さくら日和 ③ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

「ethlinちゃんお帰り。ねぇ、外出してたんでしょ?お菓子屋さんに寄った?」


「ただいま、沙雪ちゃん。お使い先でお菓子をもらったから寄ってこなかったけど?もしかして新作大福でも出てた?なんかエグイ大福とか?」


「違う違う。今日ね、島田さんと一緒に買い物に出ててね、和菓子屋さんを覗いたら面白いモノを見つけたの。」


そう言いながら沙雪ちゃんは一枚の紙を広げて見せた。


「なになに…二月十四日は殿方に甘いモノを差し上げましょう…ってなんで?」


甘いモノと言えば殿方より女の人だと思うんだけど…と頭を捻る。


「それがね~」


楽しそうに笑う沙雪ちゃんの隣から、大きな影がぬっと現れた。


「異国には『ばれんたいんでー』という祭りがあるそうです。その日だけは女性から殿方に自分の想いを伝えてもよく、その際に甘いモノを贈るそうですよ。」


小豆ともち米を手にした島田さんが現れた。


「ふ~ん…そうなんだ。そんな都合のいい日が異国にはあるんだね。」


でも自分には関係ないよと呟いて部屋に戻ろうとした。


「ちょっと待って!話はまだ続くの!」


慌てた沙雪ちゃんが私の腕を強く引っ張った。


「それでね、どうせなら日頃お世話になっている皆さんに感謝の気持ちを込めて、手作りのぼたん餅を作って振舞ったらどうかな~って話になったの。」


「そうか、それで小豆ともち米の出番なんだ。うん、いいよ。隊士の皆さんにはいつもお世話になってるし、感謝の気持ちを伝える絶好の機会だね。」


「ethlin君、話はまだ続きがありますよ。」


そう言って島田さんは周りを気にしながら声を落とす。


「しかし、多くの隊士にぼたん餅を振舞っては『特別な人』との区別がつかなくなりますよね?」


「特別な…人ですか?」


ぼんやりとそう答えながら考えを巡らせる。


「特別な人…ってまさか!?」


急に顔が熱くなり、動揺を隠そうと努力してみたものの上手くはいかなかった。


「安心してください。私は今日初めて沙雪君からethlin君に『特別な人』がいると聞きました。だから他の者は貴女の気持ちには気がついていませんよ。」


「いや…別に…特別って…私は沙雪ちゃんとは違うモン。確かに土方さんの『傍にいたい』とは言ったけど…それはまた意味が違うし。」


私は土方さんの傍にいたいと願った。


土方さんは私の『思い』を受け止めてくれて、私は傍にいる事を許されている。


でも私の中に新しく芽生えたこの『想い』はそれとは違う。


「この想いはきっと伝えちゃだめだと思う。迷惑だと思うし、それに…。」


伝えれば全てが崩れてしまう、そう思うと怖くて足がすくんでしまう。


「何もしないのに最初からダメだと決めつけるのは、ethlin君らしくないんじゃないですか?」


島田さんの大きな手が私の頭を優しく撫でる。


「『簡単に諦めるのは嫌だ』。ethlin君がそう言っていたと、副長が笑いながら俺に話してくれました。その想いをどう受け止めるのかは副長が決める事です。しかし伝えなければ想いは伝わらないし、受け止める事も出来ない。ethlin君の真っ直ぐなその想い、きっと副長に伝わりますよ。」


「でもでも、今日お使いで角屋に手紙を持ってったけど…夕顔さんって花魁は土方さんに振られてたよ。夕顔さんはあんなに綺麗で、たくさんお手紙書いてたのに…気持ち全然伝わらなかったよ!」


グスグスと泣き出す私を見た島田さんと沙雪ちゃんはお互いの顔を見合わせ、そして同時に笑い出した。


「なっ何がおかしいの!」


「いや…それは…その…。」


「単に相手が嫌だったとか…手紙の内容がひどかったとか…そういう事じゃないかな?」


「そんな事ない!あんなに…あんなに…情熱的なお手紙をもらって心動かない人なんていないよ!」


「まぁまぁ…」


納得がいかないと拗ねる私を慰めるように、沙雪ちゃんが優しく笑う。


「土方さんは裏表のない人だから、きっと嫌いな人を自分の傍に置いたりしないよ。小姓としてethlinちゃんを傍に置いていろいろ任せたりしているのは、少なからずとも好意を持っていて信頼しているからだと思う。そんな人から好きだと言われて嫌な思いをする人なんていないよ。」


「そうかな…そうだと…いいけど。」


自信なさ気に俯く私に、島田さんと沙雪ちゃんはある提案をしてきた。


「島田さんがね、栗の甘露煮を二つ用意してくれたの。これは土方さんと総司さんにあげるぼたん餅にそれぞれ一個ずつ入れたらいいかなって思うんだけど?」


「それに手紙を添えて差し上げれば、きっと気持ちは伝わりますと言いたかったのですが、そうですね…もし手紙を書くのが嫌だと言うのなら、ほんの一言と季節の花を添えるといいんじゃないでしょうか。今なら副長のお好きな梅の花が咲いていますからね。」


「季節の花…。」


花と聞いてすぐに思い浮かんだのは桜だった。


でも桜の季節にはまだ早すぎる。


確かに土方さんは梅が一番好きだと言っていた。


でも、私があげたいのは…。


「島田さん、沙雪ちゃん、ありがとう。そうだね…気持ちは伝えないと伝わらない。当日までにいろいろ考えてみるよ。」


「当日のぼたん餅作りは私も手伝いますから、ethlin君、沙雪君、がんばりましょうね。」


「「はい!」」


(この『想い』は伝わるだけでいい。受け止めてもらえなくても、私の気持ちが伝われば…それでいい。傍にいられるのならそれだけで…。)


胸を刺す甘い痛みを抱えながら、私は土方さんの部屋へと走り出した。