お土産のドーナツを片手に、私はスキップしながら探偵事務所へと向かう。
「佐之助さんっていい人だよね~。お土産にドーナツまで買ってくれてさ♪ちょっと服装が変だけど~人間完璧な人間なんていないモンね。まぁ…ちょっと…アレな人だけどさ…」
私は佐之助さんとの別れ際の事をふと思い出した。
『んじゃ…ちゃんと金は払いに行くからな。今度事務所に顔出した時は美味い酒でも出してくれよ』
『うちはお触りバーじゃありません!!』
『お触りバーって…商売になりそうなねぇちゃんは一人しかいねぇじゃねえか』
脹れる私の頭を佐之助さんがそっと撫でたその時、私は佐之助さんから香る匂いの正体をはっきりと確信した。
『どうした?』
『あっ…いえいえ…何でもないです。お酒は出せないけど、紅茶かコーヒーなら出せるかな?佐之助さんのお気に召すかわかりませんが』
『それなら最初に訪れた時もそれを出して欲しかったぜ…。まぁいいか…んじゃあな、ガキは真っ直ぐ帰れよ』
軽く手を上げて立ち去る佐之助さんの背中をジっと見送った。
(はぁ…まさかと思ったけど…やっぱり…あんなに綺麗な顔してるのに…人って見かけで判断したら…やっぱダメなんだな…)
事務所の階段を元気よく駆け上がり、ドアを開けようとして、一旦手を止める。
(どうしよう…いきなり入ったら…ヤバイかもね…(//・_・//)。ノックする?チャイム鳴らす?電話してみる?)
ドアの前で躊躇していると、後ろから新八さんが現れた。
「おっ…ethlinちゃん…その…学校の帰りか?」
昨日私が泣いて暴れて新八さんの事も責めたから、どうやら気まずいらしい。
「新八さん、こんにちは。えっと…昨日はごめんなさい…新八さんがお酒で飲んだくれて寝ちゃったとしても、結局部屋の進入を許したのは、御札に効果がなかったからだもんね。ホントごめんなさい」
ペコリと頭を下げると、気にすんなよと豪快な笑いが響く。
「まぁ…土方さんも敵を甘く見てたとこもあるしな…これ以上はなおちゃんに被害が出ないように全員全力であたらねぇとな。それに吸血事件も後をたたねぇしよ…」
おねぇが総司というヴァンパイアに出会った少し前から、この街では吸血事件が多発している。
貧血状態で発見される被害者もいれば、全ての血を抜き取られミイラ状態で見つかった遺体もある。
さらに酷いのは、食い散らかしたかの様に血まみれの死体が転がっていた事も…。
(これ以上おねぇに手を出させない…ヴァンパイアの仲間になんかさせない…絶対におねぇを守るんだから…)
グッとガッツポーズを取る私の手のドーナツの箱を一瞥し、新八さんは手を伸ばした。
「おっ!ドーナツのお土産つきかよ♪さっそく食べようぜ~。おーい土方さん今帰ったぞ~」
新八さんは躊躇もせずドアを開けて中に入ってしまった。
「あぁ~新八さん!!いきなり入ったらデバガメになる可能性が~
」
私の叫びもむなしく、歳三お兄ぃの罵声が事務所中に響き渡った。
「歳三お兄ぃ、これお土産」
「なんだ?ゆきちゃんと寄ってきたのか。あんずの木じゃねぇのか?珍しいな」
「ん~あんずの木に行く途中で、あの夏にお金払わずに窓から逃走したホストクラブの人に会ってね、お金払ってって追っかけたら…途中で息切れ切れになって~介抱してくれたついでにドーナツ奢ってくれた。んでお土産も買ってくれた」
コーヒー豆を人数分用意してお湯を沸かす。
「お金払わずに逃げたくせに、ずいぶん親切にしてくれたのね。えっと…原田佐之助さん…だっけ?」
「そうそう、来週の頭にはお金払いに来るって。みちるねぇにくれぐれもよろしく~だって」
「まさかみちる目当てにくるんじゃねぇだろうな?原田って野郎は
」
ゆっくりとコーヒーサーバーにお湯を注ぐ。
コーヒーの甘い香りが事務所中にフワフワと漂う。
「ちゃんとみちるねぇのお触り料も上乗せして請求したから大丈夫じゃないかな?それにあの人女の人に不自由してない感じだったし…信号待ちで逆ナンされてたもん」
「くっそ!羨ましい…女の子の方から寄ってくるなんてよ…チクショー!!俺だって彼女が欲しい!!」
「新八さんの場合、お馬さんと競馬新聞が彼女じゃん!!」
ジロリと新八さんを一瞥し、温めたカップに均等にコーヒーを注ぎ分ける。
「…ethlin、お前コーヒー入れるのずいぶんと美味くなったな。最初は色水みてぇで…クッククク飲めたモンじゃなかったけどよ」
そりゃあ紅茶派の私だけど、歳三お兄ぃがコーヒー派だったら…美味しいの飲ませてあげたいもん。
「ホント、いい匂い。歳が入れるより美味しいかもね」
「ホント?みちるねぇありがとう♪」
自分もカップを持ち上げ、鼻に近づけて香りを嗅ぐ。
コーヒーの甘く苦い香りが鼻腔をくすぐる。
「歳三お兄ぃ…あの佐之助さんって人…もし、お金払いに来た時に何か依頼を頼んでも…見合わせた方がいいかもしんない」
私は佐之助さんから香った匂いを思い出していた。
「金払い悪いからか?」
歳三お兄ぃがドーナツを半分に割って、私によこした。
ありがと♪と受け取り一口齧る。
佐之助さん別れる間際にはっきりと感じた匂い…・
麝香系の香水に混じって香るあの匂いは…
「あの人…血の匂いがした…それも少しじゃなくてたくさんの…血の匂い…」
どんなに身体を洗っても、身体に染み付いた血の匂いは誤魔化せない。
私には…あの匂いを誤魔化す事は出来ない。
「お前はそういうところは鼻が利くからな」
歳三お兄ぃはじっと私の顔を見つめている。
「きっとさ…ヤクザ関係だよ。あんな容姿でさ…以外だけど。変に依頼受けたら…厄介ごとに巻き込まれるだけかもしんない…」
この時私は佐之助さんまでおねぇに関わっているなんて、知る由もなかった。