Distress ② ~ 災難の始まり ~ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

「また護符が破られてて…焼け焦げた跡があるから、あいつが引きちぎろうとしたんだと思う」


鞄の中から千切れた護符を数枚取り出し、ethlinはポツポツと話し始めた。


「頭にきて、その場でもっと強力な護符を書こうとしたら…筆ペンが…新八さんがクリスマスプレゼントにくれた筆ペンが…コレーーー!!!」


震える手に持っているのは、グレーの蓋のついた筆ペンだ。


そしてそれには『薄墨』と書かれていた。


「仏事用のじゃん!ちっくしょう!新八の奴!こんなもんよこしやがってーーー!!!」


「馬鹿!握りつぶしてんじゃねぇ!墨がもれて滴ってんじゃねぇか!!」


「馬鹿はお前だ!新八ーーー!!!馬に蹴られちまえ!パチンコの玉鼻に詰まらせろ!!」


ethlinは手で筆ペンをへし折り、地団駄を踏んで暴れだした。


(新八…今日は帰ってこなくていい…帰ってくるな。帰ってきたら間違いなく、お前はethlinに袋叩きにされちまう)


「ふぅ~…それでね、ここに来る前に新しい筆ペン買ってきた。それから筆と墨汁も…。歳三お兄ぃ!お願いします、もっと強力な護符の書き方を教えてください。私はあいつに負けたくない…ううん、負けない。絶対に負けないんだから!」


ethlinは鼻息を荒くして、新品の筆と墨汁をテーブルの上に勢いよく置いた。


(気が弱いのか強いのか、泣き虫なのか怒りん坊なのか…ククッ…見てて飽きねぇな)


「よし!じゃあ教えてやる。最初に言っとくがな、強力だからと言っても絶対じゃねぇからな。護符がまったく効かない奴もいる。効果がなかったからって自分を責めるのだけは止めろ…いいな!」


「はい!」


力強く返事をするethlinの手を取って、見本を一枚書いてみせる。


「いいか?一文字も間違えるなよ。まったく違う効果の護符になっちまうからな」


ethlinは見本を食入るように見つめ、黙って護符作りに没頭し始めた。


何枚か書き上げては見本と見比べ、満足そうな顔で笑っている。


「みちる、ホットミルク作ってやれ。ethlin少しは休憩しろよ。根を詰めすぎたらあいつらと戦えないぞ」


ドーナツを皿に載せ、真剣に護符を書き続けるethlinを背中から覗き込んだ。


「お前、字自体は拙いくせに護符書くのだけは上手くなったな」


「えへへ…毛筆自体はさっぱりだけど、護符に書く文字だけは得意になったよ♪」


ethlinは得意げに笑いながら、書きあがった護符を振り回し始めた。


「ほら、ドーナツ食え。もうすぐホットミルクも来る」


俺はドーナツの皿をテーブルに置いた。


と同時に、ethlinの振り下ろした手が俺に命中した。


ビシッ


「いてっ!」


「ゴメン!」


想像より強い衝撃が俺の手を襲った。


と同時に何か熱いモノを押し付けられた気がした。


「お前意外と馬鹿力だな」


「そんなに強くぶつけたつもりじゃなかったんだけど…あ~赤くなってる。ほんとゴメン!」


ぶつけられた手が少し痺れていた。


気のせいか、頭が少し重い。


「お詫びにドーナツ少しあげる。はい♪歳三お兄ぃ~あーんして♪」


ドーナツを手に笑いながら振り向いたethlinの動きがピタリと止まる。


困ったような、泣きそうな、笑い出しそうな複雑な顔で俺を見つめている。


「歳三お兄ぃ…何?笑わせようとしてんの?いくら今年がうさぎ年だからってそれはないんじゃない?みちるねぇにさせればよかったのに…そっか!みちるねぇもそれ着けて出てくんでしょ!やだな~そんな格好は私の居ない時にさせなよね。お客様に見られたらどうすんの。マジでおさわりバーと間違われるよ」


「はぁ?お前何言ってやがる?」


ethlinの顔を覗き込もうと少ししゃがんで頭を下げると、俺の頭の上で何かが揺れた。


「歳三お兄ぃこそ何やってんの!こんなモノつけて!」


ethlinが俺の頭へと手を伸ばした。


「いてぇ!髪の毛ひっぱってんじゃねぇ!!ハゲるだろうが!!」


「ひゃっ」


半泣きの顔でethlinが手を離した。


「あっ…すまねぇ。でかい声出しすぎたな。しっかしお前髪の毛掴むなよ」


「…んでない…」


「なんだと?」


「掴んでないよ…髪の毛」


「嘘つくな。今思いっきり掴んで引っ張ったじゃねぇか」


「掴んでない…掴んだの髪の毛じゃない…髪の毛じゃないもん…歳三お兄ぃが頭に変なモノつけてるから…」


なんだよ変なモノってのは?


「ethlinお待たせ~ホットミルクだよ。寒いからブランデー入れてあげたよ♪ん?どうしたの?何?ドーナツの取り合いになったの?トシ~ethlinの為に買ってきたドーナツだよ。好きなの食べさせてあげなよ~大人げないな~」


「みちるねぇ…歳三お兄ぃが…」


俺がなんだって言うんだよ。


大人げないのはethlinお前だろ?


こんなにチビでも一応女子大生じゃねぇか。


カッコつけて護符を振り回してんじゃねぇ。


「みちるねぇ~歳三お兄ぃが…歳三お兄ぃが~バニーさんバニーガールになっちゃった~」


「ふざけんな!いい加減にしろ!俺がバニーガールバニーガールのわけねぇだろうが!!」


「ホントだ。トシ、いつの間にウサ耳ウサ耳用意してたの?」


ウサ耳?


確かにみちるにバニーガールの格好をさせようとウサ耳は用意したが、あれはマンションに置いてある。


「あははは~トシ似合うね♪ethlinもウサ耳つけてさ~二人で餅つき大会したら。親子うさぎの餅つき大会!な~んてね」


「みちる…お前までふざけてんのか?」


「ふざけてんのはトシでしょ?」


みちるが呆れた顔で俺に手鏡を差し出した。


俺はひったくるように手に取り、痛みが残る部分を映してみる。


「おい…なんの冗談だ…こんなのありえねぇだろ…」


俺の頭には耳がついていた。


長くてふかふかの毛が生えた…


「みちるねぇ…歳三お兄ぃにウサ耳が生えちゃったよ…本物…本物だよ…おもちゃじゃないよ…どうしよう…」


2011年はうさぎ年。


静かな探偵事務所にウサ耳の男が一人。


半泣きのethlinの手には『兎』の文字が書かれた護符が握られていた。