Okinawa通信360
● 沖縄に越すときに、約 90%の本は処分し、できるだけもう本は買わない増やさないと決めていました。
なので、沖縄に来てから買った本って、たぶんほんの数冊だと思います。
月に1~2回は、沖縄市の図書館で本を借りてくるし、無いものは、リクエストして買ってもらったりしています。
でもこれはちょっとマニアックだし、図書館では買ってくれないなぁ …… でも読みたいなぁ …… という本もあります。
というわけで、久しぶりに買った本が、コレです。
『上岡龍太郎 話芸一代』 戸田学著 青土社
上岡流講談 「ロミオとジュリエット」 CD付録
2013年9月刊 2,200円
「芸は一流、人気は二流、ギャラは三流、恵まれない天才、上岡龍太郎です」 は、彼自身の言葉。
その自称のとおり、と思います。
私は、上岡龍太郎の話芸、その独自の話芸を、とても高く買っている人間の一人で、
もっと彼のすごさを語ったり書いたりする人が出てこないのはどうして? と不思議に思っていました。
なので、この本を知った時には、どうしても読みたい欲しいと思ったしだい。
上岡龍太郎 (1942年京都市出身) は、かつて大阪府知事だった横山ノックに誘われて、横山パンチの芸名でトリオ漫才 「漫画トリオ」 を結成し、
“パンパカパーン、今週のハイライト!” の決まり文句でかなり人気を博していたけれど、リーダーの横山ノックが
政治家になり、トリオを解散、その後一人で「上岡龍太郎」の名で活動を開始します。
そして上記の自称どおり、関西だけではなく全国レベルで、知名度を高めているさなか、
2000年に、突然、引退してしまいます。
この本では、
漫画トリオ解散後の彼独自の世界、ひとり話芸がどのように出来上がり、どのような活動をしてきたか、を書いています。
著者の戸田学 (私はまったく知りませんでした) は大阪堺市出身、上岡龍太郎より 21歳も年下ですが、
関西の落語・漫才界の歴史や人物たちの評論を数多く書いている人です。
本の中からも、上岡龍太郎が著者に全幅の信頼をよせているのがよくわかりました。
彼の話芸を高く買っている、といっても、東京住まいだった私は、それほど上岡龍太郎の話芸を見聞しているわけではありません。
ときどき深夜にやっていた 『鶴瓶・上岡ぱぺぽTV』 で、鶴瓶と二人、台本がないめちゃくちゃ面白いしゃべりを聞いたり、
いくつかの一人話芸を見る機会があっただけ、です。
この本によって、彼自身が自分をPRするパンフレットを作成し全国のラジオ局に送り、
地元のラジオ大阪と、唯一ひっかかった名古屋のCBCで、ラジオジョッキーを始め、それが一人話芸の元になったこと、
その後、漫談、そして上岡流の講談、さらには藤山甘美や桂枝雀らと大衆劇団で芝居をプロデュース・出演していたこと、
などなどを知り、とても面白かった。
なぜ上岡龍太郎は、58歳、芸歴40年、功なり遂げた芸人であり人気タレントであったのに、引退をしたのか?
この本のはじめに、著者によるその推測があります。
上岡自身の 「伝統芸でないものは、これ以上拠り所がない」 という言葉があるそうです。
いくら話芸が評判をよび人気は充分にあったとしても、彼の芸を正当に評価する人はいない ………
上岡龍太郎は、きちんと賞められたことがない。
そこに、彼の深い絶望があったのではないか ……… というものです。
● ま、ともかく。
上岡龍太郎の話芸のすごさは、見聞したり、口演速記したものを読んだりしなければ伝わりませんが、
その可笑しさの一端をいくつかこの本の中から。
彼が名古屋のCBCでラジオジョッキーをやり始めた当座、コテコテとはちょっと毛色が違う関西弁の滑舌、
中日ドラゴンズ贔屓が多い名古屋で、「阪神!阪神!」 とやる、「六甲おろし」 をかける、から大変だったらしい (笑)。
彼の毒舌は、この名古屋で磨かれたのだ、と当時のCBCのプロデューサーは言っています。
そして上岡自身の弁。
「名古屋の人というのはね、よそもんに対して最初は厳しいんですよ。でも受け入れてしもたら何でも許すんです。
だから……ものすごく面白かったですね。………やり甲斐があったですね。
名古屋の人というのは、素朴ですからね。怒る時は本気で怒る。当時ね、<言葉の語源>か何か言うて、
<トンボはなぜトンボと言うか?>というのがあった。
「あれは棒が飛んでるみたいに見えるからトンボ。 セミは背中を見せてるからセミ!」
そしたら、「うちの小学生の子どもが本気にするからやめてください!」
ええやないか、本気にして」
………などなど。
● また、「鶴瓶・上岡パペポTV」 のひとこま。
昔はトイレットペーパーがなかった …… という話で盛り上がり …… (下ネタで恐縮です)
上岡 な! それもない時は新聞紙やった。
鶴瓶 新聞紙、俺、ようそれで拭いたがな。
上岡 ほとんどは、まあ落とし紙の癖で、こう何枚かとってね、ここ(五本の指の間に)へ挟む癖がついてな、ぼくー。
鶴瓶 どういうこと、それ? そんなとこ挟んでどないして(拭くねん?)。
上岡 違うがな!
鶴瓶 びっくりしたな(笑)。俺、こんなん肛門五つもあんのかな思て。キャー拭いて(笑)。
上岡 あの、あらかじめ拭く枚数をここへ挟んどかな、何枚も使うと。
ぼく癇症病みでキリがないことがあって、何枚でも使うねや。
鶴瓶 情けない。そんなもん、ガァーッつかんで、ブゥーッ! あかんかったら、
キャーッ、あ、キャーッってやったらええねん。
上岡 それをそやからあらかじめ、下拭き、荒拭き、本拭き、艶出し、仕上げー。
鶴瓶 (笑)なんやて? もういっぺん言うてくれ! 俺は師匠のそんなとこがいちばん好きや。
そういうくだらんことにーーーくだらんことにも、なにィ、なんやて? もういっぺん言うて!
上岡 まず、下拭きや。
鶴瓶 下拭き。
上岡 荒拭き。
鶴瓶 荒拭き。
上岡 本拭き。
鶴瓶 本拭き。
上岡 艶出し。
鶴瓶 艶出し。
上岡 総仕上げ。
鶴瓶 あのな、ちょっとー。あんなとこ艶出してどないすんねん。
なんだか、上岡龍太郎の話芸のすごさを紹介する意図とは、ずいぶん離れてしまったかもしれない ……(笑)。