空に舞い散る夏の花 ~夏祭り~ ⑦ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

(どうしよう…どうしよう…)


私は見てはいけないモノを見てしまった。


沖田さんの秘密。


沖田さんの心を変えた…秘密を。


「コロボックルちゃん、どうしたの?」


ふいに沖田さんに声をかけられ、心臓が跳ね上がった。


「あっ…沖田さん…」


私は顔を上げる事が出来なかった。


「……まぁいいか…あんまりちょっかい出すと、土方さんにまた嫌味言われるしね~」


どうしようもなくびくびくしていると、お客様が来たためか沖田さんは私の傍を離れた。


自分でもびっくりするくらい、大きなため息が漏れた。


(ヤバイ…沖田さんの顔見れないよ…)


急に子供の泣き声が耳に入り、顔を上げると歳三さんが男の子を相手に困った顔をしている。


(クス…歳三さん子供の相手下手だなぁ~)


立ち上がろうとすると、近藤さんの姿が見えた。


近藤さんが歳三さんに声をかけ、子供を高く抱き上げる。


一言二言何かを話しすると、歳三さんがこっちへ近づいてきた。


「ethlin待たせたな。夏祭り行くぞ。…どうした?少し顔色が悪い…」


「えっ!あっ…なんでもないです。あっあの…さっきぬいぐるみが取れたから興奮しすぎて…その…」


何とか平静を装い、もごもごと適当な言い訳をしてみる。


「ふっ…お前はホント子供だな…今からが本番だろうが…。この会場内だけじゃねぇ、外にもたくさん店がある。興奮しすぎてぶっ倒れるなよ」


(そうだ…今日は夏祭りを楽しむ日だった)


「はいっ!って…ん?…そっそんな!興奮して倒れませんよ!!/////」


「クッククク…そうか?まぁ、倒れても担いでやるから安心しろ」


「もう…」


ふて腐れる私の手を取りぎゅっと握る。


歳三さんの熱いくらいの体温が手から流れてくる。


「手…離すなよ。おめぇみてぇなちいせぇ奴を探すのは、一苦労するからな」


「はい…」


私も歳三さんの手を強く握り、私達は会場の外へと歩き出した。






「わぁ~来た時はまだまだだったけど、あっという間に外にもたくさん屋台が出来てる。すごく大規模なお祭りなんですね」


外には浴衣姿の女の子の手をひく男の子達、小さな子供を追いかけるお父さんとお母さん、そしてはしゃぐ学生達でいっぱいだった。


目に入るものすべてが懐かしく新しい。


これで子供に「はしゃぐな」と叱っても、それは出来ない相談だろう。


見るモノ全てに歓喜の声を上げる私を見て、歳三さんはクスクスと笑う。


「言ってる先から興奮してるじゃねぇか…。仕方ねぇ奴だな」


「だって…こんなお祭り初めてかも♪あっ!りんご飴だ!たい焼き美味しそう♪」


「射的でぬいぐるみに大はしゃぎの次は食いモンか?ったく…お前らしいな」


「歳三さん、たい焼き食べましょう♪あっ!白たい焼きがある~。うーんカスタードも捨てがたいな…」


お店の前で唸る私の頭を撫でながら、しょうがねぇなと歳三さんは笑う。


「じゃあ一個ずつ買って半分こだな」


温かいあんこの白たい焼きとカスタードのたい焼きを一つずつ手に取り、食べながら二人歩く。


「美味しい!白たい焼きめちゃ美味しい!!」


「クリームの入ったたい焼きもうめぇモンだな…」


「でしょ?クリームチーズも捨てがたいんですよね~。はい、これ半分こです」


半分に割ったたい焼きを差し出すと、唖然とした顔で見つめられた。


「ん?どうしました?」


「どうしたって…口の周りが…おめぇ…ふっ…あんこだらけじゃねぇか…」


「えっ?嘘!!やだ!!」


慌てるわたしの肩を軽く抱き、そっと指で口の周りをなぞる。


「こら、じっとしてろ…」


「んんん…/////」


指に残るかすかな煙草の匂いにドキドキして動けなくなる。


「ほら、取れた。ったく…ガキだな、おめぇは」


「どうせ…子供…ですよ…。ぬいぐるみで喜んだり、口の周りにあんこつけてたりして…全然大人っぽくないし…」


「なんだ?総司の言った事…気にしてるのか?」


沖田さんの名を聞いて心臓が跳ね上がる。


「あっ…えっと…」


意地悪を言われた事よりも、さっき見てしまった光景が忘れられない。


「あいつは…お前にやきもち妬いてるんだ。あいつは小さい時に近藤さんの家に引き取られて、大人の中で暮らしてきた。志衛館に出入りしてた連中はみんな弟のように可愛がったが歳が離れすぎていたからな…お前と姉さんみたいに自然に仲良くしているのが羨ましいんだろう。お前に意地悪するのは嫉妬心からだ。ある意味…総司の方が子供だな」


今ならわかる。


沖田さんが私にやきもちを妬いてるって事も。


「…前にも言ったな?姉さんと比べるな。お前にはお前の良さがある。お前だけの良さがある。お前は姉さんじゃない。何でも出来る姉さんでも、お前にはなれない。そうだろ?」


「…わかります…わかりますけど…」


「けど…なんだ?」


「私の良さって…私らしさって…なんですか?」


いつも押しつぶされそうになる。


自分に自信が持てない。


大人になれない。


この人に愛される…自信がない。


「真っ直ぐなところ…だな…」


「真っ直ぐな…ところ?」


「一度決めたらそのまま突き進むだろ?信念を曲げようともせず、危ないとしてもお構いなしに走り出して…弱点でもあるが、それがお前の一番のいいところだ」


「歳三さんも…ですよね?自分の信じるモノに真っ直ぐで…」


じっと意志の強いその目を見つめる。


この人は不器用に生きていて、自分が傷つく事はいとわない。


だから大切な人を傷つけてしまったと、後悔と悲しみを背負って生きている。


「後は…他人の事ばっかり気にするところだ。その優しさが…いつか自分を傷つける。それでも…お前は他人を見過ごす事は出来ねぇんだろうな。だから…目が離せねぇ…」


「私は…優しくなんか…ないです…」


どうしようもなく子供で、単純で、すぐに泣く…。


さっき見てしまった沖田さんの秘密を、どうしても理解する事が出来ない。


ただおねぇを大切に想っているのだと思っても…それを寛容する事さえも出来ない。


「俺の言う事が信じられねぇか?」


少し困った顔の歳三さんが私の顔を覗き込む。


「私は…」


言いかけたところで、歳三さんは誰かに声をかけられた。


歳三さんは簡単な挨拶を交わして、なにやらお礼を言っている。


おそらく仕事関係の人なんだろう。


(邪魔になったらだめだよね)


軽く会釈をして少しだけ離れ、一人で近くの屋台を見る事にした。


「他人の事ばっかり気にするか…」


さっき言われた言葉を口に出し反芻してみる。


「それは優しさじゃないと思うな…。偽善…だよ。自分が満足なだけで…本当にいい事してるわけじゃないし…。自分が悪者になるのが…怖いだけなんだもん…。ううぅ~ダメダメ!!暗い事ばっかり考えてたら暗い方向に行っちゃう。考えない!考えちゃダメ!!よっし!!」


気合を入れなおして後ろを振り向くと、そこに歳三さんの姿は見えなかった。