10月も半ばを過ぎ、妖精の森も冷たい秋の風が吹くようになった。
昼寝をする赤ばらちゃんを部屋に送り届け、俺はリビングへと戻った。
テーブルでは白ばらちゃんと総司、佐之助と新八が集まって何かを眺めながら話し合いをしている。
「何やってんだ?まさか…また俺を嵌める計画でも立ててんじゃねぇだろうな?」
「嫌だな兄さん、クスクス…違うよ。それももちろん楽しいけどね」
「何だと…総司!てめぇ…」
総司の傍にどかどかと近寄ると、白ばらちゃんが俺の目の前に一枚のチラシを突き出した。
チラシの表題はこうだ。
Halloween Party in 妖精の森
「ハロウィン?妖精の森でもハロウィンなんてやるのか?」
ふとカレンダーを見ると、10月31日には赤ばらちゃんの文字で大きく『ハロウィン
』と書いてある。
「うふ♪妖精の森では毎年ハロウィンパーティーがあるのよ」
白ばらちゃんがニコニコと笑う。
「白ばらちゃんはね、白雪姫の仮装をするんだ。色の白い僕の白ばらちゃんにぴったりだ。そして僕は白雪姫にキスして助ける王子様…と言いたいところだけど、それじゃあ仮装にならないからね。白雪姫の白くて綺麗な首筋を狙うヴァンパイアだよ」
そう言いながら、総司は白ばらちゃんの首筋にキスをした。
「総司!赤ばらちゃんがいないからってイチャイチャしてんじゃねぇ!!」
「残念…じゃあ続きは夜…だね」
続きもクソもねぇ…お前らは毎晩イチャイチャしてるじゃねぇか。
くっそ…今晩も不眠決定かよ。
「…佐之助と新八は?」
俺は気を取り直して二人に向き合った。
「俺も総司と同じくヴァンパイアだ。白ばらちゃんは二人のヴァンパイアにエスコートされる白雪姫だな。まぁ…本当は俺が白雪姫にキスして助ける王子になりてぇけどよ…」
「ちょっと!佐之さん!!白ばらちゃんの王子は僕だけだからね!!」
「って事だ」
佐之助は軽く肩をすくめて笑った。
ったく…総司のやきもち妬きは今に始まった事じゃねぇ。
俺は軽く無視して新八の方を向いた。
「俺はよ♪森の義賊!ロビンフッドだぜ!源さんの店でおもちゃの弓矢を見つけたからよ♪」
お前におもちゃの弓矢を持たせても、その怪力でイノシシくらい撃ち殺しちまう気がするぜ(笑)
「この前赤ばらちゃんにロビンフッドの物語を読んでやったからちょうどいいな。赤ばらちゃんも喜ぶだろう」
ところが赤ばらちゃんの名前を出した途端、全員がため息をついた。
「何だよ…ため息なんかつきやがって…」
「歳三…赤ばらちゃんだけどよ…」
新八はチラシの下に書いてある赤い文字を指差した。
『お酒の飲めない方はご遠慮ください』
「あぁ…なるほどな」
赤ばらちゃんは16歳で一応は大人だ。
そうは見えねぇがな(苦笑)
しかしお菓子にしみ込ませたアルコールで十分に酔っ払えるほど酒に弱い。
酒を飲まねぇ俺よりも、さらに酒に弱いときたもんだ。
「入場を断わられる事はねぇだろうがよ…中は酔っ払いだらけだろ?そんなところに赤ばらちゃんを連れていったってつまんねぇしな」
「私は毎年赤ばらちゃんとお菓子を貰いに回ってたんだけど…」
白ばらちゃんは少し困った顔で笑った。
「ダメだよ!せっかくのパーティーなんだから今年は参加しようよ。酔っ払って赤くなった白ばらちゃん…クスクス…色っぽいだろうな」
「いい息抜きになるだろ?いつも俺達や赤ばらちゃんの世話ばっかりじゃあ、息が詰まっちまう」
なるほどな。
総司と佐之助の言っている事はよくわかる。
問題は赤ばらちゃんの面倒を誰が見るかって事か。
残りは俺と新八だが…
「新八、タダ酒が飲めるとありゃあ…お前が行かねぇわけがねぇよな?当日は俺が赤ばらちゃんについてやる。酒を飲まねぇモン同士で妖精の森の中歩き倒してやるぜ」
「歳三、いいのかよ?」
「あぁ、赤ばらちゃんのおやつ持ちくらい軽いもんだ。久しぶりの酒宴の場じゃねぇか…新八、楽しんで来い」
俺は新八の背中を思いっきり叩いてやった。
城にいた頃は退屈しのぎにみんなで集まってパーティーを開いて騒いだり、朝まで飲み明かしたりしたもんだ。
まぁ…俺はすぐに潰れちまうんだがな(苦笑)
特に佐之助と新八、それから新八の弟王子の平助は、何かと理由をつけては毎日のように飲みまわっていた。
花街でも女の子たちに『お祭り三バカトリオ』なんて呼ばれていたな。
「ところで兄さんは何の仮装をするの?」
「赤ばらちゃんは何の仮装をするんだ?」
白ばらちゃんが白雪姫なら…まさか七人の小人…ってわけじゃねぇよな?
「赤ばちゃんはね、今年は赤ずきんちゃんよ。去年は二人で白雪姫の小人さんの仮装をしたの。あと五人足りないから、バスケットに小人の人形を入れて合わせて七人にしてね」
なんだ…もう経験済みかよ(苦笑)
「赤ばらちゃんは赤が似合うからな…いいな、ぴったりだ」
赤ずきんと来たら連れは狼なんだが…
「兄さんは仮装なしでいいかもね。だって…兄さんは本物の狼なんだからさ…あははははは…」
ちくしょう…総司の奴、自分だけ元の姿に戻っているからって思いっきり笑いやがって…。
「あら…狼さんの仮装は赤ばらちゃんからリクエストを貰っているのよ。もちろん狼の仮装じゃないわ。今晩あたり衣装が出来上がるかしら♪なんの仮装かは…うふふ…当日までの楽しみにしておきましょう。狼さん、楽しみにして待っていてね。けして悪いようにはしないから♪」
悪いようにはしないからって…いつも白ばらちゃんと総司がつるんで俺に嫌がらせしてんじゃねぇか
!?
「歳三王子、確かに悪くはねぇ仮装だぜ。まぁ…今の状況じゃあ…ちょっとあれだけどよ。いや…悪くはねぇ。代わって欲しいくらいだからな」
まぁいい。
当日までの楽しみにしておくとするか。
赤ばらちゃんが喜ぶならどんな仮装でも悪くはねぇ。
…まさかお姫様の格好じゃねぇよな?
赤ばらちゃんはたまにとんでもない事を言い出すからな。
しかし佐之助が『悪くはねぇ』って言ってるんだ。
ここは佐之助の言葉を信じるぜ。
一抹の不安を残しながら…ハロウィンの日に何の仮装をさせられるかは、当日の楽しみに取っておくことにした。