夏祭りも終わり、城下町はすっかり秋の空気に包まれている。


俺、豊臣秀吉は鳴神さんの店へと足を運んでいた。


店の前では相変わらず、陽菜ちゃんが掃き掃除をしている。


「陽菜ちゃん、こんにちは。精が出るね」


「秀吉様、こんにちは。恭一郎さんにご用事ですか?」


「用事と言うか…礼を言いに来たんだ。陽菜ちゃんにもね」


陽菜ちゃんは意味がわからなかった様で、きょとんとしている。


「夏祭りの時は酔っ払いから子供を守ってくれて有難う。君の勇敢さには驚いたよ」


「とんでもないです。大人として子供を守らなきゃって思っただけで…」


夏祭りの夜、陽菜ちゃんは酔っ払いを相手に怯む事なく、全力で子供を守っていた。


あの時の行動力に、驚いたのは俺だけではない。


『猿、鳴神と鳴神のところにいる女の素性を調べろ』


御屋形様が興味を持つのは仕方がない。


あの時の陽菜ちゃんは勇敢過ぎたからだ。


(一見して普通の女の子だけどなぁ…)


「秀吉様こんにちは。今日はお買い物にいらしたんですか?」


暖簾をくぐり、鳴神さんが現れた。


チクリと言われた嫌味に、先日此処に来た時に鳴神さんの怒りを買い追っ払われたのを思い出す。


「あはは、今回はちゃんと買い物をして帰るよ」


「そうですか。では中へどうぞ」






「これは秘蔵の葡萄酒です。味のわからないやつには買わせたくなくて、取って置いたんですよ」


「へぇ…葡萄の酒かぁ。南蛮には俺が思いつかないような商品がたくさんあるな」


変わった形の瓶を眺めてながら品定めをするが、残念ながら価値のほどはわからない。


俺は素直に鳴神さんにその旨を告げ、彼に進められた葡萄酒三本を買うことにした。


「毎度有難うございます。秀吉様のお口に合うと思いますよ」


「凄い自信だな」


「自分で見て、良いと思った物しか買い付けしてませんからね…ところで」


鳴神さんは居住まいを正し、俺に真っ直ぐに向き合った。


「今日の本当の目的は何ですか?」


「やっぱり鳴神さんには敵わないなぁ。今日来たのは先日の夏祭りの件で礼を言いに来たんだよ」


「俺は男を取り押さえただけですけど」


「その後、迷子の親御さんを探してくれたでしょ。それも含めてだよ」


茶を飲みながら、どうやって探りを入れるか思案する。


(なかなか勘が良いなぁ…直球で切り出した方が良いか…)


「ねぇ、鳴神さんは武術の心得があるの?」


「…まぁ、あるに越したことはありませんよね。喧嘩殺法ですけど」


あれはそんなものでは無かった。


明らかに急所を狙って、動けないようにしていた。


「ふーん…男を取り押さえたやり方があまりにも鮮やかだったから、何処かの道場の出かと思ったんだけど」


「咄嗟になったら、人間何でも出来るもんですよ」


「そうだね。恋仲の危機となれば、何でも出来るよね」


「なっ?!」


悠長に茶を飲んでいた鳴神さんがは吹き出してしまった。


(あれ?意外な反応だな)


「えっ?陽菜ちゃんと恋仲じゃないの?」


「どう見たらそうなるんですか?」


どう見たらと言われても、陽菜ちゃんを夏祭りに誘いに行った日の鳴神さんの剣幕は想像以上だったし、親しい佐助さんも驚くほどだった。


夏祭りの日も、酔っぱらいに対して相当な憎悪を向けていると感じたくらいだった。


「あははっ…赤い顔してそんな事言っても説得力ないよ」


「ご冗談を…」


鳴神さんは拗ねた様にそっぽを向いてしまった。


冗談で言ったわけではないのだが。


(でもこれ以上突っ込んだら、また塩撒かれるな)


俺は一旦引き上げる事にした。


「じゃあ、俺はそろそろ…。葡萄酒は城に戻ったらさっそく飲んでみるよ。良かったらまたお願いしたいしね」


「毎度どうも。これからもご贔屓に」


鳴神さんに見送られ店を出ようとすると、店先で子供達と騒いでいる陽菜ちゃんが見えた。


「お姉ちゃんの下手くそ」


「えっ?あれ?折り方間違ったかな?」


「店先で騒がれると迷惑なんだけど…」


呆れ口調の鳴神さんは陽菜ちゃんの手から歪な折り鶴を取り上げた。


「どうしても綺麗に折れなくて」


「小さな子でも出来るよ、折り鶴なんて」


「ねぇ!お兄ちゃん折って!折って!」


「あーはいはい。一枚折ったら後は自分で折りなよ」


鳴神さんは店先で、器用に折り鶴を折り始めた。


「へー…鳴神さん器用だね」


「折り鶴なんて一回覚えれば簡単ですよ」


俺はぼんやりと鳴神さんの手を眺めた。


(石川五右衛門の折り鶴…鳴神さんの特異な身体能力…まさかね)


ふと、あり得ない考えが浮かび、苦笑を漏らす。


(一介の南蛮貿易商人が石川五右衛門に繋がるわけがない)


「折り鶴ではしゃぐのは良いけど、お役人様に見つかったら取り上げられるから気をつけてね」


「それを秀吉様が言いますか?」


鳴神さんが苦笑混じりに呟いた。


「ははっ、実は石川五右衛門には一目置いてるんだ。正直…俺も胸がすく思いをしている」


「じゃあ今日の折り鶴の件は内密に。俺も今の秀吉様の発言は胸の中に仕舞っておきますよ」


「お互い様だね」


俺ははしゃぐ子供達の声を背に、城へと戻って行った。


この時に俺が感じた事が、ある事件へと繋がっていく。


その事を今の俺は気づけずにいた。











ꕀ꙳


前回の『雷雲疾走る』と同じ日に書きかけて放置してた_φ=φ_(:P 」∠)_


この後の展開はやんわりと頭にあります


朔夜がちょろっと…ちょろっと出てくる予定


秀吉さまはまだまだ出番たくさんあるし


佐助さんもまた清洲にくるし



信長さまが恭一郎さんと陽菜に興味を持った理由は夏祭り -夏を泳ぐ金魚- を参照ください



信長さま目線なので華の章SSの方にあります