特技:消息不明 | 或る獣の太陽への咆哮

或る獣の太陽への咆哮

エトバカ三兄弟、長男のブログです。ちょっと滞りがちですが、まぁ許してくだされ。

になりつつありますあやなでございます。重ね重ね申し訳ございませんです。友達の結婚式があったりDQ8を現在進行形で進めていたりと超個人的理由で忙しく、PCすら二週間ほど開いておりませんでした。正直禁断症状でした。

何週間ぶりになりますでしょうか。更新にございます。長いですが、どうぞご容赦願います。


「残念、このしぶとい魂は封じさせてもらったよ」
 エトの声は、再び途絶えた。
「エト、無事なんだな…!」
「おっと、そうくると思ったからね」
 神聖語に近い響きを高らかに唱える。
「な、何よこれ!」
「苦し…い…!」
 全員の体が、黄金の粒子のようなもので縛り付けられたのだ。口は聞けるが、体はもう、指先まで動かない。
「観客の皆さんは途中退場やブーイングがお好きなようだ。せっかくだから、最後までお付き合いいただくために、少々魔法を使わせていただいたよ。さあ、循環の…」
 エトはファリス神像の前で信者に教えを説くように、誇らしげに両手を広げた。
「輪を断ち切るときさ!!」
 しばらく高笑いし、ぐるりと一同を眺めて、やがてガットに視線を定める。
「ガット、とか言ったっけ?お前に用事があるよ。こっちへおいで」
 傷の痛みに苦悶し、身悶えしたままのガットを、指を動かすだけで自分の前に連れてくる。エトはその傷に、最低限の癒しを唱えた。それで、彼はようやく脂汗を止める。
「おのれ、この悪魔…」
「賛辞の言葉をどうも。さあ、君には大切な任務を与えよう。よくお聞き」
 小剣を鼻先に突きつけ、
「お前はこれから、ファラリスの降臨を願うんだ。僕の身を生贄としてね。そして、僕はお前と同時に別の役目を果たすのさ。さあ、早く。知ってるんだろう?詠唱の言葉は」
「な…なにを…!貴様はファリスの使徒ではないか!」
「…君は意外と頭が悪いんだね。がっかりだ」
 近くに転がっていたダガーで額に傷をつけた。
「うぉぉ!」
「君も司祭だから、人間の体は知り尽くしているね?ここを突けば」
 とん、と眉間を刃先で叩く。
「ぐ!」
「分かるよね?どうなるかは。さあ、さっさとおし。いいかい?君の願いは成就されるんだよ?ファラリスを降臨させて、この世に暗黒神の偉大さを知らしめられる。いい話じゃないか。僕と利害の一致は見られるということさ。さ、始めてごらん」
 指をすいすいと動かし、ガットを詠唱の構えにさせる。
「だめです!その詠唱は…!」
「観衆の皆さんには静かにしていただきたいものだね。気にしないで始めて」
ガットの前に立ち、威圧を与えるような笑顔で見下ろす。
「いいだろう、では…!」
 ガットの口から暗黒語の詠唱が紡ぎ出される。
『地中深くで眠りし我らが神よ…』


「エト…やめろ…!」
 パーンの呻きに、呪われし神官王が青い瞳を向ける。
 いつも澄んで暖かく、大好きな瞳。だが、今そこに宿るのは禍々しい憎しみと邪悪。
 帰ってきてくれ。お願いだ。俺の元に…。
「君には先に眠ってもらったほうがいいみたいだね、パーン。君が騒ぐとこの子もうるさくてしょうがない。未練を残してたくせに、君になると血相を変えてさ」
「違う!エトは未練なんて残さない!」
「君も馬鹿だね。この子のことは僕が一番分かって…」
「お前にはエトのことなんて何も分からない!」
 パーンの心にわきあがった怒りが、喉を震わせる。
 エトの眉がピクリと動いた。明らかに苛立ちを抱えていると分かる顔だ。
「お前に分かるもんか…エトの気持ちも、嘆きも、悩みも、何もかも。エトは苦しいんだ。未練なんて持つ奴じゃない。エトは次の一歩を踏み出すとき、必ず自分の気持ちに整理をつける。それなのに、お前が勝手に言う。お前は何も分かってないのに。ただエトを乗っ取っただけなのに!」
「君は本当に愚かだ。僕がエトじゃない?馬鹿なことをお言いよ。僕はエトだ。じゃあ、君が僕を指してごらん。僕はエトとして苦しむよ。やってみればいい。やってごらんよ。さあほら、早く!」
「いやだ!エトを殺すなんて、俺にできるわけない!」
「じゃあ、黙ってるんだね。さあ、始めようエト。全てを無にしようよ。君と僕…でいいかな。なら、できるさ。詠唱を始めよう?十四年前完成できなかった、あの呪文をね…。それがファーン陛下の望みさ。君のファーン様のね。優しくて、強くて、君を本当に可愛がってくれた、ファーン様」
 そこで、腰の短剣を抜き、愛おしげに見つめる。
「本当に…そうなのですか?」
 問いかけたのはスレインだった。壁際でカシューの側にいたスレインは半身を起こした状態で縛られている。
「なんだって?」
「本当にそれが望みなのか、とお聞きしたのです」
「そんなの君に…」
「ええ、分かりませんよ。あなたのお好きな部外者です。しかし、あなたの命と才能、どちらに賭けるなら命に賭けたい、そう誓ったあの陛下が、あなたの死を望みますか?私の目にはとても、あなたが死にたがっているようには見えませんでした。王としての任務に燃え、部下の人たちを大事に思い、生き生きとしていらっしゃいました。そんな人が突然死に急ぐ。おかしいとは思いませんか?」
「思わないね」
「私は思います。あなたは矛盾しています。それに、世界を全て道連れにしてまで天に召されて、はたしてファーン陛下のいるところに行けるんですか?」
 これは正鵠を射たらしい。エトがぎりっと歯軋りをする。
「そんなの…」
「やってみなきゃ分からない。それは本当に危険な賭けですね。あなたが最も嫌いとするところです。しかも賭けるのはこの世界。あなたが愛したものが全て詰まった、何にも変えられないものです。それを犠牲にしても、ファーン陛下に会いに行くと?」
「会いに行くんだ!それに口を挟むな!」
「いいえ、挟ませていただくわ」
 静かにエトの近くに現れた影がある。
「エレナ!」
 リアの仲間のエルフだ。
「お前、僕の呪文の…」
「私は直前に下がらせていただいたわ。全員魔法にかかっては意味がないから」
 エレナはゆっくりと両手を胸の前に突き出した。
「私はあなたにこういう手を取られては困るの。そちらの司祭の魔法の完成はまだかかりそうね。その間に、少しお付き合いいただきたいわ」
「そんな時間ないね」
「取っていただくわ。あなたの人生を見守ったものとしても、絶対に」
「お前が、僕の…」
 エトの言葉に、エレナの緑色の瞳が光る。が、彼女はそれに言及することなく、ゆっくりと詠唱を始めた。
『気高きその姿、雄大たるその羽、永遠(とわ)を運ぶその尾よ、破壊の焔より姿現し、我が召喚に応じよ…』
「フェニックス…!」
「ナルディア殿の…あれか…」
 エレナの元に、部屋中の炎が集い、丸めた手の内に入る。
『さあ、目覚めなさい、我がフェニックス…』
 エレナの広げた手の上で、球体となった炎が、雄大な鳥へと変化していく。
 炎の羽をはためかせた鳥は、ゆっくりと旋回し、エレナの右手に止まった。エレナがそっと鼻先をつつくと、心地よさそうに頭を下に向ける。
『お前にお願いがあるわ。この方に、愛する人の姿を見せてさしあげて。さあ、お行き…』
 フェニックスは二度宙を旋回し、やがて消えていった。
「…で、何だい?」
「これからよ」
「残念ながら待てないね。悪いけど、始めさせてもらうよ」
「エト!」
「エト王!」
「第一、僕が止めた所で、結局片方の神が降りてきてしまうんだ。だったら…」
 エトは制止の声に耳を貸すことなく、詠唱を始めてしまう。
『偉大なりし天座の大神、秩序と法を遵守せし、善き哉、気高き哉、ファリスの御名は、御身の天座より降りし一振りの剣は、うなじをかかげて、至高神の名を呼ぼう』
「陛下、いやです!おやめ下さい!陛下!」
 フェネアが懸命に叫ぶ。ロエルは動く気配もない。焼けた顔は寸分も戻っていない。
「エト!絶対いやだ!お前が死ぬなんて、絶対にいやだ!」
 パーンの叫びにも、もう答えることはない。心に呼びかけても、全く反応はない。
「エト!」
 叫ぶ人々の中にあって、エレナのみは冷静だった。じっとエトを見つめ、つと右手を掲げる。
『お帰りなさい、フェニックス』
 フェニックスはゆっくりと羽ばたきを繰り返しながら降り、やがて地上に降り立つと、その姿を変え始めた。
 そう、まるで…


 昔日の偉大なる白き王の如きに。

今回分ではファーン様出せませんでした。文才がほしい…。降ってきませんかねぇ。ドカ雪も降ったんだから。

現在文才と閃き待ちです。来い~来るんだ~。


あ、それとですね。あしゃらなーたさんがコメントの書き込みができないというトラブルが発生したようです。ですので、今から一度SPAM対策の認証機能外させていただきます。お騒がせしました。地道に消していくです。