1次側回路のパターン・ギャップ(パターンとパターンの間隔の距離)はいくらでしょうか。
トランジスタ記述SPECIALの「技術者のためのプリント基板入門」に、必要なパターン・ギャップは次のように書いてある。
パターン・ギャップ(mm) 耐電圧(V)
電取法(日本)
2.5 51~150
3.0 151~300
5.0 301~400


しかし、そんなに単純な訳ではない。ではいくらで設計すればいいでしょうか。


日本の電安法(電取法は旧法)では省令1項基準(我が国独自の基準)と省令2項基準(国際電気標準会議(IEC)が定めた規格に整合化された基準)の2種類の基準があっていずれか一方の基準に適合すればよいことになっています。しかしどちらかを選択すると全ての基準を選択したほうの基準で判定しないといけないことになっています。
それと、該当する電気用品の種類で基準値が異なります。
例えば省令1項基準を選択した場合の、別表第八の電気用品で説明します。
プリント基板のパターン・ギャップは空間距離の基準が適用されます。
まず、「電源電線の取り付け部」で「製造者が接続する端子部」は50を越え150以下のものは2.5mm、150を越え300以下のものは3mmとなっています。トランジスタ記述SPECIALの記述はここから来ているかと思います。
しかし、「その他の部分」の「固定している部分であって、じんあいが進入し難く、かつ、金属粉が付着し難い箇所」は、50を越え150以下のものは1.5mm、150を越え300以下のものは2mmとなっています。
また「その他の部分」の「その他の箇所」は、50を越え150以下のものは2mm、150を越え300以下のものは2.5mmとなっています。
そして、プリント基板でレジストがかかっているところは「固定している部分であって、じんあいが進入し難く、かつ、金属粉が付着し難い箇所」に当たると解釈されます。
100V入力信号の場合でまとめると、電源電線の入力部は 2.5mm、それ以外でレジストがかかっている部分は 1.5mm、レジストがかかっていない部分は 2mm ということになります。
では、全てがこの空間距離を満足しないといけないのでしょうか。全部満足させようとするとパターンが引けなくなってしまう可能性があります。
その場合は「絶縁変圧器の2次側の回路、整流後の回路等の構造上やむを得ない部分であって、次の試験を行ったとき、これに適合するもの」という項目があって、いわゆるショート試験を行って燃焼しなければいいことになっています。
ここで「等」という表現がありますが、「等」は何を指すかは「電気用品の技術基準の解説」という本に詳しく書いてあり、経済産業省のホームページでもこの本の解釈に従って試験をするように書かれています。
つまり、絶縁変圧器の2次側の回路と整流後の回路と「等」で表現された部分は空間距離を満足していなくてもショート試験がOKならOKということになります。
しかしこれは安全法的にはの話しで、高電圧がかかる部分であまりにもパターン・ギャップが狭いとウィスカーの発生などがあるので、できるだけ基準の空間距離を守るべきでしょう。


省令2項基準になるともっとややこしいことが書いてあります。
省令1項基準の場合のショート試験はヒューズが飛べばOKですが、省令2項基準になるとショート時の電流値を測定してその値がヒューズの定格の2倍以下の場合はヒューズをショートして試験しなさいということになっています。定格の2倍以下の場合は実力で切れたとしても100%切れるとは限らないという発想から来ています。それとショート時の温度上昇値も書いてあります。
以前、試験場に見積もりを頼んだところ省令2項基準で試験する場合の方が省令1項基準の場合より高いと言われましたが、ショート試験一つとっても、省令1項基準の場合はショートして目視確認だけすればよいのに対して省令2項基準ではショート時の電流や温度上昇を測定しないといけないということからなのかと思います。



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