父は釣りが大好きでした。
僕は、渡良瀬遊水地という、
4県にまたがる巨大な遊水地の近くで生まれ育ちました。
今では整備され、都内からもウインドサーフィンをしに来るレジャースポットになっているみたいです。
でも、当時は「おばけ沼」と呼ばれ、おどろおどろしい感じでした。
ここに、父はへら釣をしによく来ていました。
まだ4、5歳くらいの時、へら釣りに連れてきてもらいました。
僕が言ったんでしょうね。お父さんと一緒に行きたいって。
「いいか。へらはうるさいと逃げるから、静かにできるか?」
と父。
「うん!」
と返事はしましたが、まあ、5歳児の言うことです。
夜明けのおばけ沼で、
船の上、体もろくに動かせない状況。
僕は30分後に「帰る」と泣き出したそうです。
こんな話もありました。
父が釣りをしていると、ものすごい当たり。
興奮して、釣り上げると雷魚という大型の魚。
この魚、食べられないし、簡単に釣れるというので、
釣り人には嫌われているそうなんです。
父は悔しさからか、
雷魚の歯に釣りで使う浮き輪に糸をつけて逃がします。
最初は勢いよく、ぶくぶくぶくと潜っていきますが、
しばらくすると浮き輪だけがぽんと水面にでてくるわけです。
それを見て、
「あいつはこれからずっと自分の位置を知らされていくんだなぁ」
と自分でやったくせに、このコメント。
さて、翌日、
釣りにいくと憐れ雷魚君は絶命していました。
浮き輪の糸に竿が5、6本からまって、川の中心にぷかぷか浮いていたのです。
竿を固定して釣り人もいるんですね。それを雷魚がひっかけた。
父はそれを全て回収して、釣り場に戻りました。
すると釣り仲間が
「いや~参っちゃったよ。釣り竿なくしちゃってさぁ~」と。
そこで父、
「釣り竿、余ってるの何本かあるから好きなの持っていきな」と。
「それでしばらくかわいがってもらったんだよ」と言った父に
「なんで、川で拾ったやつって言わなかったの!」と聞くと
「お前、拾ったやつなんて、誰も欲しがらないだろ」
と父。
天性のいたずらっ子でした。でも、どこか憎めない。
こんな話もありました。
釣り堀を日本庭園に変えるべく、
Tシャツ一枚で泥まみれになって造園しているところへ
若いセールスマンがやってきて父に言います。
「すいません。社長どちらですか?」
「う~~ん。あっちにいたかな」
と社長である父が言うわけです。
僕が「え。なんで、嘘つくの?」と聞くと
「嘘じゃないだろ。あの人の社長を俺は知らない」
と父。
こんな話、まだまだたくさんあります。
そんな父が大好きでしたが、母とケンカする時の父は嫌でした。
嫌・・・・というのはちょっと違う。怖い・・・かな。
笑っている父のオーラが好きだったと思うんです。
冗談を言ったり、好きなことをしている時の父は、
オレンジ系や黄色系のほわんとしたオーラをまとっていました。
それが、ケンカになると重い色になり、音色も重低音。
あの変化がたまらなく嫌だったし、怖かったんです。
だから、お経をあげる時、
父の笑顔を思い浮かべるのかもしれません。
そうすると、楽しい思い出が浮かんできて、
父が暖色系の光の中で更に笑顔になるのです。