少し蒸し暑い6月。
今日は少し落ち着かなくて、少しだけドキドキしている。
だって今日は私の…
「ゆきちゃん♪Happy happy Birthday♪おったんじょうび!おめでとー!!」
遅番で出社したethlin先輩が満面の笑みを浮かべ、後ろから抱きついてきた。
「先輩おはようございます。そして、ありがとうございます!!でも~正直素直に喜べないんですよね~。あ~ぁ…また一つ年取っちゃった…って…。」
「Non
Non
ゆきちゃん、『年を取った』じゃなくて『大人になった』だよ。」
「似たようなもんじゃないですか。」
「全然違うよ。だってね…。」
ethlin先輩ははにかんだ笑みを浮かべ言葉を続ける。
「一年って月日は大きいよ。私ね、一年前より少しだけ大人になれた気がするんだ。そりゃ…相変わらず子供みたいに泣いちゃったりするけどさ。でも、去年の自分には出来なかった事たくさん出来るようになってるし、色んな事…知った。嬉しい事も、嫌な事も、悲しい事も…。嫌な事なんてさ、去年のままの自分だったら全部放り投げて逃げ出したと思うんだ。でも…がんばって、少しずつだけど、前へ進もうって思えるし…進んでるつもり。月日を重ねる毎に大人の自分に近づいている気がするよ。」
確かに先輩は少し変わった。
どこが?と言われても困るけど、少しだけ強くなった…そんな気がする。
「そうですね。一年前は土方さんに電話するのも、会いに行くのもやっとやっとだったのに、いまじゃへっちゃらへのカッパっですもんね~。」
「そんな事ないよ。いまだに電話するのすごく緊張するし、メールだって…返事が来た、来ないって…一喜一憂したりしてさ。」
「その一喜一憂が大人の印じゃないですか。絶対に去年より進化してますよ!あっ…大人になるって事は『変わる』じゃなくて、『進化する』って事なんですかね?」
「そう!進化!前へ進むって事だよ。だからね、今年もゆきちゃんの晴れの門出を御祝いするために、本日はスペシャルゲストをお招きしていま~す。」
「先輩…それって…もっ…もしかして…。」
そう…それが今日のドキドキの原因だった。
「えへへ~今年もお花の配達をお願いしたんだよ。もちろん配達人は沖田さんね。あっ!でも、去年みたいにて…手の甲にちゅう…とか
ないからね
。派手なパフォーマンスは厳禁ですよ!って、歳三さんに強くお願いしたんだから。」
「いや~ん
やっぱり~
。私そうだったらいいなって…やーん!先輩!!ありがとうございます
。」
沖田さんに会えるってだけで嬉しくて、屋上まで階段で駆け上がれそうだ。
「何時に来るか知らないけど、もうそろそろかな?…ねぇねぇ、ゆきちゃん…なんか騒がしくない?店内が暑いからお客様倒れたのかな?」
「そう云えばそうですね。なんか騒ぎっぽい感じですね。」
先輩の言うとおり、何故かフロア全体が妙にざわざわしている気がする。
と、その時、突然フロア中に女の人の叫び声が響いた。
「ゆきちゃん、私ちょっと様子見てくる。」
ethlin先輩は慌てて売場を飛び出して行った。
(え~せっかく沖田さんが来てくれるって言うのに事故発生?せっかくの誕生日なんだから、今日は平和に過ごしたいのにな。)
ふぅ~とため息を一つつき、私は俯きがちにショーケースの点検を始めた。
フロア中に響くざわざわした感じはなかなか収まらない。
(せっ…先輩大丈夫かな?単に倒れたじゃなくて…まさか、刃物持ったおっさんが暴れてるとか…ちっ…違うよね。)
内心恐怖と焦りを感じているが、とにかく平常心を保とうとため息を一つついた。
「こんにちは、綺麗なお姫様。どうしたの?浮かない顔してるけど。せっかくの花達も悲しくなって萎れてしまうよ。」
ふと顔をあげると、目の前には大きな花束があった。
淡い青紫の薔薇の花束。
その花束の先には…
「おっ…沖田…沖田さん?」
「ゆき、Happy Happy Birthday。また一つ大人になったね。」
「はっ…はい
。」
沖田さんは体にフィットした白っぽい細身のスーツを着こなし、いつもの王子様スマイルを私に向けている。
ううん…
いつも以上に王子様な沖田さんが、私の目の前にいた。
今私の目の前にいる沖田さんは、まさに絵本の世界から飛び出した王子様そのものだった。
「どうしたの?顔が赤いけど?」
「えっ?あっ?えっと
」
「クスクス…かわいいね、ゆきは。」
そう言って、淡い青色の薔薇の花束を私に差し出した。
「はい。コロボックルちゃんからの誕生日プレゼントだよ。今年ゆきの為に選んだ花は青い薔薇。淡いブルーがゆきの白い肌によく映える…。ねぇ…ゆきは青い薔薇の花言葉知ってる?」
「え!い…いえ…。」
ethlin先輩につられてお花屋さんに足を運ぶ回数が増えたが、いまだに花の名前をたくさんは憶えられないし、花言葉なんてわかるはずもない。
沖田さんは生花に限らず、プリザープフラワーの事やポップアップカードなど色んな勉強をしてるってethlin先輩から聞いた。
沖田さんに比べて、あまりにも自分が無知過ぎる自分。
なんだか恥かしくなってくる。
俯き加減に返事をすると、クスクスと沖田さんの笑い声が耳元に響いた。
「知らないから恥かしい…って思ったの?そんな事ないよ。コロボックルちゃんもお店で土方さんに一つ一つ花言葉を教えてもらって、その中からこの花を選んでたんだから。気になるでしょ?コロボックルちゃんが君の為に選んだ花の花言葉。」
「は…はい…。」
「青い薔薇の花言葉はね…。」
すっっと沖田さんが私に近づいてきた。
周りにいた女の子達が一斉に黄色い叫び声を上げる。
女の子だけじゃない。
パートのおばさんも、いかにも近所から来ましたって感じのおばあちゃんさえも叫んでいた。
私も叫んでしまいそうだった。
でも、驚きのあまりに声が出ない。
だって…沖田さんの熱い体温が伝わるくらい、私達の体は近づいていたから。
「奇跡…神の祝福だよ。」
熱い息がかかってくすぐったい。
でも、身動ぎも出来ないほど、私は緊張で固まってしまっていた。
「僕にとっては、一年前にゆきに出会えた事が大いなる奇跡だけどね。」
沖田さんは猫みたいににっこりと笑う。
「本当はゆきに祝福のキスを贈りたかったけど…怒りんぼうの森の狼と、口うるさい赤ずきんちゃんから強く止められててね。それはまた今度にしておくよ。それに僕からゆきへプレゼントも渡したいし。ゆきも来るよね?土方さんのBirthdayパーティ。」
その日を楽しみにしてて
君の為に取っておきのプレゼントを用意しておくから
そう言いながら、沖田王子は颯爽とその場を後にした。
(沖田さん…素敵…素敵過ぎる。白馬の王子様と青い薔薇…。どうしよう…ドキドキが収まりそうにない…。)
「ゆきちゃん…。」
声の方を振り向くと、ethlin先輩がフルフルと震えながら泣き出しそうな顔をして立っていた。
「先輩…先輩…先輩!ありがとう…ありがとうございます!!」
私は興奮のあまりに人目も気にせず先輩に思いっきり抱きついた。
「ぎゃっ!ちょっ…ゆきちゃん、今営業中!!」
「こんな素敵な誕生日プレゼント、今までもらった事はありません。見ました?今日の沖田さん。今日のスーツ。まるっきり王子様じゃないですか~。いつものエプロン王子や仕事帰りのビジネス王子も素敵だけど…今日は…今日は…今日は白馬の王子様ですよーーー!!!先輩もそう思うでしょ?ねっ?ねっ?ねっ?」
「あ?はぁ?あぁ?えっと…うっ…うん…なんか…王子様?みたい…だったかな?」
先輩も生で王子様を見てさすがに照れたのか、赤い顔をして俯き加減にボソボソと呟いている。
そうに決まってる!
だって、いつもは沖田さんには辛口の先輩も、今日はさすがに感激し過ぎて今にも泣き出しそうだもの。
「あ~ん!営業中じゃなかったら絶対に写メしたのに~。」
「えっ?写メ?そんなん…いる?」
「いりますよ~。待受!待受にします!家宝にします!」
「え~そんなのいらな…いや…えっと…ゆきちゃん…ちょっと…お腹…うん、お腹痛くなってきちゃった。えへへ…もうすぐアレが来そうだからソレかも。ちょっとお手洗い行ってくる。ゆきちゃんは一人でゆっくり余韻に浸ってて。」
「はい!先輩もごゆっくり~。トイレで余韻に浸ってくださーい♪」
少し気が重かった誕生日にethlin先輩がくれたもの。
淡い色の青い薔薇の花束。
本物の王子様な沖田さん。
沖田さんの甘い声と甘い囁き。
今日は今までの人生の中で最高のBirthday。
今日はきっと私の人生初、超Miracleで超HappyなBirthday。
