交差点まで戻り、広い喫茶スペースのあるドーナツ屋に入った。
ドーナツを適当に選び、アイスコーヒーとアイスミルクを持ってテーブルに戻る。
クソチビは涼しい店内で少し落ち着いたのか、キョロキョロと辺りを見渡している。
「ほら、俺の奢りだ、食え」
「わぁ~美味しそう♪はらださのすけさんありがとう♪」
店内に入ってもなお、あの甘い淡い匂いは漂っていた。
(まさかな…)
嬉しそうにドーナツを頬張るクソチビをジロジロと観察する。
ぶかぶかの男物のシャツから見える腕も、首筋も日焼けしてまるで色気がない。
(姫さんも少し首が日焼けしてたが…こう…なんて言うか…色気があるんだよな…って言うか…親父のシャツでも着てきたのかよ?)
少し肌蹴た襟元から、十字架のネックレスが見えた。
(俺には効かねぇけどよ…やっぱりいい気分のもんじゃねぇな…って言うかガキのクセに色気づいてんじゃねぇ!!)
胸は寄せて上げる肉もないんじゃないか?ってくらいボリュームがない。
ボリュームがない以前に…板だな…これは…。
(姫さんもよ…ボリューム不足だけどな…こう…色香ってモンが漂ってんだよな…って言うかこの世に寄せて上げる下着があるって事知らねぇんじゃないか?まぁ…ガキには無用の長物か…)
一通り観察してみたが、あのいい匂いのする姫さんとの接点はまったく見つからない。
「はらだぁさのすけしゃん…どーにゃつ…ムグ…ん…んんん…ドーナツ食べないんですか?」
「甘いモンは嫌いじゃねぇが、今は違うモンが食いたくてな…」
「ふーん…」
クソチビはジロジロと俺の顔を観察し始めた。
「なんだ?クソチビ」
「クソチビじゃないです。ethlinです」
「それなら俺もはらださのすけなんてフルネームで呼ばなくてもいい。佐之助って呼べ」
「佐之助さん?」
「そうだ」
ethlinはアイスミルクを一気に飲み干し、一息ついてこう切り出した。
「佐之助さん、この前の初回料払ってください。あと歳三お兄ぃがみちるねぇの手握った料金もふんだくれって」
「お前…ガキのクセに集金係かよ」
「ガキじゃないです。大人です」
鞄をごそごそと漁り、俺の目の前に自慢げな顔でカードをかざす。
「…お前…そんなナリで女子大生かよ…」
「そんなナリって…どう見たって大人じゃないですか~?」
ethlinはふて腐れながら学生証を鞄にしまう。
(世の中にはいろんな女がいるもんだ…今日改めて思い知らされた…)
「で?いくら払えって?」
ethlinはうーんと唸って8千円と答えた。
「お前…適当に答えただろ?」
「だってみちるねぇのお触り料金なんて設定してないもん」
「仕方がねぇ…あのグラマーなねぇちゃんはいつでも事務所にいるんだろ?来週の頭にでも払いに行く」
「ホントですか~?」
ethlinは疑いの目を俺に向けた。
「あのなぁ…男に二言はないんだよ!払うって言ったモンは払う。絶対に約束する」
ethlinはじっと俺の目を見つめ、やがて素直にわかりましたと答えた。
「佐之助さん、根は…悪い人じゃなさそうだモンね。ドーナツ奢ってくれたりして。ただ…」
「なんだ?」
ethlinは一瞬顔を顰め、何でもないですと呟く。
「クライアントのプライベートに口出しちゃあ~ダメですもんね。まぁちゃんとお金払ってくれればそれでいいし、それ以上の依頼を受けるかは…お兄ぃが決める事だし。佐之助さん、ドーナツ本当にごちそうさまでした」
鞄を手にして立ち上がった拍子にethlinの鞄の中身がぶちまけられる。
「あぁ~」
「ったく…何やってんだ…」
荷物を拾ってやると、教科書とノートの間に見たことのある御札らしきものがチラリと見えた。
(なんだ?御札って流行ってんのかよ…まったく…人間のガキどもの考える事は理解出来ねぇな…)
「ほらよ…。延滞料のかわりに兄さんとグラマーな姉さんに土産買ってやるよ。くれぐれもグラマーな姉さんにはよろしく言っといてな」
(結局甘い匂いの正体は判らなかったな…。まぁいいか。この街に最低もう一人は姫さんと同じ『最高の血』の持ち主がいるかもしれぇって事だ…。次回に期待だな)
ドーナツのケースの前で欲張るethlinの頭を小突きながら、俺はぼんやりと姫さんの事を考えていた。