「ねぇねぇゆきちゃん!秋の新作スイーツ出てるかな~。栗のケーキとかぶどうのパイとか~」
授業が終わり、私はいそいそと教科書を仕舞う。
「出てるよ。ほら…じゃーん!あんずの木新作スイーツ5%OFFクーポン券」
鞄からチラシを取り出し、ひらひらと私の前に翳す。
「やった~!!なになに…丸ごと渋皮マロンのガトーショコラ…これ!これ食べる♪」
「やっぱり~♪私はねぇ~やっぱりモンブランかな?でもちょっとづつ分けっこしようよ♪」
「するする♪早く行こうよ~」
はしゃぐ私を見てゆきちゃんがクスクスと笑う。
「ethlinちゃんもったいないな~。そんな無邪気なところがかわいくてほっとけないから紹介してって…何人かに言われてるんだけどなぁ~」
「興味ないよ、今んとこ。歳三お兄ぃ並にかっこいいイケメンなんて、そうそういるわけないじゃん」
かっこいいだけじゃない。
優しくて、強くて、真っ直ぐで…まぁちょっと大人げないところもあるけれど(苦笑)、そんなところひっくるめて全部好きなんだから。
ダテに20年近く歳三お兄ぃの事追っかけてるんじゃないだからね。
あんずの木に向かう途中の大きな交差点で、ゆきちゃんが私の腕を引いた。
「ねぇねぇ~♪すっごいイケメン発見♪超セクシーじゃない?モデルかな?それともホストクラブの人?」
指差す方向に目をやれば、夏に一度事務所に依頼に来て、初回料も払わず窓から逃げ出したホストクラブの人(推定)が立っていた。
間違えるはずがない。
長身、赤毛、肌は白く、離れていても人の目を引くくらい目立つ容姿。
その証拠に近くに立っている女の人に声をかけている。
「あっ…あの人…あんなところで客引き?」
「なに?ethlinちゃん、知り合い?」
誰か人を探しているのか女の人の誘いを断り、キョロキョロと周りを見渡している。
やがて信号が青に変わり、ホストクラブの人は私達とは反対側へと渡っていく。
「あぁ~取り逃がしちゃう
。ゆきちゃんゴメン!あんずの木はまた今度!あぁ~合コンの結果はどうでもいいけどついでに教えて~」
大急ぎで追いかけるけれど、悲しいかな…足の長さが違うためどんどん距離が広がって行く。
(ここで見つけたのは神の啓示。お金はしっかりふんだくりなさいって事だよね。絶対に逃さないから…)
次の信号をホストクラブの人が渡りきったところで、信号が赤になった。
信号無視して走ろうにも、車が次々と前を横切り渡る事が出来ない。
(どうしよう…どうしよう…)
モタモタしている間にも、どんどん距離が離れていく。
「あぁぁぁぁぁ…あの…ホストクラブの人…えっとえっと…は・ら・だ・さ・の・す・け・さーん!!」
私は出せるだけの声を振り絞り叫んだ。
結果、はらださのすけさんは振り向き、私の顔を見て明らかに嫌な顔をした。
信号が青になったところで猛ダッシュをして、立ち去ろうとするはらださのすけさんの腕を掴んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…やっと捕まえた…はらだ…さのすけさん…」
「お前…あん時の…」
顔を顰めるはらださのすけさんに詰め寄り、大きな声で叫ぶ。
「お金…お金…お金…払ってください…あの時のお金、払ってくださーい!!」
「おい…ちょっと落ち着け…」
「初回料…払ってない…払ってくれないと…私…ご飯食べていけない…」
秋とは言え日中はまだ暑い。
急に走っておまけに大きな声を出したせいか、少々目眩がしてきた。
しかしお金の事はしっかりと訴えなくてはと、腕をがっしりと掴みしゃがみながら息も切れ切れに言葉を続ける。
「まず初回料が5千円で…正式に受付したら全部で1万円…その後は…1日約3時間はがんばったとして…」
「おいおい…俺が児童買春した挙句、金払わずに逃げたみてぇじゃねぇか!!」
何か怒鳴られたけれど、頭がぼんやりしてよく聞き取れない。
「みちるねぇへのお触り料金を上乗せすると…」
「とにかく…こんなところで話してちゃあ誤解される。しょうがねぇ…どこか店の中に入るぞ」
はらださのすけさんは私を抱えるようにして歩き出した。
どこかで嗅いだ事のあるニオイが私の鼻をくすぐる。
(麝香系の香水…それと…なんだっけ…)
やがてドーナツの甘いニオイで私の頭の中はいっぱいになった。