あと4回で終了 | 或る獣の太陽への咆哮

或る獣の太陽への咆哮

エトバカ三兄弟、長男のブログです。ちょっと滞りがちですが、まぁ許してくだされ。

です。やっと完全に固まってきました。近いうちに完結します。いやマジで。

超バッドになるか超ハッピーになるかは、まだ内緒です。あと四回、何卒よろしゅうお願いします。


 この言葉に、誰よりも表情を動かしたのは、エトだった。
 最初唖然とした後、驚きに顔を歪め、そして苦しみ悶える。
「そんなこと…あるはずが…!!お、のれ…慌てる…なぁ…!!」
 ロエルは書簡を畳んで手に握り、また淡々と続ける。
「陛下、お戻り下さい。フィアンナ殿下はお早く報告したい陛下がおられず、さぞやお寂しい思いをなさっておいででしょう。いつものように、優しく接して差し上げてください。その為ならば、このロエルは、命も何でも投げ打ちましょう…」
 ロエルはため息をつき、がっくりと肩を落とす。おそらく、精神力を使い果たしかけているのだろう。
「ロエル!」
「ロエル様!」
 床に膝を突き、苦しんでいたエトはふらふらと立ち上がり、手に青色の球体を顕した。
「なら、そうしてやる…お前は昔から鬱陶しかったよ。僕が表に出てくるのを、無意識とは言え、二度も防いだ…。たっぷりと…」
 一呼吸置いて、
「お礼をしなくちゃねぇ!!」
 球体が目にも止まらぬ速さでロエルの胸めがけて飛ぶ。
「ロエル様!!」
 フェネアが慌ててブレスを唱えるが、エトの魔法には間に合わなかった。
 光が炸裂し、また閃光が視界を奪う。
 一同が目を開けると、驚愕するエトと、床に倒れるロエルの姿が飛び込んできた。
「何故…死んでないんだ…!」
「私が横槍を入れたからよ。別に止めちゃいけないと規制されているわけでもないしね」
 壁際で冷徹に戦いを見てきたリアの仲間、クリスだった。
「そこの司祭たち、早くそのロエルとか言う人を見てあげなさいな。相当の手傷を追ってるはずよ」
 慌ててフェネアとレーベンスが後ろへと引っ張り、寝かせる。
「きゃあ、ロエル様!!」
 近くに居合わせた誰もが息を呑んだ。彼の顔は、酷い火傷を負っていたのである。
「フェネア、ファリスの癒しを!」
「は、はい…」
 震えながら詠唱を始めるが、彼女のリフレッシュでは完治すまい。
「僕も力添えをしましょう。二人か三人ならまだ何とかなるはずです」
 ラーダの司祭であるリラが詠唱を始める。レイリアとニースは戦士たちの癒しでとても手が離せない。
 それを横目に、クリスがエトに話しかける。
「神官王とお呼びするべきかしら、それともエト司祭?」
「お好きなように、部外者」
「ええ、そうね。その部外者から質問をしたいのだけれど」
 エトが鼻を鳴らし、クリスが続ける。
「あなたは、循環を断ち切ると仰っていたわね。その循環とは、どのことかしら?そして断ち切り、それによって何を目的とするの?」
「クリス、今はそんなこと言ってる場合じゃないわよ。見りゃ分かるでしょ、こいつはエトじゃ…」
「そんなことを言わなきゃいけない場合なのよ。あなた達は今まで、彼の事をエト王に乗り移ったファラリスの禁呪の化け物だと相手にもしなかった。しかし、それならエト王は、噂に聞く精神力でもっと早く始末したのではなくて?それが今も跳梁を許している。つまり、エト王は彼とどこか相容れるところがあって、そこで妥協しているのでしょう。それは総合的に考えると、断ち切る循環とその先の目的…その点だけだと思うわ」
「ふん、おしゃべりな女だね」
 文句を一くさり捻る。
「そうさ、僕とエトは妥協している。今は色々うるさいけどね。エトは今後の目標に共感したのさ。いいよ、どちらにしろ君たちは最高の観客だ。教えてあげるよ。僕の目的としている断ち切るべき循環…それはね、この世界」
「この、世界?」
 問い返すニースに、満足そうに頷き返すエト。どこか子供じみて見える仕草だが、話の内容は救いようがないほどに暗い。
「そう。この物質界を、一からやり直すのさ。ファリスとファラリスの強大なる力の衝突でね!!そうして、この世界をまっさらにしてあげる。そうすれば、いちいち戦わなくてもいい。君たちはきれいになれるよ。血に塗れた手も、戦場を歩いた足も、みんな浄化される。ねぇ、素敵だとは思わない?名案でしょう?」
「だ、誰が!そんなの、エトが納得する訳ないじゃない!」
「それが、したんだよね。君をファーン様の元に送ってあげる。会わせてあげる。そう言ったら、黙ったよ。エトの英雄戦争後の望みは、死んだ後のことだったからね。死んだら、ようやくファーン様に会える。いろんなことを話して、今度は同じ町の、同じ年代の、男女として生まれ変わろう。それだけが彼の夢だった。分かる?人を癒して、希望になりながら、心の中じゃ死ぬことだけが彼の目標だったのさ」
「へ、陛下がそのようなことを…私は…口惜しい…!」
「だろう?」
 得意げなエトにかけるクリスの声は、誰よりも冷たい。
「家臣の人たちも、皆騙されちゃだめよ。彼は事実を言いながら、最も暗い言葉を選んでもいるわ。あなた達の不安をあおり、エト王を社会的に追い落とすために。そうではなくて?」
 エトが不快そうに唇を歪める。
「いやな女だね」
「当たっているようね」
「それなら、そうするんだい?」
「別に、私には関係ないわ。ただ」
「ただ?」
「あなたのその手前勝手な理由で私の国も全てなくなるのなんて納得できないわ。消えたければ一人でお消えなさい」
「クリス、あんたねぇ!」
「エト王を残して、ね」
 エトが怒りの炎を瞳に揺らめかせ、クリスへと近付いてくる。
「本当に、いやな女だね…。何が、エト王を残して、だよ。まず、お前から消してあげるよ」
「陛下、もう殺傷など、おやめ下さい!!」
 フェグルスが止めに入ろうとする。吹き飛ばそうとするエトの術を防御魔法で止めて、今度はリアが話しかける。
「あんた、ガキみたいね」
「なんだって?」
 怒りの視線がリアへと降り注ぐ。
「ガキみたいって言ったのよ。気に食わなきゃお前を先に倒す、自分の思い通りにこの世界を消す、癇癪起こしたみたいにエトの大事な家臣の人まで傷つけてさ。やってることがほとんど聞かん坊のガキよ。世界を消滅させるなんて、あたしは許さないからね。徹底的に戦ってやるわよ」
 大剣を構える。
「ガキ呼ばわりか…生意気な女になったね、リア」
「エトの記憶を弄繰り回すんじゃないわよ。まってなさいよ、あんたの曲がった性根を、まっすぐにしてやるわ!」
「ふん!女風情が!」
 かくて、旧友同士の戦いが始まった。魔法を操り、互いに攻撃を繰り出し、真剣な一騎打ちを交わす。

同じとき、広間の中央で蹲っていたパーンは、必死にエトに呼びかけていた。彼の魂に。
 今から二年前。聖王宮に突然現れたとき、パーンはエトの心が分かるようになった。彼が内に秘めた感情が手に取るようにわかり、それ以来二人は心で語り合うことも少なくなかった。
 何度も、何度も呼びかけた。気力を振り絞り、拳を握り締め。
 肉体のエトは、軽い身のこなしで、リアの斬撃をかわしてみせる。瞳には殺気と闘気が漲り、剣を振るう手にも一切の容赦がない。
 エト、答えてくれ…。いつものお前みたいに、優しく、答えて…。エト、エト…。
「あっはは!面白いよ、リア!もっと戦おうよ!」
 違うよな、お前は絶対にそんなこと言わないよな。リアは昔なじみだ。そんな奴を、エトは絶対傷つけたりしないよな。
「ったく、すばしっこいわね!」
「お褒めに預かり光栄だね!」
 エト、苦しいか?辛いか?そうだよな。エトは誰も傷つけたくないのに、勝手にそいつが…。


(…ーン…)


 ふと、途切れた声が脳裏に響いた、気がした。
 エト!?


(パーン…)


 一昼夜ぶりの、親友の心の声だった。今まで寒々とした黒い穴のように感じられた彼の心に、少し暖かい光が差し込んだ、そんな気がした。
(エト、エトなのか!?)
 だが、よほど強く心を縛られているのか、彼の声はなかなか届かない。それでも必死に名を呼んでいると。
(パーン、ごめんね…)
 と、気弱な声がため息とともに返ってきた。
(僕は、もう…)
 諦めるな!そう返そうとしたとき。
「くあっ!」
 リアが剣を弾き返され、自分の近くに吹き飛ばされてきた。エトは邪悪な笑顔でその様を見下ろし、ぐっと拳を握る。意志を固める、そんな風に。


(お願い、僕を、殺して…そうすれば、世界を、君を…)

気付きました。エト君はマゾ体質なんですねぇ。いやはや。(お前がSなだけだ)

さ、では続きをまたすぐに!