空に舞い散る夏の花 ~夏祭り~ ⑥ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

おねぇと沖田さんが屋台に戻ってきた頃、お客様は少し引いていて、あんなにたくさんいた子供達も永倉さんに絡んでいる子達だけになった。


「だいぶ客足が引いてきたな。お前のおかげで子供達も楽しそうに帰っていった。ありがとう、助かった」


永倉さんの鬼は子供達にすごく人気で、順番待ちの子供の列は途切れる事がないくらいだった。


歳三さんが弓の射方を教えたり(でも子供達は少し怖がっていた(苦笑))、原田さんが射的を終えた子供達の相手をしたり、私は順番待ちの子供達の相手をしたりして、屋台は想像より大盛況だった。


「いえ、反対に子供達に遊んでもらったみたいで私は楽しかったです。へへっ♪ちょっと幼稚園の先生みたいだった」


「ふっ…どっちが先生でどっちが園児かわからねぇな」


「もう!そんな事ないですよ!!」


ふて腐れる私の頭をポンポンと撫でながら、歳三さんは優しく笑いかける。


「お前が子供の相手するのが上手くて正直驚いた。まぁ…子供の相手は子供に任せるのが一番…だな」


「えぇ~!大人ですよ~」


「クッ…そうだな、大人…だよな?」


「なんで疑問形なんですか~」


暴れる私を見ておねぇがクスクスと笑う。


「土方さんから見たらethlinなんてまだまだ子供だよ、きっと。頭に卵の殻がついたままのひよっこなんじゃない?」


「なっ…おねぇまで!!ううっ…子供じゃない…もん…」


とは言え、そこまで言われると強く言い切る自信がない。


「ethlin、近藤さんが戻って来たら俺達も出るぞ。店は客が引いてきたな…お前は少し休んでろ。姉さんと射的で遊ぶのもいい。お前の好きそうなモノばっかりあるからな。ふっ…一等と残念賞以外はな…」


歳三さんが接客をしている間、私は射的で遊ぶ事にした。


「ethlinもやるのか?射的。好きなモン当たるといいな。まぁおもちゃの弓と矢だから女の腕でも十分だと思うぜ」


平助くんが棚に景品のぬいぐるみやマスコットを補充する。


「あっ…平助くん。あれ…まだある?」


「あれ?あぁ、さっき見てたやつだな。あるぜ~ちゃんとよけてある」


ダンボールの中から一体のぬいぐるみを取り出す。


「うん!それそれ♪それ…棚に並べてよ」


「えっ?持って帰るんじゃねぇのか?」


「せっかくだから自分の手で手に入れたかったんだ」


当たるかな~と苦笑しながら平助くんが棚にぬいぐるみを並べる。


灰色の大きな身体の狼の背中に、小さな茶色のハムスターがしがみついている。


歳三さんとの初めてのデートで行った、動物園でのたわいのない会話を思い出す。






『総司がトラなら…さしずめお前はハムスターだな』


『それなら歳三さんは狼ですね』


『俺がか?』


『はい!かっこいいじゃないですか!!』


『俺が狼なら、お前みたいな小さい奴はすぐに喰われちまうぞ』


『大丈夫ですよ。狼は…本当は優しいんです。私がハムスターなら、食べられる前に背中に飛び乗ってしまいます。優しい狼はちゃんと私を背中に乗せてくれます』






おねぇの部屋で見つけた時、すごく驚いた。


歳三さんと動物園に行った話はしたけれども、あの時の会話の内容は話した事がなかったからだ。


『それね、イソップ物語のライオンとねずみを作ろうと思ったんだけど、赤ずきんの狼作った生地が余ったから狼にしたんだ♪ねずみはねハムスター♪ただのねずみよりかわいくない?』


おねぇが笑いながら言ったあの時、本当は頂戴って言いたかった。


でも小さなマスコットを手にして喜ぶ自分がすでに子供っぽいと思っていたし、その上ぬいぐるみが欲しいとは言い出せなかった。


『大きさもちょうどいいし、子供も取りやすいと思うんだ』


『そうだね…子供でも取れそうだよね』


だから屋台が始まる前に、すぐに景品に出さないように平助くんに頼んだ。


このぬいぐるみは、自分の手で手に入れたかった。


「んじゃethlinがんばれよ。一等と残念賞当てねぇようにな」


「絶対に当てるもん。当てるまでネバるんだから…」


鼻息も荒くおもちゃの弓を手にする。


矢を番え弓を引くけれど、矢はぬいぐるみの手前でへなへなと落ちてしまう。


隣にいるおねぇは当たらないものの、矢は真っ直ぐに前へ飛んでいく。


苦戦するおねぇに沖田さんが少し耳打ちした。


おねぇが弓を構えなおすと、ひゅんと音を立て矢が飛び景品に当たった。


こっちがモタモタとしている間におねぇはどんどん景品を当てて、私が射る矢は全部手前で落ちてしまう。


「うっ…当たらない…グスッ…あの人形…絶対に当てたいのに…」


「なんだ…欲しいなら言えばあげたのに♪」


私は恥かしくなって下を向く。


「だって…いいトシしてぬいぐるみ…って思ったし…射的の的にって言ってたから…自分で取りたかったもん…」


「クス…お祭りが終わっても…まだ取れないかもね」


沖田さんの毎度毎度の嫌味にため息が出る。


(ホントだ…お祭りが終わるまでがんばっても…取れないカモ…)


「ったく…見てらんねぇな…」


接客を終えた歳三さんが近づいてきて、私の後ろに回り腕を取った。


「ほら…貸してみろ」


「あっ…えっと…」


背中越しに歳三さんの体温を感じて緊張してしまう。


「ほら…もっと力抜け…あんまり構えすぎるな」


「はっ…はぃ…」


緊張と煙草の匂いで頭がくらくらする。


今自分の顔を鏡に映せば、鬼の格好をした永倉さんより真っ赤になっているだろう。


「いいか?離すぞ…」


矢が弓から離れ…


トンッ


と音を立てぬいぐるみが下に落ちた。


「やった?やった?やった…?やったー当てた!やりました!歳三さん当たりました!!」


「やっと当たったのか?よかったな。まぁ半分は土方さんの力だけどさ、がんばった甲斐あったじゃん♪」


「うん♪ありがとう、平助くん♪」


平助くんからぬいぐるみを受け取り、ぎゅっと抱きしめる。


「よかったな。しかし…ぬいぐるみ一つでそんなに喜ぶなんざ…やっぱり子供だな、お前は」


大人です!!と言いたいところだが…うっ…やっぱり否定が出来ない。


「いいんです、子供でも…。どうしても…この子は…この子達は、自分の手で手に入れたかったから…」


「本当に子供だよね…コロボックルちゃん…ねぇ…本当にお姉さんと姉妹なの?木の叉から生まれたんじゃないの?」


クスクスと沖田さんがいつもの調子で意地悪そうに笑いかけてきた。


「えっ…違っ…」


オロオロと何か言い返そうとすると歳三さんが沖田さんをひと睨みして、黙って私の頭を撫でる。


「気にするな。アイツの嫌味は今に始まった事じゃねぇ。それに…今日はあんまりお前に面と向かって言わねぇ。なぁ?総司…そうだろうが…」


いつもなら強く言い返す歳三さんが、珍しくチクリと嫌味らしき事を沖田さんに言った。


「何の事かな…それ…。土方さんって…以外に根性悪いよね?」


対する沖田さんも意地悪そうな顔で微笑み返す。


(どっ…どうしたんだろ…。さっきも言い合いしてたし…歳三さんはチョコの件じゃないって言ったけど…)


さすがのおねぇもいつもと様子が微妙に違う二人に戸惑い、言葉が出せないでいる。


ピリピリした空気の中…


「おっ!やっと取れたのか?ずっとがんばってたからな」


途中で着替えに出た原田さんが戻ってきた。


空気が一瞬で変わり、私は小さくため息をつく。


「佐之助と姉さんが出る。もうじき近藤さんも戻るだろう。もう少しだけ待ってろ」


荷物をまとめ、椅子に座って待つことにした。


「…ん…客が来た。ethlin、ここに座ってろ。ぜってぇにここから動くなよ。今日は大人しいと思うが、総司の奴がまた何か嫌な事言っても気にするな、シカトしとけ」


「はい」と返事をして歳三さんの背中を見送り、沖田さんの事を考える。


(沖田さん…沖田さんは人妻と不倫中だからお祭りなんて人の多いところ回れないよね…どんな人が相手か知らないけど…。だから面白くなくて意地悪言ったのかな…)


ふと沖田さんに視線を走らせる。


原田さんと沖田さんとおねぇの三人が何か話をしていて、まとめていたおねぇの髪がパラリと外れた。


沖田さんは慌てて直そうとするおねぇの手を止めて、髪留めを受け取り器用に髪をまとめ始めた。


(沖田さん…器用だな~。ブーケ作るのも上手いしね…。これで意地悪じゃなきゃぁ…そこそこイケてると思うんだけどなぁ…)


ぼんやりとした視線を沖田さんの手元から沖田さんの顔に移す。


そこには私の知らない沖田さんがいた。


お花屋さんでもホストクラブでも見たことのない、沖田さんのその表情に私の息が止まる。


おねぇの髪を丁寧に指で梳き、優しく笑う。


その笑顔はいつもの作り笑いではない。


あの感情のない笑顔ではなく…鈍い私でもわかるほど幸せに溢れた顔だった。


(うそ…うそだ…そんなはずない…)


私は今見ているモノが信じられなかった。


(おねぇ?おねぇなの?沖田さん…おねぇは原田さんと付き合ってるって知ってるのに…なんで?)


私の目に映る沖田さんはおねぇだけを見ていた。


優しく、大切な人を見る目。


いとおしい最愛の人を見つめる目。


沖田さんがおねぇの耳元に何かを囁いた。


まるで愛する人に愛の言葉を囁くように。