9月も下旬に入り、日中は暑さが続いたりするものの、夜は寒いくらいだ。
昨日おねぇの部屋に泊まった時フローリングの床が冷たすぎて、慌てて電気ストーブを足元に置いて暖を取った。
お風呂上りに窓を開けると、少し寒すぎるくらいの風が吹き込んできた。
おねぇに貰った狼さん人形の手から紫色の風車を外し、腕を伸ばして窓の外に出してみる。
一瞬強い風が吹いて、風車はカラカラと音を立てて回った。
「赤は元気が出る色で…紫は綺麗で粋な感じで、竜胆みたいに少し秋を感じさせるから…それに…」
紫は…少し寂しそうなあの人を思わせるから…。
それが紫の風車を選んだ本当の理由だ。
夏祭りでこの風車と一緒に選んだ赤い風車は、誰の手に渡ったのだろうか。
本当は知っている。
私はきっとその答えを知っている。
あの人が傷つけてしまった、けして忘れる事も離す事もできない、一番愛おしくて悲しい織姫の手元にあるはずだ。
初めてみちるさんの存在を知った時から、私はみちるさんには敵わない事を知っている。
でももし…みちるさんがこの世にいないのなら…私は歳三さんの一番になれるのかもしれない…とも思った。
人を嫉み人の死を願う…そんな自分が浅ましくて、嫌で、見たくない。
人の不幸を願う自分は、小さくとも幸せなど手に入れられるわけがない。
自分の幸せを願うために他人の幸せを願う…そんな計算高くいやらしい考えが私の脳裏を離れない。
私はずるくて嫌な人間だ。
七夕の夜、歳三さんはみちるさんに会いに行くのだとすぐに思った。
あの時は生きているのか死んでいるのかもわからなかったけど、あの人はみちるさんに会いに行くのだと思った。
だからあの七夕の日、私はみちるさんの為に天の川に願った。
『みちるさんが心安らかでいられますように』
悲しい恋人達が、一日だけでも心の傷を癒せたらいいと思った。
心からそう思っているのに、心から願っているはずなのに、あの夜歳三さんの心がみちるさんにあるのだと思っただけで涙が出た。
私は汚れている。
私は嫉妬にまみれた汚れた花だ。
人から愛される資格のない汚い花だ。
「だから自分が歳三さんの事嫌いになればいいんだよ。私が嫌いになって…私から離れれば、誰も傷つかない…。そしてもう誰も…誰も好きにならなければいい…」
何度も何度も繰り返し、たどり着く答え。
でもどうしても嫌いになれない。
忘れる事なんて出来ない。
私の名を呼ぶ声も笑い声も、頭を優しく撫でてくれる大きな手も…忘れる事なんて出来ない。
あの人の心の中に私がいないと知っていても、この気持ちを…私はこの大切な気持ちを消すことが出来ない。
想いが強くなればなるほど胸が苦しくて…辛くて…切なくて…私は黒く穢れていく。
いつか全てを知ってしまう。
いつか不安が現実になる。
いつかきっと…自分は傷つく事になる。
その時きっと穢れた私が…私の大切な桜花を傷つけてしまう。
穢れた私を見られたくないから…だから私は自分の心に鍵をかける。
誰にも見られないように…
誰にも気づかれないように…
自分の目にも入らないように…
深く…深く…心の奥へしまい込む。
窓を閉め、風車を狼さん人形の手に戻した。
狼さん人形は相変わらず眉間に皺を寄せている。
私は狼さん人形をそっと抱きしめた。
眉間の皺をそっと指で撫でながら、ふと笑い声をもらす。
「歳三さん、そんな顔しないで下さい。私の好きな歳三さんはいつも笑っています。だから笑って…貴方が笑っていられるのなら…そのためならどんな罪も罰も一緒に背負うから。私はこれ以上、どんなに心が穢れてもかまわない…だから…笑って…笑って…ください…」
静かな部屋に私の嗚咽が響く。
泣いても何も解決しないとわかっているのに…。
「苦しいの…どうしたらいいか…もう…自分ではわからない…」
机の上の携帯がチカチカとメールの着信を知らせる。
優しく『星に願いを』のメロディが流れた。
Like a bolt out of the blue
Fate steps in and sees you through
When you wish upon a star
You dream comes true
星に願いをかけるなら
運命は思いがけずやってきて
いつも必ず
夢を叶えてくれるのです
だから私は星に願う
私の大好きな人が笑っていられるように
私の大切な桜花が寂しく散ってしまわないように
私はほんの少しの幸せでいいから…
私の愛する人が、いつまでも幸せでありますように