今のわたくしは不死鳥 | 或る獣の太陽への咆哮

或る獣の太陽への咆哮

エトバカ三兄弟、長男のブログです。ちょっと滞りがちですが、まぁ許してくだされ。

別にラリったワケじゃありません。QMA(クイズマジックアカデミー)でフェニックス組になっただけです。

そのお陰でいろいろなものが全てズレ込んだわけですが。予定狂いまくり。

さ、そんな訳で、自分の予定もゲームで狂わす女から、更新でございますです。



“…エト”
 波動のような声に、レーベンスが叫んだ。
「ファーン陛下!」
 その響きは、まさにファーンの声そのものだったからだ。
 聖騎士の正式甲冑を身につけた若き英雄王は、優しい眼差しでエトを見つめる。雑音を全て跳ね返すように、精神を集中させる彼を、ただじっと。
“背が伸びたようだな。大人らしい顔になった。成長したそなたを見られて、私も嬉しい。何年ぶりになるのだろう。随分と久しい気がするよ”
 エトの詠唱は止まらない。だが、それに逡巡が多分に含まれているのは周りにも伝わった。エトは、戸惑っているのだ。
“エトよ、降臨はいけない。私との約束だろう?”
 詠唱の印を切る指が、びくんと一度動く。明らかに、詠唱の速度が遅くなっていく。それにつられたのか、それとも英雄王の、フェニックスの影響だろうか、ガットの詠唱も途切れている。
「…るさい…」
“苦しそうではないか。汗が出ているぞ。実体があれば拭ってやりたいが…”
「うるさい!」
 エトの肩は完全に揺れていた。どす黒い憎悪を全面に出した顔でファーンを睨みつけ、掴みかかろうとする。
 ファーンは視線を逸らそうともせず、エトに厳しく言い放った。
“お前は、エトではないな”
「いい加減しつこい!僕はエトだ!邪魔するなら、お前も殺す!!」
“なるほど、何故一瞬でも私がこちらへの降臨を許されたかが分かった…こういうことだったわけだ”
「黙れぇぇ!!」
 再び左手に小剣を握り、別の詠唱を始める。
「ファリスの降臨は後だ…どうせ成功するからね…先にお前を殺してやる…変な幻想を見せたあの女も…一緒に…!」
“一つ、質問をしたい”
 右手の人差し指を胸の前に翳す。
「聞くか!」
“そなたの腰にある短剣は、私のもののはずだ。それはいつ、そなたに渡した?”
「ふん…そんなことか。これは出陣前夜にお前が僕に与えたものだ。形見だと言って…そう!これは国王の短剣だ!」
 再び詠唱をし、大きな光の弾を右手に具現させる。
「さあ、言いたいことはそこまでだな!邪魔な幻像には消えてもらおう!」
エトが光の弾を放つ。が、ファーンめがけて放たれたそれは、彼の前で消える。
「小賢しい!!」
 今度は小剣に付与の魔法を掛け、切りかかっていく。
 難なくそれを楯で受け止めたファーンは、鋭い眼光に変え、エトをきつく睨んだ。
“やはり、お前はエトではない。お前は、三つの過ちを犯した。それによって、私はお前を断罪することができる”
「黙れ黙れぇ!!!」
“まず、エトとお前は戦い方の質が違う”
「なんだと!!」
“エトは声を荒げ、切りかかるようなことはしない。できる限り声を抑え、息を堪え、一気に踏み込んでくるのだ。そして、お前の剣からは邪悪しか感じない。まるで魔神王のようにな”
「うるさい!うるさい!!」
 何度も体勢を変え、切りかかるが、全てファーンに弾かれる。
“二つめの過ちは、その短剣は、形見として私が与えたのではなく、エトが希望した物だ。何か私の物が欲しい、そうエトが懇願してくれたのだ。そして、最後。それは、私が国王として使っていたものではない。私の生家に伝わるものだ”
 これは、本当に知らなかったのだろう。一瞬攻撃の手を止めてしまう。ファーンはそれを機と、エトの小剣を一気に弾き飛ばした。
「しまった!!」
“エトは、大事な記憶をお前に穢されまいと、人生でも何度目かの嘘をついたのだろう。エトは途中で知ったのだ。お前の正体、そしてお前の目的に。現世に生きる者たちがお前を滅ぼすには、エトごと殺さなければならない。それはここに集う者たちには決してできぬこと。だが、私は違う。ここに生身を持たぬものにとって、お前を滅ぼすのは他愛もないこと。さあ、いい加減観念してもらおうか”
 今度は、エトがじりじりと後退し始めた。ファーンは幻の身から恐ろしいまでの闘気を放ち、徐々に追い詰めていく。
“お前がエトでないことは明白だ。何故ならエトは逃げたりしない。私がエトに危害を加えるはずはない。それを知っているからだ。だが、お前にとって、私は敵以外の何者でもない。だから逃げていく。それも仕方ないだろうな。お前もまた、私と同じ、実体を持たぬ者。そして、心に傷を持ち、何よりも純真で無垢な心に入り込み、闇へと染める…。だが、エトを染めきることはできなかったようだな。だから、エトはわざとお前に嘘を見せた。さあ、そろそろ出て行ってもらおう。そこはお前がいてよい場所ではない。そこの住人は他ならぬエト。ファリスでもファラリスでもない、もちろん私でもない、世界中の誰もが犯せぬ聖なる領域だ”
 エトはほとんど泣きそうだった。だが、それは稀に見せるエトの泣き顔ではなく、中の者が浮かべさせている、弱りきった嘆きの表情である。
「おのれ…お前さえ…お前さえいなければ…!」
エトが一気に走った。祭壇めがけて。
“もはや、無駄だ”
しかし、登った所で、その体はファーンの透明の腕へと収まった。
「うぁ…!」
“さあ、エトよ。苦しみからそなたを解き放ってあげよう。さぞや疲れたろう…”
 ファーンが右手の剣を構えた。
「ファーン王!」
「エト陛下ぁ!!」
 ファーンは一気に、刀をエトに突き刺した。その刀から溢れた光が、部屋中を眩い閃光に包んでいく。
 思わず、誰もが目を閉じた。その中で、断末魔の叫びが聞こえてきた気もしたが、人々に確かめる術はなかった。


「あ…」
 最初にそう呻いたのは、ディードリットだった。
 パーンも目を開き、見上げると、透明の腕でエトを大事そうに抱えるファーンがそこにはいた。彼は微笑みながら階段を降り、ゆっくりとパーンの方へ歩いてくる。
“残念ながら、私の役目はこれまでだ。ここに現れるだけでもかなりの力を使ってしまっている。フェニックスももう限界だろう。この子に会えないのは、少し寂しい気もするが…”
 そう言ってエトを見下ろす目には、限りない包容力と、愛情が宿っている。
 こうして、エトのこと、見下ろしていたのかな。パーンはふと、そう思った。
“だが、もう私の時代ではない。この子は、そなたに託そう”
 ファーンがパーンの前に立ち、そっとエトを差し出す。
「あの、ファーン陛下…」
“しっかりと、手を離さないようにしてくれ。パーン、全てはそなたに任せた。エトは今、そなたを頼りにしている。それでいい。それでいいのだ。私は青春の思い出で十分なのだ。それ以上を望むのは、この子に辛すぎる重みを遺すことになる。だから、パーンよ”
 しっかりとエトを抱えたパーンの肩に、ぽんと手を置く。
“この子のことを頼んだ。必ず、守ってくれ。間違った時には叱ってやってくれ。そして、エトにこう伝えて欲しい”
エトの頬を両手で包み、そっと鼻先にキスをした。いつも、朝や夜にそうしていたように、慣れた、しかし名残惜しそうな動きで。
“私の愛は変わらない。いつまでも。心から、愛している…と”
 例え、実体がなくとも、波動のような声でも、そこに宿る愛情には寸分の曇りもないのだ。パーンは抱く腕にさらなる力を込めた。
「必ず…伝えます」
 俺の命を引き換えにしようとも。
 ファーンは柔らかく微笑んだ。
“ああ…よろしく頼んだ”
 もう一度じっと、静かにエトを見つめ、そして、


 霞のように、消えた。


 エト、お前が好きになった理由、分かった気がするよ。ファーン陛下は、あんなに優しく、甘く、笑われる方だったんだ。
 お前、本当に幸せ者だな。


ファーン様退場でございます。この人を長々出すとトンデモ小説になってしまいますゆえに。いや、元々トンデモ小説か…。でも、退場です。あとはパーンとエトのバカップル親友コンビに何とか努力してもらいましょう。


♪明日もドナドナっとQMA通い~♪(音痴です)