汚れた花 ~ ヨゴレタハナ ~ ③ | ethlinの煩悩毛だらけ

ethlinの煩悩毛だらけ

煩悩さらけ出し日記

ピンポーン♪


「はいはーい」


玄関を開けると妹のethlinが満面の笑みを浮かべて立っていた。


「おねぇ~来たよ~ん~♪今日のお土産はあんずの木の栗入りガトーショコラ~」


「おっ!いいね、秋らしくて。紅茶よりコーヒーが合うかな?」


「私濃い目のコーヒーにミルクたっぷり~」


「夜に濃い目のコーヒー飲んだら眠れなくなるでしょ」


クスクスと笑いながらethlinを部屋に招き入れる。


ethlinがおなじみの黒いリュックを背中から下ろすと、ドスン…ガチャっと重い音がした。


「はぁ…重かった…」


「まさか…ダンベルでも入れてきたの!?」


「まさか~」


ethlinはうーんと背伸びをしてリュックのチャックを開け、ガチャガチャと音を立てながら箱を取り出した。


「これおねぇにあげる。会社で無料配布してたんだって。ゆきちゃんが一箱余分に貰ったから、おねぇにどうぞ~って」


箱を開けると小さな瓶が数本入っていた。


「バラで貰ったやつね、ゆきちゃんと飲んだけどさ~激マズ!!私もゆきちゃんも、もう飲まないね」


「激マズって…栄養ドリンクだし、味は二の次なんじゃない?」


小瓶を手にしてラベルを眺めてみる。


(あれ…これって…)


「おねぇも知らないでしょ?そんな製薬会社」


「ん~この前お店に来た新見って新規のお客様が置いてったサンプルと一緒のところかな~。確か…こんな名前だったと思う」


冷蔵庫を開けて中に入っているピンクのラベルの小瓶を取り出した。


「やっぱりそうだ。うちはね~美容にいいってやつ貰った。スタッフが女の子だけだからね」


「えぇ!!」


ethlinは河豚のように頬を膨らませぷんぷんと怒り出した。


「うちの会社だって女の子…つーか女子社員の方が多いのに!?も~どうせならそっちの方がよかったよ~」


ピンクのラベルの小瓶を眺めながらぶつぶつと文句を言うethlinの頭をそっと撫でてやる。


「ピンクの方もたいして美味しくなかったよ」


「マジ!?はぁ~この製薬会社は終わりだね…。やっぱり改良の余地大ありだよ」


「ここの会社の偉い人だったな…新見様って人。山南さんみたいなインテリ眼鏡系の人だった。また来ますって言ってたし、会ったら感想伝えておくよ。『食いしん坊二人組が味の改良が必要です』って熱弁してましたって。


ethlinに貰ったドリンクを箱ごと冷蔵庫に押し込み、ドアポケにピンクの小瓶を入れた。


「さぁ晩ご飯の準備しよ♪ethlinは何食べたい?」


ethlinは冷蔵庫の中を覗きながらうーんと唸っている。


「最近ちょっと胃が重いから、軽めのモノがいいかな…ガトーショコラはどうしても食べたいから買ってきたけど。パスタ…オイル系か和風のさっぱり系のやつ。あとサラダと…あっ!練り梅あるから梅ドレッシング作ろうよ」


ethlinは冷蔵庫を閉めて、今度は野菜のストックを漁り始めた。


「また?仕事のストレスかな?」


生真面目な妹は会社勤めを始めてから『胃が痛い』『胃が重い』という事が多くなった。


元々他人にはっきりとモノを言える性格ではない。


そのくせ仕事に関しては意見を譲らない事も多いらしい。


ethlinと仲良くしている後輩のゆきちゃんが「先輩は意外と頑固だから」と笑っていた。


「じゃあ鶏のささ身があるからささみと大葉の和風パスタにしようか♪サラダはドレッシングだとさっぱり過ぎるし…梅マヨのポテサラはどう?」


「オッケ~♪じゃあ私はサラダの準備する~」


「ん、任せるね。ささ身と練り梅とマヨネーズと…」


再び冷蔵庫を開けると、ドアポケからピンクの小瓶が転がり落ちた。


じゃがいもを手に流し台へ向かうethlinの足元へと転がり、まったく気がついていないethlinの足が小瓶にひっかかった。


「あっ…!」


小さな悲鳴と同時に手からじゃがいもが転がり落ちた。


慌てて体勢を整えようとしながらも、バランスを崩した小さな体はバタンと床に倒れた。


「ethlin!!」


慌てて駆け寄り、床に寝転がったままぼんやりとしているethlinを抱き起こす。


「大丈夫?頭打ってない?肩は?背中痛くない?」


「…大丈夫。自分で言うのもなんだけど、上手く倒れたし…ごめん…瓶踏んだ。割れてない?」


エヘヘと笑いながら頭を掻くethlinについ大きな声で怒鳴ってしまった。


「馬鹿!!あんなドリンク剤なんてどうでもいいよ!もっと自分の心配しなさい!頭打ったらどうするの!打ち所悪かったら…ホントに死んじゃうんだよ!!」


大声に驚いたのか、ethlinの体がビクッと振るわせ、目を見開いて私をじっと見つめている。


「あっ…ごめん…そうだよね…そうだよ…死んじゃうんだ…さっきまで生きてても…人間って簡単に死んじゃうんだった…」


ethlinは目にうっすらと涙を溜めて、黙りこくってしまった。


「ごっ…ごめん…ちょっと強く言いすぎた…」


様子がおかしい事に焦りながら優しく頭を撫でてやるものの、ethlinは心ここにあらずといった感じでぼんやりとしている。


「ううん…大丈夫…ちょっとびっくりしただけ。それに…人間って簡単に死んじゃうんだよ…さっきまで生きてても…次の瞬間に…死ねるんだ…そう思ったら怖くなった…」


甘えるようにぎゅっと強く抱きしめられた。


「おねぇ…勝手に死んじゃ嫌だよ…私を…置いていかないでね…」


ethlinは目を潤ませてグスグスと泣き出してしまった。


「ばかだな~何泣いてんの?そんな簡単に死ぬわけないでしょ。それにethlin置いて死ねないよ。まったく…いつまでたっても甘えん坊なんだから」


「うん…うん…」


グシグシとしゃくりをあげて泣くethlinの背中を、何度も何度も優しく撫でてあげる。


「会社で何かあった?」


「うん…ちょと…」


「大丈夫だよ…何があってもおねぇがいる。おねぇがついてるから…怖くない…」


私はethlinの小さな背中を守るように、ぎゅっと強く抱きしめた。