「また護符が破られてて…焼け焦げた跡があるから、あいつが引きちぎろうとしたんだと思う」
鞄の中から千切れた護符を数枚取り出し、ethlinはポツポツと話し始めた。
「頭にきて、その場でもっと強力な護符を書こうとしたら…筆ペンが…新八さんがクリスマスプレゼントにくれた筆ペンが…コレーーー!!!」
震える手に持っているのは、グレーの蓋のついた筆ペンだ。
そしてそれには『薄墨』と書かれていた。
「仏事用のじゃん!ちっくしょう!新八の奴!こんなもんよこしやがってーーー!!!」
「馬鹿!握りつぶしてんじゃねぇ!墨がもれて滴ってんじゃねぇか!!」
「馬鹿はお前だ!新八ーーー!!!馬に蹴られちまえ!パチンコの玉鼻に詰まらせろ!!」
ethlinは手で筆ペンをへし折り、地団駄を踏んで暴れだした。
(新八…今日は帰ってこなくていい…帰ってくるな。帰ってきたら間違いなく、お前はethlinに袋叩きにされちまう)
「ふぅ~…それでね、ここに来る前に新しい筆ペン買ってきた。それから筆と墨汁も…。歳三お兄ぃ!お願いします、もっと強力な護符の書き方を教えてください。私はあいつに負けたくない…ううん、負けない。絶対に負けないんだから!」
ethlinは鼻息を荒くして、新品の筆と墨汁をテーブルの上に勢いよく置いた。
(気が弱いのか強いのか、泣き虫なのか怒りん坊なのか…ククッ…見てて飽きねぇな)
「よし!じゃあ教えてやる。最初に言っとくがな、強力だからと言っても絶対じゃねぇからな。護符がまったく効かない奴もいる。効果がなかったからって自分を責めるのだけは止めろ…いいな!」
「はい!」
力強く返事をするethlinの手を取って、見本を一枚書いてみせる。
「いいか?一文字も間違えるなよ。まったく違う効果の護符になっちまうからな」
ethlinは見本を食入るように見つめ、黙って護符作りに没頭し始めた。
何枚か書き上げては見本と見比べ、満足そうな顔で笑っている。
「みちる、ホットミルク作ってやれ。ethlin少しは休憩しろよ。根を詰めすぎたらあいつらと戦えないぞ」
ドーナツを皿に載せ、真剣に護符を書き続けるethlinを背中から覗き込んだ。
「お前、字自体は拙いくせに護符書くのだけは上手くなったな」
「えへへ…毛筆自体はさっぱりだけど、護符に書く文字だけは得意になったよ♪」
ethlinは得意げに笑いながら、書きあがった護符を振り回し始めた。
「ほら、ドーナツ食え。もうすぐホットミルクも来る」
俺はドーナツの皿をテーブルに置いた。
と同時に、ethlinの振り下ろした手が俺に命中した。
ビシッ
「いてっ!」
「ゴメン!」
想像より強い衝撃が俺の手を襲った。
と同時に何か熱いモノを押し付けられた気がした。
「お前意外と馬鹿力だな」
「そんなに強くぶつけたつもりじゃなかったんだけど…あ~赤くなってる。ほんとゴメン!」
ぶつけられた手が少し痺れていた。
気のせいか、頭が少し重い。
「お詫びにドーナツ少しあげる。はい♪歳三お兄ぃ~あーんして♪」
ドーナツを手に笑いながら振り向いたethlinの動きがピタリと止まる。
困ったような、泣きそうな、笑い出しそうな複雑な顔で俺を見つめている。
「歳三お兄ぃ…何?笑わせようとしてんの?いくら今年がうさぎ年だからってそれはないんじゃない?みちるねぇにさせればよかったのに…そっか!みちるねぇもそれ着けて出てくんでしょ!やだな~そんな格好は私の居ない時にさせなよね。お客様に見られたらどうすんの。マジでおさわりバーと間違われるよ」
「はぁ?お前何言ってやがる?」
ethlinの顔を覗き込もうと少ししゃがんで頭を下げると、俺の頭の上で何かが揺れた。
「歳三お兄ぃこそ何やってんの!こんなモノつけて!」
ethlinが俺の頭へと手を伸ばした。
「いてぇ!髪の毛ひっぱってんじゃねぇ!!ハゲるだろうが!!」
「ひゃっ」
半泣きの顔でethlinが手を離した。
「あっ…すまねぇ。でかい声出しすぎたな。しっかしお前髪の毛掴むなよ」
「…んでない…」
「なんだと?」
「掴んでないよ…髪の毛」
「嘘つくな。今思いっきり掴んで引っ張ったじゃねぇか」
「掴んでない…掴んだの髪の毛じゃない…髪の毛じゃないもん…歳三お兄ぃが頭に変なモノつけてるから…」
なんだよ変なモノってのは?
「ethlinお待たせ~ホットミルクだよ。寒いからブランデー入れてあげたよ♪ん?どうしたの?何?ドーナツの取り合いになったの?トシ~ethlinの為に買ってきたドーナツだよ。好きなの食べさせてあげなよ~大人げないな~」
「みちるねぇ…歳三お兄ぃが…」
俺がなんだって言うんだよ。
大人げないのはethlinお前だろ?
こんなにチビでも一応女子大生じゃねぇか。
カッコつけて護符を振り回してんじゃねぇ。
「みちるねぇ~歳三お兄ぃが…歳三お兄ぃが~バニーさん
になっちゃった~」
「ふざけんな!いい加減にしろ!俺がバニーガール
のわけねぇだろうが!!」
「ホントだ。トシ、いつの間にウサ耳
用意してたの?」
ウサ耳?
確かにみちるにバニーガールの格好をさせようとウサ耳は用意したが、あれはマンションに置いてある。
「あははは~トシ似合うね♪ethlinもウサ耳つけてさ~二人で餅つき大会したら。親子うさぎの餅つき大会!な~んてね」
「みちる…お前までふざけてんのか?」
「ふざけてんのはトシでしょ?」
みちるが呆れた顔で俺に手鏡を差し出した。
俺はひったくるように手に取り、痛みが残る部分を映してみる。
「おい…なんの冗談だ…こんなのありえねぇだろ…」
俺の頭には耳がついていた。
長くてふかふかの毛が生えた…
「みちるねぇ…歳三お兄ぃにウサ耳が生えちゃったよ…本物…本物だよ…おもちゃじゃないよ…どうしよう…」
2011年はうさぎ年。
静かな探偵事務所にウサ耳の男が一人。
半泣きのethlinの手には『兎』の文字が書かれた護符が握られていた。