新選組杯☆鯉のぼり争奪戦!! ~鯉のぼりを死守せよ~ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

「では、今から第一回新選組杯鯉のぼり争奪戦』を始めます。皆さん、用意はいいですか?」


「よっしゃー!!鯉のぼりも綺麗な嫁も俺のもんだ!!」


「新八っさ~ん、鯉のぼりはその自慢の筋肉で奪えても、綺麗な嫁は無理じゃね?」


「お前らになおが作った鯉のぼり、みすみす奪われてたまるかよ。」


「なんだかよくわからないけど、ethlinちゃんがその鯉のぼりをやたらと欲しがっているからね。悪いけど奪わせてもらうよ。」


「ううっ…絶対にあの鯉のぼりは渡さないんだから。」


山南さんののんびりとした声で始まった『鯉のぼり争奪戦』になぜ女の私が参加しているかと言うと…それはお昼過ぎの出来事でした。






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「原田さん、お帰りなさい。あれ…それ…鯉のぼりですよね?」


半日非番だった原田さんが屯所に戻って来た時、手には手作りらしき鯉のぼりが握られていた。


「あぁ、うちのやつが作ったんだ。何でも土方さんに頼まれて作ったらしい。頼まれもんなら早いうちに渡した方がいいと思って持ってきたが…土方さんは外出中か…。」


私はその鯉のぼりから目が離せないでいた。


だってその鯉のぼりは…


(あれ…あの黒っぽい生地、姉さまの着物の生地に違いない。頼まれものって…誰かにあげるのかな?でも…そうじゃないなら欲しい。だって姉さまが作った鯉のぼりだもん。)


「あれぇ~君に鯉のぼりは必要ないんじゃない?でも、お雛様も必要ないよね?だって…クス…君は小猿だし。」


いつもの意地悪な調子で沖田さんがちょっかいを出してきた。


「むっ…お雛様がダメなら鯉のぼりがいいです。あの鯉のぼりすごく綺麗だし。」


「おっ!左之帰ったのか?鯉のぼりじゃねぇか。どうした?」


「左之さんおっかえり~。鯉のぼりじゃん。そっか~もうすぐ端午の節句だもんな~。」


永倉さんと平助くんも姉さまの鯉のぼりをマジマジと眺め、しきりに感心している。


(えへへ~私の姉さまが作ったもんね。)


少し誇らしげに笑っていると、突然沖田さんがとんでもない事を言い出した。


「その鯉のぼりはご利益付だよ。左之さんの奥方様が作ったからね。手に入れた者は必ず幸せになって、綺麗なお嫁さんも手に入るらしいよ。」


「「なっ…なにぃ~。」」


『綺麗なお嫁さん』の言葉を聞いた永倉さんと平助くんは、いとも簡単に沖田さんのいい加減な言葉に引っかかってしまった。


「左之…頼む、俺に譲ってくれ。」


「新八っさんはその自慢の筋肉で女を落せばいいだろ?はいはいはい!俺欲しい!」


「わっ…私も!」


そう言わずにはいられなかった。


だってこのままじゃあ、勢いで永倉さんか平助くんに取られてしまうと思ったから。


「ふ~ん…。ethlinちゃん、そんなにその鯉のぼりが欲しいんだ?」


沖田さんがニヤリと笑った。


(嫌な予感…。)


「じゃあ僕も参加するよ。女の子なんかに鯉のぼりを取られたくないからね。」


「もう!総司さん!またethlinちゃんの意地悪してるんですか!?」


横から頬を膨らませた沙雪ちゃんが腕を伸ばし、沖田さんの脇腹を思いっきり抓り上げた。


「いたたた…ごめんごめん。でもさ…この場合、ethlinちゃんの方が意地悪なんじゃないかな?いくら男装してるからって、鯉のぼりは必要ないでしょ?」


「そうだけど…。」


少し困り顔の沙雪ちゃんが私へと視線を向ける。


「沙雪ちゃん、今詳しい事情は話せないけど、私…あの鯉のぼりだけは他の人に渡したくないの…。絶対に。」


「何か事情があるんだね。」


私が黙って頷くと、沙雪ちゃんは笑ってそれ以上聞き出す事はしなかった。


「おやおや、大人数で…ずいぶん楽しそうですね。」


騒ぎを聞きつけたのか、山南さんまで玄関先に現れた。


「ほう…原田君の細君が作った鯉のぼりですか?うんうん…これはよく出来ている。使われている生地もなかなか上等のもののようだ。売り物にしたらかなりの値をつけられるね。これでは皆が『欲しい』と言うのは仕方がない。」


「そっ…そんな…。」


(姉さまの作ったものだから欲しいのに。商品的付加価値までつけられたら、ますます皆が欲しがっちゃうよ。)


焦る私の顔を見て、山南さんはにっこりと笑いこう言った。


「では、公平に勝負に勝った者が手にする…というのはどうですか?そうですね…道場の端から走り出して、反対の端に置いてある鯉のぼりを奪い取った者が勝者です。」


「「「よっしゃ~絶対に勝つぜ~!!」」」


「わ…私だって負けないもん!」


絶対に勝ち目がないとわかっていながらも、そう言わずにはいられなかった。






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この子供じみた勝負が執り行われる事になったのは、いれば必ず諌めたであろう斎藤さんと、雷を落す土方さんが屯所を不在にしていたからだ。


(絶対に負ける。誰かが手にした頃、私はまだ道場の半分くらいしか走りきってないかもしれない。)


しかし簡単に諦めるわけにはいかない。


「ethlin君…ちょっと。」


山南さんがおいでおいでと手招きをしている。


「?」


近寄ると、山南さんは私にそっと耳打ちをした。


「急ぐ事はありませんよ。最初に誰が手にしても、必ず奪い合いになりますからね。奪い合いになったら、君は横から掠め取りなさい。」


「それは反則じゃないですか?」


「反則?いいえ。私は『鯉のぼりを奪った者が勝者』と言いましたが『最初に手にしたものが勝者』とは言っていません。」


山南さん…さすが。


「山南さん…策士ですね。」


「ふふっ…誉め言葉として受け取っておきましょう。君がアレを欲しがる事情はよくわかりませんが…手に入るといいですね、鯉のぼり。」


ニコニコと笑いながら何事もなかったように私から離れ、皆が真っ直ぐ一列に並んでいる事を確認している。


(よし…遅くても確実に奪えばいいんだ。)


「では、今から第一回新選組杯鯉のぼり争奪戦』を始めます。皆さん、用意はいいですか?」


皆の雄叫びが道場に響いた。


「では始めます。位置について…。」


パンッ!!


山南さんの手を打つ音と同時に皆が走り出した。


案の定私が半分も走りきっていないところで、原田さんが一番に鯉のぼりを手にした。


「よっしゃーーー!!!」


そして山南さんの言うとおり…


「左之!お前には綺麗な嫁がいるんだから必要ねぇだろ!」


「左之さん、おじさんは遠慮してよね。」


「んだと…新八、平助、やるか?」


原田さん、永倉さん、平助くんの三人で取り合いが始まった。


それを横からひょいと掠め取る人が一人。


「存分にやり合ってよね。これは僕がもらうから。」


今度は沖田さんが余裕の笑みを浮かべながら、鯉のぼりを手に入れた。


(沖田さんにだけは負けないんだから…。)


日頃の恨みを込めて、私は思いっきり体当たりをした。


沖田さんは予想出来なかったようで、ポロッと鯉のぼりを落してしまった。


「よっし!」


鯉のぼりを手にした瞬間、誰かが私の頬をつねり上げる。


「小猿のくせに体当たりするなんて生意気だな。クス…土方さんの躾がまったくなってないね。」


「おひたひゃんにはぜっふぁいわたしゃなひから!!」


私も負けずに沖田さんの頬へと手を伸ばした。


しかしその手を軽く払われ、私は体の均衡を崩し床にうつぶせに倒れた。


「ethlinちゃん!大丈夫!?」


沖田さんは私に何かしようとした瞬間、沙雪ちゃんの声が響いたため躊躇したらしい。一瞬動きが止まった。


その隙に私は鯉のぼりを握りしめたまま、這いりながら逃げ切ろうとした。


と、今度は平助くんが私の背中にのしかかってきて、鯉のぼりに手を伸ばしてくる。


「やっぱ鯉のぼりは男のもんだろ?女には絶対に渡さないぜ!」


「平助!お前女の子相手に少しは手加減しろよ。」


と言う新八さんは、確かに平助くんに対して手加減はしていないけど、結果平助くんの下敷きになっている私にも手加減してくれない。


二人とも全体重をかけているわけではないけれど、重くて体を外そうにも身じろぎさえも出来ない。


(このままじゃあ…鯉のぼりを取られちゃう。なんとか逃げ切らないと…。)


渾身の力を振り絞り下から抜け出そうとした瞬間、頭の上で罵声が轟いた。


「てめぇら!何やってやがる!!お前らは子供か?こんなガキ相手によってたかって…くっそ!どけ!!」


永倉さんと平助くんが投げ飛ばされ、体が軽くなった…と思ったのもつかの間、怒りの矛先は私へと移った。


「お前は男共に混じって何やってんだ!?この…身の程知らずが!!」


「ひっ…ごめんなさい!」


さらに怒りは原田さん、沖田さん、沙雪ちゃん、山南さんへと続いていく。


「左之助!お前はこれが頼まれ物だって事女房から聞いてるだろうが!総司!ethlinにちょっかい出すなって散々言っただろうが!沙雪!お前なんで総司を止めないんだ?総司がダメならethlinを止めろ!山南さん…あんたまで…何やってんだよ…。」


「悪い…つい熱くなってよ…。」


「土方さんはホントいい所で現れるんだから…つまんないな。」


「総司さんを止めるのは無理です。ethlinちゃんもたまに無理…。」


「面白そうだったからね、つい…。」


そして全員道場にずらりと正座させられ、お説教されたのであった。






結局姉さまの鯉のぼりは土方さんの手に渡った。


あれは『事情があって特別に頼んで作ってもらった』らしい。


最初から私の手に入るものではなかったんだ。


でも、姉さまの作った鯉のぼりだもの…手にした人はすごく喜ぶだろうし、本当に幸せになれると思う。


そう思うと私の手には入らなかったけど、嬉しくて顔が緩んでしまう。


「説教中に笑うなんざ…ethlin、お前…いい度胸だな?」


そしてお説教の時間は夕餉の時間まで延々と続くのであった。