午後8時。
マンションに帰宅。
重いドアを開けると足元のLEDライトが点灯した。
ただいまと言っても返事が返ってくることはない。
何時も通り黙って部屋に上がる。
午後9時。
簡単な食事を済ませた後、持ち帰った紙の仕事に手を付ける。
煙草に手を伸ばし火を点け、揺れる紫煙をぼんやりと眺める。
ふと思い出した事があり、机の引き出しから携帯灰皿を取り出してベランダへと向かった。
夜風にあたりながらの煙草の時間。
今日は月が綺麗に見える。
「今晩は満月か…」
夜空を眺める余裕もなかった過去が懐かしく思える。
午後11時。
チェックし終えた書類をファイルにまとめ、鞄に放り込む。
熱いシャワーを浴びた後、明日の予定を確認。
アラームを確認して疲れた身体をベッドに横たえ、後は泥のように眠るだけだ。
今までの俺だったら。
スマホのランプが点灯し、ラインの着信を知らせた。
お茶を持ちながら近づいてくる猫のスタンプに続いて、メッセージが送られてきた
今日は満月ですね
眺めながら歩いていたら、電信柱に激突しちゃいました(´>∀<`)ゝ
「ったく…たんこぶでも作ったんじゃねぇのか?」
メッセージを送ると、直ぐに返事が返ってきた。
たんこぶは大丈夫でした
スマホは飛んでっちゃったけど
「ったく…目が離せねぇ奴だな」
ふと気がつくと笑みが溢れていた。
笑うことも笑う意味さえも忘れて生きてきた。
そんな俺にあたたかな光を与えてくれた女がいる。
「明日少し時間を…」
文字入力する手を止めて通話釦をタッチした。
何度めかのコールの後、慌てふためいた声が聞こえた。
「たまには電話も良いだろう?ただ単に俺が声を聞きたかっただけなんだがな」
ベッドから身を起こし、机へと歩き出した。
「明日の夜、少しだけ時間はあるか?」
机の引き出しから鍵を一つ取り出した。
「渡したい物がある。いや…たいしたものじゃねぇから気にするな」
これを手渡したら、あいつはどんな顔をするだろうか。
想像するだけで笑いがこみ上げて来る。
電話を切り時刻を確認すると0時を過ぎていた。
(時間の経つのが早いな)
明かりを消しベッドに横たわり目を瞑った。
目覚めれば何時もの日常、のち甘い時間。
※Morning routine の前のお話です。