「ethlinこれを書庫に片付けておけ。人の目につくような低い場所に置くなよ。いいな?」
「はい、わかりました。」
土方さんから箱を一つ預かった。
それは蓋が閉められ、中が見えないように紐で結わえられている。
(きっと重要な書類なんだ…きっ…緊張する…。)
書庫に入り、足踏み台を引きずってきて棚の上へと手を伸ばした。
(もうちょっと…もう少しで箱が引っかかる…ん…。)
しかし手が滑って見事に箱は転落してしまう。
「あぁ~。」
慌てて台から足を下ろし、箱の中のモノをかき集めた。
(あれ?中身は書類じゃなくてお手紙だ。それもたくさんあるな~。)
紙の匂いが充満する書庫に、微かだが明らかに異質な匂いがした。
(なんだろ?)
がさがさと紙をかき集める度に香る、懐かしいような…なんだかいい香り。
(もしかしたら手紙から香ってる?)
何気なく手紙を手に取りじっと見つめてみた。
封筒の表にはもれなく土方さんの名前が書かれている。
何気なく裏を返すと芸妓さんらしき名前があった。
(これって…。)
手紙と香りの正体に気がついた瞬間、私の心臓が跳ね上がった。
「これって…全部土方さん宛ての恋文だ…。」
急に胸が締めつけられたように痛み始めた。
(いけない。早く片付けないと…次の仕事に差し支える。)
しかしなぜか手が震え、上手く手紙が拾えない。
(早く…誰か来たらマズイ。特に沖田さんに見つかったら…また何か言われる。)
焦れば焦るほど手紙を取りこぼしてしまう。
頬に何か熱いモノが伝った。
手で拭い、黙って手紙を拾う事だけに集中する。
しかしまた熱いモノが流れだし、ぽたりと落ちて手紙に染みを作った。
「やだ…いけない…手紙が汚れちゃう。」
慌てて拾い上げた手紙が、またバラバラとばら撒かれた。
中に封筒に入っていない手紙が一通、落ちた拍子にハラリと開いた。
見てはいけないとわかっていながらも、私はその一枚を手に取った。
そこには美しい女文字で、土方さんに宛てた情熱的な言葉がたくさん羅列されている。
一通り目を通した後、他の手紙と一緒に箱の中にしまった。
「………うっ…ふぇ…」
わかっている。
泣いたってしょうがない。
でもどうしても涙が止まらない。
こんな気持ちは初めてだ。
でも、私はこの気持ちの正体も名前も知っている。
「嫌だ…こんなの…見たくない…見たくなかった。こんな苦しい気持ちも…気がつきたくなかった…。」
なぜ見てしまったのだろう。
なぜ気がついてしまったのだろう。
誰もいない書庫で一人、膝を抱え声を押し殺しながら静かに泣いた。
「ethlin遅かったな…どうした?まさか、また総司に悪戯されたのか?」
何とか涙を止めて戻って来たものの、涙の後は消すことが出来なかった。
笑いを浮かべてみるものの、顔が引き攣ってしまう。
気取られてはいけない。
私の気持ちを…動揺している事を、この人に知られてはいけない。
私は帰り道にずっと考えていた言い訳を口にした。
「すいません。踏み台から落ちて頭を打って…テヘ…痛くて泣いてしまいました。」
「おい、大丈夫か?たんこぶは出来てねぇだろうな。」
急に大きな手が私の髪に触れ、頭をそっと撫でた。
ビクッと体を硬くしたものの、幸い土方さんは気がついていないらしい。
ひとしきり私の頭を撫で回した後ため息を一つつき、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「嫁入り前なんだからな、体に傷なんかつけるなよ。頭にたんこぶなんか下げて嫁に行ったら、いい笑う者だろ?」
いつもの何気ない冗談に、今日は何故か上手く笑う事が出来ない。
「やっぱりどこか痛むのか?」
土方さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
この人は優しい。
でも自分の気持ちに気がついた今、優しくされればされるほど私の胸は痛くなる。
その優しさを自分だけに向けて欲しいと思う自分に…嫌気が差す。
「足首でも捻ったんじゃねえだろうな?見せてみろ。」
「だっ大丈夫です。足はなんともありませんよ。私結構しぶといんです。」
「いいからここに座れ。足見せてみろ。」
渋々土方さんの前に座り、足を伸ばした。
大きな手がそっと私の足に触れる。
(…なんか恥かしいんですけど。)
気まずさの為につい黙り込んでしまう。
そんな沈黙を破るように、土方さんが口を開いた。
「お前がここに来てからどのくらい経った?一年…は経ってねぇな。お前が押しかけて来た時は桜が咲いていた。」
「そうですね、もうすぐ…一年が立ちますね。」
私は少しでも貴方のお役に立っていますか?
そんな言葉を飲み込んだ。
「この前用事を済ませに行った先の主人がな、お前の事を褒めていたぞ。『礼儀正しいくて、とてもいい子だ』ってな。正直俺も鼻が高い。これならそろそろ簡単な使いくらいお前に任せられそうだ。」
「本当ですか!うわぁ~嬉しいな。ありがとうございます。」
「礼を言うのはこっちの方だ。最初の約束通りお前には他の隊士と変わらず厳しくしているが、お前は本当によくやっているよ。ありがとな。」
土方さんは俯いていた顔を上げ、ふわりと笑った。
もっとこの人の役に立ちたい。
傍にいてこの人を支えてあげたい。
そんな熱い思いが湧き上がる中、この人の傍にいる事は出来ても添い遂げる事はまた別なんだと…そんな事実が私の胸を痛くさせる。