出られるレベルじゃないよな。
オリジナル曲も持ってないし。カバーのレパートリーですら、あまりないのに。
第一、俺、歌も練習しなきゃ。はあ・・・浅はかだった。)
「じゃあ、また今度、曲を作ってから来ます。」
「よし、待ってるよ。じゃあ、一応これ、俺の名刺を渡しとくよ。」
「ありがとうございます。またよろしくお願いします。」
コウキは、少し恥ずかしそうに立ち去った。
しかし、ライブハウスの玄関に差し掛かった時、一つの張り紙を見つけた。
{アルバイトスタッフ募集中!!週2日~OK!!}
コウキは、急いでオーナーの方へ戻った。
「おう、どうした?」
「あの、アルバイトを募集してるんですか?」
「うん、一応ね。」
「僕みたいな未経験じゃだめですか?」
「いや、全然大丈夫だよ。」
「じゃあ、働かせてください。」
「おっ、いいねー。じゃあやってみるか?」
「いいんですか?!じゃあ、働きます!」
「高校生だよね?じゃあ基本的に、土日の出勤になるけど、OK?
まあ、休みたいときは言って。仕事なんだけど、ドリンク作ったり、まあホールスタッフが
メインになるけどいい?あと、時給は850円ね。」
「はい!全然大丈夫です!」
「じゃあ、今週末から入れる?」
「入れます。」
「じゃあ、今週の土曜日の、昼の3時に私服でしてもらえる?」
「わかりました。」
「じゃあ、よろしくねー。」
「はい、よろしくお願いします!」
「あっ、えーっと名前は、なんだっけ?」
「コウキと申します。」
「コウキ君ね。じゃあ、土曜日よろしく!」
「はい!失礼します!」
オーナーの山下は、奥の方へ消えていった。
コウキは、自宅に戻り、そのことを両親に伝えた。
両親は、最初こそは、急に音楽を始めた息子に、戸惑っていたが、次第に、息子の本気さを感
じ、心の中では、応援していた。
当然、アルバイトの事も了承した。
コウキは、着実にステップアップしていく自分の音楽人生に、少し浮かれていたのだろう。
この音楽が、人生の中で大きなギャップを作ってしまうことに気が付くのは、ずいぶん、先にな
るだろう。
そんなことも知らずに、コウキは、今日もギターを弾く。
どこかで掛け違えてきて、気がつけばひとつ余ったボタン。
同じようにして誰かが、持て余したボタンホールに出逢うことで意味ができたならいい。
ミスターチルドレンーくるみ