「まだ花が残っていますね。半分くらいは落ちてしまって葉が出てるけど…ふふっ…なんだか配色がさくら餅みたいですね。」
「花より団子かよ?ふっ…お前らしいな。」
日曜日、俺とethlinは河原にある桜並木の下を歩いていた。
「見ごろの桜は一人でたくさん見たから十分なんです!誰かさんが嘘ついたから。」
口を尖らせぷいっとそっぽをむく仕草が、妙に懐かしく感じる。
「そんな嘘つきで身勝手な酷い男に、お前は惚れてるんだろ?」
「ずいぶんと自惚れた発言ですね。」
ethlinはジロリと大きな目で、下から遠慮なく睨みつけてきた。
「ノートに書いてあったぜ。お前は俺の事が好きだって。」
「ぐっ…くぅ…。」
悔しそうに唇をかみ、俯く仕草も愛おしく感じる。
「そして俺は、泣き虫ですぐに拗ねて…意外と気が強いお前から目が離せないでいる。」
両手で顔をそっと引き上げようとすると、顔を赤らめさらに俯いてしまった。
「何もしねぇから安心しろ。お前の顔をもっとよく見たいだけだ。それともなんだ…何か期待してたのか?」
「なっ!もっ…もう…違います!」
今度は耳まで真っ赤にしながら顔を膨らませて、拳を振り上げながら俺の胸の辺りを強く叩き始めた。
俺はその手を取って、そっと握りしめた。
「来年の春もここで桜を見よう。約束だ。」
「…絶対ですか?」
「もう嘘はつかねぇよ。」
「じゃあ今度は私が嘘つくかもです。」
「お前の嘘なんてすぐにバレるじゃねぇか。バレる嘘なら最初からつくなよ。」
「…」
「約束だ。二人だけの。」
「はい。」
小さな手が俺の手を強く握り返す。
ethlinは恥かしそうに俯きながら一生懸命に俺の歩調に合わせ、ちょこちょこと俺の隣を歩き始めた。
俺はそんな姿を黙って見つめていた。
手を伸ばせば触れられる。
強く抱きしめれば…きっと全てを手に入れられる。
壊れるまで強く抱く事など…いつだって簡単に出来る。
(それでも俺は…。)
「このまま攫ってしまいたいところだが…もう一年だけ我慢するか。」
「えっ?なんですか?」
「ん?ひとりごとだ。気にすんな。」
納得がいかないといった顔で、ethlinが俺の顔を覗き込んだ。
「でも…今なんか我慢とかって言ってませんでした?土方さん、また何か我慢してるんですか?あんまり我慢しないほうがいいですよ、体に悪いし。」
(お前のために我慢してんじゃねぇか…ったく…。)
「あっ…もしかして煙草ですか?この辺で煙草吸えるところあったっけ?」
「煙草じゃねぇよ。」
「お腹痛いとか?」
的の外れた問いかけに、つい苦笑が漏れる。
「お前の空耳だ。だから気にすんな。」
(お前を大切にしたいと思うから、今はそっと触れる事しか出来ないでいるんだ。)
「そうですか…っ…あ~!土方さん見てください!」
ethlinが突然俺の手を強く引き、足早に歩き出した。
「ここ!幹に咲いてる桜の花!まだまだ綺麗に咲いてます。」
「ちょうど上の桜が陰になって、雨が当らなかったんだろうな。」
「かわいいですね。」
そう言ってはしゃぐ俺の小さな桜の花。
「どうしました?」
「何が?」
「なんか…私の顔見て笑ってるから。」
「お前は桜が似合う…そう思った。」
「
嘘ばっかり…。」
「嘘じゃねぇ。それにもう嘘はつかないって言っただろ?」
(嘘じゃねぇ…初めてお前を見たときから…ずっと…そう思っていた。)
「…土方さんの方が似合いますよ…その…初めて見たときから…ずっと…。」
「なんだ?よく聞こえなかった。」
「ひっ…ひとりごとです。それか空耳です。気にしないでください。」
「…」
「
…」
「…まぁいいか。」
二人顔を見合わせ笑い合い、手を取って再び桜並木を歩き出した。
「土方さん、ありがとうございます。」
「何が?」
「私のお願い事を叶えてくれて。」
「まぁな…。」
(これはお前の願いでもあり…俺の願いでもある。きっと未練が強かったのは俺の方だ。この願いが叶えられなければ、壊れてしまったのは俺の方かもしれねぇな。)
「今年最後の桜だな…これが。」
「はい。貴方と一緒に今年最後の桜を見られて本当によかった。今日の桜は今年見た中で一番綺麗です。」
「来年はもっと綺麗な桜を見せてやるよ。その次も、そのまた次も。だから俺の…。」
(俺の傍にいて、ずっと笑っていてくれ。)
「俺の?」
「いや…なんでもない。続きは次の桜が咲いたら教えてやる。」
満開の桜の花の下で約束しよう。
「はい。絶対ですよ。」
それは二人だけの約束。
「あぁ、絶対だ。」
永遠を誓おう。
「お前にだけ…な。」
消える事のない、永遠の愛を。
