「あ~どっかにグラマーなおねぇちゃんはいねぇかな~」
昼過ぎの繁華街を歩き、行き交う人々をじっと観察する。
「いや…ただグラマーなねぇちゃんは探せばいくらでもいるな…。本当はグラマラスで…さらに甘い甘い…あの総司が骨抜きにされた姫さんみたいな甘い血の女がいいんだが…」
彼女を最初に見つけたのは総司。
彼女も総司が好きで、総司も彼女が好きだ。
羅刹を斬りつける姿を見られたと家に引きこもり死人のようになっていた総司を挑発して、あの姫さんの元に呼び寄せたのは俺だ。
「ボリューム不足だけどよ…結構別嬪さんだしよ、あの綺麗な足、綺麗な首筋、なんと言ってもあの甘い血のニオイ…俺のモンにしとけばよかったかな?」
そうは言うものの、手出しをする事はなかっただろう。
総司は必ず来る。
あの姫さんのために必ず来ると…あの夜俺は信じていた。
「まっ♪総司も血の誘惑に耐えながら姫さんを大切にするんだからな♪後は二人の問題だ。俺は俺で最高の花嫁を見つけないとな」
ふと風に乗って甘い血のニオイがかすかに鼻をくすぐる。
(姫さんが近くにいるのか?)
それにしては淡く頼りなく香る甘い匂い。
(もしかしたらあの姫さんの他に『最高の血』を持つ人間がこの街にいるのか?)
ニオイを辿りながら街を歩くが、匂いの持ち主は見つからない。
人の多い交差点まで来たが、変わらず淡い匂いしか感じ取れない。
信号待ち中に派手な女に声をかけられた。
(まぁ…綺麗に着飾っていてもよ…血が美味いとは限らねぇんだよな…)
待ち合わせだとやんわりと断り、交差点を渡る。
前へ進んでも匂いの強さは変わらない。
(もしかしたらドーナツ屋の匂いか?それとも姫さんの血の匂いにあてられたか…)
小さな信号が点滅するところをすばやく渡り、そろそろ手っ取り早く適当な獲物を探そうかと思ったその時…
「は・ら・だ・さ・の・す・け・さーん!!」
可愛げのない声が俺の名を呼んだ。
「なんだ?」
後ろを振り向くと、あの忌々しいガキが信号待ちをしている。
「あいつ…ニンニクのクソチビじゃねぇか!」
夏に鄙びた探偵事務所に足を運んだ時、よりによってニンニクを大量投入した豚キムチを俺の目の前に出したクソガキに間違いない。
無視して歩きだす。
が、クソチビが息を切らしながら走り寄って来て、俺の腕にすがりついた。
「はぁ…はぁ…はぁ…やっと捕まえた…はらださのすけさん…」
顔を顰め腕を振り払おうとすると、ガキは大声で叫びだした。
「お金…お金…お金…払ってください…あの時のお金、払ってくださーい!!」
(おい、ちょっと待て…あん時の依頼は10分の1も達成されてねぇぞ。しかも献血センターを紹介されそうになるし…そんな状況で金払えだと…)
しかしクソチビは熱い中を走ったせいか息を切らせ、喘ぐように言葉を続ける。
「初回料…払ってない…払ってくれないと…私…ご飯食べていけない…まず初回料が5千円で…正式に受付して全部で1万円…その後は…1日約3時間はがんばったとして…」
(いくら鄙びた探偵事務所でも、5千円払わないくらいで飯が食えねぇわけねぇだろ…。しかもこんな板胸のチビに金払わなかったっていったら…)
「おいおい…俺が児童買春した挙句、金払わずに逃げたみてぇじゃねぇか!!」
しかし耳に入ってないのか、もはやうわごとのように言葉を繰り返す。
「みちるねぇへのお触り料金を上乗せすると…」
「とにかく…こんなところで話してちゃあ誤解される。しょうがねぇ…どこか店の中に入るぞ」
(ちくしょう…峰不二子ばりのボディのねぇちゃんなら、迷わずホテルに連れ込むのによ…なんだってこんなガキの相手しなきゃいけねぇんだ…)
淡く香る甘い血の匂いは変わらず俺の鼻をくすぐる。
この誘惑を断ち切る事は耐え難いが、今はこのチビをどうにかしねぇとまるっきり俺が悪者扱いになっちまう。
クソチビを抱え、近くのドーナツ屋へと歩き出した。