【大阪はなぜ笑う】第一部(1)

 母さんへ

 「お母さん、もう歩くの疲れた!」「ほな走り。」今も私は陸上部で走っています。

 日本一短い手紙のコンテスト「一筆啓上賞」(福井県坂井市丸岡町文化振興事業団)。国内外から多いときには10万編を超える応募がある人気コンテストだ。

 昨年のテーマは「笑」。しんみりとした笑い、愉快な笑い…上質の笑いが並ぶ優秀作の中でも、ひときわ目をひいたのが冒頭の作品。「ほな走り」と大阪弁をさらりと盛り込み、テンポ良く笑いを誘う。作者のプロフィルを確認すると、やはり、大阪の高校3年生の女の子だ。

 「大阪は自然な笑いの作品が多い。素直に笑えるんですよ。それに方言を方言と感じていないですよね。大阪弁を誇りに思ってしゃべっているからでしょう」。数えきれないほどの手紙を読んできた同事業団事務局長の大廻政成(おおまわり・まさなり)さんも、一目置いた。

 この作品がおもしろいのは、大阪弁をうまく使ったからではないか。大阪弁に何か隠された秘密があるのでは-そう考えて、国語学者であり大阪大学大学院文学研究科の金水敏(きんすい・さとし)教授を訪ねた。

 「ほな走り…か。テンポが耳で聞こえるようでおもしろい。以外性もありますね」

 金水教授は、大阪弁から発せられる「笑い」は、長い文化の積み重ねの中から生まれた、と歴史をひもときながら説明する。

 江戸時代、武士の文化が発達した江戸とは対照的に、大阪では町人が自由を謳歌(おうか)し文化をはぐくんでいった。人間関係を大切にする町人の会話からビジネスチャンスも生まれる。必然的に会話力が磨かれた。その証は、歌舞伎や人形浄瑠璃、落語など古典芸能の発達に見ることができる。

 もっとも、大阪人みなが会話上手で笑わせ上手なわけではない。ところが、年月とともに「大阪=しゃべり好き、笑わせ好き」のイメージは強調され、期待されるようになった。「そう思われるならそう振る舞っとこか、というところも大阪人にはあったのでは」。

 小さいときから家庭、学校、地域社会で、コミュニケーションの訓練を重ね、大阪弁を洗練させる。それは大阪弁独特の「型」「間」も磨いていく。「大阪以外の人がしゃべる大阪弁がぎくしゃくするのは、間合いや型を身につけないで単語レベルでしゃべっているから」。

 だから大阪弁を、書き言葉にするのは、かなり難易度が高い。この女子高生の手紙の場合、型や間をうまく盛り込んだことが、勝因のひとつだったといえる。

 この女子高生に会った。大阪府高槻市在住の下山由起恵さん。現在は大学1年生。コテコテの大阪の女の子を想像していたが、アンニュイな雰囲気の漂う、おしゃれな女子大生だ。「以前母に聞いていた話を思いだして書いたので、すぐできました」と恥ずかしそうに話す。それを母親の美由紀さんが、「足、痛い、歩かれへんねん、と由起恵が言うたので、ほな走りいな、と言ったんです。そしたら、むっとしてましたわ」とにこやかに解説する。「歩くの疲れた、いう人に、走り、とは普通言わんやろ、と思いつつ書いてみました」と由起恵さん。ここでも見事に、大阪人の会話の型が展開されていた。

 もっとも、こういった大阪弁会話を聞き、型を感じとって笑える「受容する側の能力も必要」(金水教授)だ。メディアを通じて「お笑い」人気が浸透し、他の地域の人々も大阪弁をおもしろい、と思うようになったのは最近のこと。100年前なら下山さんの作品は入賞していないかも。

 「おもろい大阪弁会話」は、上方の土壌と歴史の中で、さまざまな要因が重なってはぐくまれていった洗練された文化といえるのかもしれない。

 「大阪人が二人寄ると漫才になる」といわれる。それほどに、人々の生活に密着し、上方文化のさまざまな面で花を咲かせる笑い。なぜ、大阪は笑いの都となったのか。ナニワの花の、今とその源を探る。

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