気がつけばあっという間に時間が過ぎていた。
日曜日という事もあり、たくさんの子供達がイベントに参加してくれた。
イベント終了後もすぐに子供達が立ち去る事はなく、時間の許す限り子供達の相手をした。
ううん…楽しくて、楽しすぎて、相手をしてもらったのは私の方かもしれない。
今、私とゆきちゃんは私の机がある事務所でのんびりとお茶している。
「はぁ~楽しかったですね。ちょっと疲れましたけど」
ゆきちゃんは椅子の背もたれに寄りかかって背伸びをしている。
「ゆきちゃんのところに寄ってきた子供は男の子が多かったよね。んで、みんなキックしたりパンチしたりするの」
「童話の影響ですかね~。『狼は悪い奴だからやっつけろ』って言われましたよ『悪い子はおしおきするぞ!!』って言い返しましたけど」
「ゆきちゃん…それ…なまはげじゃない?」
「なまはげはかっこよくないけど、狼さんはかっこいいですよ。だって『孤高の狼』ですからね~。まぁ、私が狼さんだったらさしずめ『お調子者の狼』でしょうか」
二人でクスクスと笑い合う。
時計を見ると、早くも閉店30分前だった。
「うわ~今日一日早かったですね~。先輩、デジカメ持ってきたんで記念撮影しましょう。閉店したらみんなここに来ると思いますし、その前に二人だけで撮影会しましょ♪」
「デジカメって…ゆきちゃん、この企画の事前から知ってたの?」
「はい。先輩が休みの日に偶然事務所で企画書を見つけたんで、これは参加しないと!!と即立候補+推薦です」
ゆきちゃんはシレッとした顔でデジカメをチェックしている。
「土方さんと先輩はケンカ中ですからね…そうじゃなかったら手作りの招待状でも作って送りつけたんですが…残念です。随分と長いケンカですけど…まぁ、そんな時もありますしね」
「ケンカ中じゃなくても呼ばなくていいよ。恥かしいから…」
真っ赤な顔でそっぽを向くと、いきなりデジカメを向けられた。
「10月最後のメモリアルですうよ~♪たくさん撮りましょうね。なおさんにも見せないと~」
「やだやだ!変な顔写したらやだよ~」
私達ははしゃぎながらデジカメでお互いの写真を撮りあった。
騒いでいるうちに閉店業務を終えた社員が何人も事務所にやってくる。
ゆきちゃんと二人並んで写真を撮ったり、数人集まって写真を撮ったり。
やがて主任と課長、部長もやってきて、みんなで記念撮影をすることになった。
ゆきちゃんと私は仲良く二人で部長の左右を陣取った。
「先輩、楽しかったですか?」
「うん!すごく楽しかった♪ゆきちゃんありがとう」
「いいえ。先輩がいれば私はなんでも楽しめるんです。それに先輩が笑っていてくれるのが、私は一番嬉しいんです。あっ、撮るみたいですよ。さぁ!先輩、思いっきり笑ってください」
私とゆきちゃんはデジカメに向かって笑顔を向ける。
カシャッとシャッター音が響いた。
10月の一番最後の日。
ゆきちゃんと私はおとぎの国の住人になった。
数日後、私は先輩が夕方の休憩に行っている間に、出来上がった写真を整理していた。
「結構撮ったな~。これは先輩にあげて~これは…っと…」
先輩の歩く靴音が聞こえて、私は慌てて写真を封筒に入れた。
「ゆきちゃんお待たせ」
「いえ、ちょうどよかったですよ。今写真の整理が終わりましたし。はい!これは先輩の分です」
先輩は封筒から写真を取り出し、嬉しそうに笑いながら何度も写真を眺めている。
「うわ~よく撮れてるね~」
「被写体がいいんですよ♪」
「そんな事言ったってなんにも出ないよ」
先輩ははにかんだ笑顔を見せた。
(久しぶりだな、先輩のこんな顔を見るのは…)
「あとこれはなおさんにどうぞ♪私セレクトでご用意しました。ethlin先輩の雄姿をなおさんのメモリアルアルバムにぜひどうぞって♪」
「雄姿って…赤ずきんちゃんなのに?」
「先輩だから赤ずきんちゃんなんです。すごく似合ってました」
「ありがと♪ゆきちゃんの狼さんもかカッコかわいいだったよ。あっ、これ写真のお礼。写真代はまた別に払うから計算しておいてね」
小さなバスケットには焼き菓子が入っている。
「あれ?これ…斎藤さんのお菓子じゃないですか?もしかして…土方さんと仲直りしたんですか?」
「違うよ…おねぇに頼んで買って来て貰った。斎藤さんのお菓子を食べたら…やっぱり他のお菓子屋さんのモノより美味しいし…」
先輩は苦笑いしながら言葉を続ける。
「今は…今はまだ歳三さんには会えない。でも気持ちの整理がついたら…ちゃんと現実に向き合えるようになったら…会ってちゃんとお話するよ。ゆきちゃんが元気をくれたからね。だからきっと会える…会って…ちゃんと気持ちを伝えられる…」
「そうですね!焦る事ないです。Xデーはすぐそこですよ♪先輩は頑張り屋さんですから、すぐにその日が来ますよ」
先輩の小さな背中をバンっと叩くと、「そうだね」と小さく笑った。
「じゃあ!私は休憩に行ってきます!!手紙を書きたいので先輩の机を借りていいですか?」
私は写真の入った封筒ともう一つ、タウンページをこっそりと持ち出し事務所へ向かった。
机に座り、封筒の中の写真を念入りにチェックしていく。
「うん…これは入れないと…あとこの集合写真もね…先輩のこのショット…最高…」
写真を丁寧に封筒に戻すと、鞄からひとまわり大き目の封筒を取り出した。
タウンページを開き、送り先の住所を探す。
「はっはっ…花屋…えっと…生花店の方がいいかな?えっと…確か…しゃいんShine brightly桜花…あった!」
封筒に住所を丁寧に書き写していく。
「…Shine brightly桜花…土方…様。えっと私の住所をかくのは何だから~会社の名前と…名前はゆきだけでわかるかな?…YUKI…より…。土方さん、わからなかったらごめんなさい!でも中身を見ればすぐに送り主の正体は判りますからね~。決して昔の女からじゃないですよ~」
写真の入った封筒を大きめの封筒に入れて、丁寧に糊付けをする。
「後は切手を貼って…これでよし!うふふふ~先輩の赤ずきんちゃん姿はぜひお披露目しないとね♪随分と長いケンカですけど~これが仲直りのきっかけになればいいのに~」
少し外に出て、最寄のポストに投函した。
(これでよし…うふふふふ~土方さんどんな反応するかな~た・の・し・み)
「秘密♪秘密♪秘密だよ~♪先輩が男の子のキスされたのは秘密だよ~♪土方さんに写真を送りつけた事も♪絶対に♪絶対に♪秘密だよ~ん♪」
私は鼻歌を歌いながら、売場へと戻って行った。