「よっしゃ~着替えたところでもう少しだけ…飯の続きだ。ethlinちゃんビールとってくれ」
永倉さんはドカッと椅子に座り、ビールを美味しそうに飲み干している。
「はい!サラダもどうぞ」
「おっ!サンキュ」
ふと目線を上げると、一人の子供と目が合った。
何か言いたそうな顔で私をじっと見ている。
「んんん~?どうしたの?」
ニコニコと笑いかけながら傍に近寄ると、数人の子供達がわらわらと集まってきた。
「なぁなぁねえちゃん…ねぇちゃんはあの鬼につかまってんのか?」
「へっ?」
子供達の目線の先には、美味しそうにビールを飲む永倉さんがいた。
「ひとじちだからいうコトきけって言われたのか?」
(ハハァ~ン…ビール渡したりおかず渡したりしてたのが、命令された風に見えたんだな…)
ニヤリと笑い、子供達にそっと耳打ちする。
「うん…おねぇちゃん…鬼につかまってさ…言う事聞けって言われてんだ…。あの鬼はさ…キンニク星から来たニクダルマンって言うんだ…」
「うっわぁ~。いかにも『肉』ってかんじでつよそうだよな…」
感心する子供達の言葉にうんうんと頷きながら、さらに耳打ちをする。
「大人が後ろから三人は飛びついても平気だね。あのガタイは…」
「すっ…すげぇな…」
子供達はさらに永倉さんをチラチラと眺め始めた。
「みんな、桃太郎さん知ってる?」
「知ってる~」
子供達は楽しそうに桃太郎の歌を歌いだした。
「んじゃ♪…きび団子はないから~はい!飴を一粒づつ♪鬼のせいばいについてくるならあげましょう♪」
子供達の口の中に飴玉を放りこんでやる。
「ethlinちゃん、何してんだ?」
なんともタイムリーなところで永倉さんが私達に近づいてきた。
「よっし!いまだ!鬼が襲い掛かってきた!!みんなでやっちまえ♪」
右手を上げて号令をかけと…
「うわぁ~!!」
子供達が歓喜の声を上げながら永倉さんに襲いかかった。
「うわっ!なんだ!?お前ら…いてててて…」
叩くやら蹴るやら…子供の容赦ない攻撃が永倉さんに振りかかる。
「お前ら…いてて…」
「鬼を追いかけろ~」
走り出した永倉さんを子供達が嬉しそうに追いかけ回し始めた。
気がつくと永倉さんと子供達は屋台から放れた場所まで走り去っていったらしい。
会場にはさらに子供達がチラチラと見え始めている。
その様子を見て原田さんが立ち上がった。
「斎藤もそろそろ来るしよ、雛壇に景品乗せて店開けるか!平助…新八呼んで来い、あいつはどこまで行っちまったんだ?」
「平助、飯食っちまえ。俺が連絡する」
歳三さんが携帯を取り出し電話をかける。
~
~
集められた荷物の中から軽快な音楽が鳴り響いた。
「チッ…新八の奴、携帯置きっぱなしかよ。…仕方がねぇ…探してくる。ethlin、お前は絶対にここから動くな」
手にしていた携帯を私に手渡し、歳三さんは永倉さんを探しに行ってしまった。
手渡された黒い携帯をじっと見つめる。
ごそごそとバッグからおねぇから貰った狼のストラップを取り出し、歳三さんの携帯に取り付けてみる。
(ふふっ…やっぱりぴったりだ)
自分の携帯を取り出し、横に並べてかざして見てみる。
黒い歳三さんの携帯に、灰色の狼
ピンクの私の携帯に、赤い赤ずきんちゃん
(歳三さん、勝手にこんなのつけたら怒るかな…)
「ethlin何してる?」
「はわっ!?」
後ろを振り向くと歳三さんが立っていた。
「新八を連れ戻して来たから、そろそろ屋台を開ける準備するぞ…」
そう言いながら携帯をじっと見つめている。
「あっ…ごめんなさい…おねぇからもらって…」
もごもごと言い訳をしながら黙って携帯を差し出す。
「クックク…お前はホントこんなモノが好きだな」
私の携帯を手に取り、目の前に並べてかざす。
「赤ずきんと狼か…お前…俺の事『狼』って言ってたな。そういやぁ…いつかの夢の中でも…いや…なんでもない。こっちの話だ。ありがとな…大切にする」
歳三さんはそのまま大切そうに携帯をしまった。
(嬉しい…大切にするって…単純な事だけど…嬉しい)
自分の携帯をそっとバッグに戻し、私も屋台の準備に取り掛かった。
おねぇと沖田さんは準備の間少しお祭りを回って来ると言って行ってしまった。
私は屋台の準備の手伝いに取りかかる。
「ところでなんのお店なんですか?くじ引きとか?」
私は景品を指示通り丁寧に棚に並べていく。
「屋台の正体はな…これだ!」
「あ~射的!!」
歳三さんが手にしているおもちゃの矢と弓を見て私は声を上げた。
「うわぁ~やってみたい!やりたい!やりたい!」
「お前…おもちゃでも弓引いたことあんのか?」
「やった事ないけど…やってみたい!やってみたいです!」
だってこんな機会でしか出来ないよ。
それに何でもやってみないとね。
「豪華景品当たるといいな」
重そうなダンボールの中身を眺めながら、原田さんはニヤリと笑う。
「豪華景品ってなんですか?この小物達の他に何かあるんですか?一等とかあるんですか?」
はしゃぐ私を横目で見ながら、歳三さんはなぜか苦笑している。
「ethlin…お前は一等より、二等か三等当てた方が絶対に喜ぶぞ」
「えっ?何でですか?どうせなら一等ですよ♪一等狙った方がよくないですか?」
歳三さんはため息をつきながら、私の頭をポンポンと撫でる。
「あのなぁ…考えてみろ。この企画をしたのはあの三バカ…新八、佐之助、平助だぞ。…あいつらが一番喜ぶモノと言えば…」
「喜ぶモノと言えば?」
「おっ!ethlin、よくぞ聞いてくれました!!」
平助くんがニヤリと笑いながらダンボールの中をごそごそと探っている。
「この祭りを盛り上げるために俺達が用意した景品の数々の中、栄えある一等の景品にノミネートされたのは…これだ!!」
私の目の前に透明な手提げ袋が差し出された。
中に入っているのは…
「ビール…と…おつまみ…セット?」
「あったり~!夏!祭り!花火と来たらビールしかねぇだろ?ビール飲むときはつまみもいるよな?いいだろ?このゴールデンペア!!」
だからか…歳三さんが一等じゃない方がいいって言ったのは…。
「平助くん…あの…万が一私が一等当てたら…マジでビール要らないんで、つまみを2倍にしてください!!」
「あ~なんだよ!その真顔でこの組み合わせを拒否するのはよ~」
文句を言う平助くんをなだめるように、永倉さんが割り込んできた。
「まぁまぁ平助。女の子はよ、やっぱビールよりやっぱかわいいもんの方が喜ぶんじゃねぇか?なおさんに小さなぬいぐるみとかたくさん用意してもらったのは正解だったな。まぁ…つまみを2倍くれってのもどうかと思うがな…。後は斎藤謹製の限定スイーツと花のアレンジメントだ。スイーツはもうすぐ来るだろ。まぁethlinちゃん…万が一景品が一個も取れなくてもよ…女の子にだけ特別に参加賞を用意してあるから安心しな」
「そうそう、女の子だけ特別な参加賞があるんだよな~」
新八さんも平助くんもニヤニヤと顔を見合わせて笑っている。
「なんですか?女の子だけの参加賞って?」
「それはな…」
「わっ!」
急に誰かに手を引っ張られ、体が前のめりに倒れる。
誰かに軽く抱きし止められたと思った次の瞬間、耳元に熱い吐息がかかった。
「俺からの甘い囁きだぜ。どうだ?参加する価値あるだろ?まぁ…ethlinちゃんは俺より土方さんの方がいいと思うけどな」
「うわっ!原田さん!!耳くすぐったっ!!」
慌てて離れようとするとまた誰かに強く引っ張られ、抱きとめられた。
「佐之助!あんまりこいつをからかうな!!」
気がつけば歳三さんの腕の中に私はいた。
「おっ!土方さんやきもちかよ?」
「うるせぇ!」
「土方さん珍しいな~顔真っ赤じゃん!」
「平助!!」
そっと見上げると、珍しく顔を赤くした歳三さんがいる。
「あの…歳三さん…私一等と参加賞はマジで要らないので安心してください」
「あたりめぇだ!どっちか取ったら俺が交渉してやるから好きな景品ふんだくれ!!」
「まったく…土方さんはethlinちゃんにはホント甘いよな」
原田さんはクスクスと笑いながら歳三さんの肩を叩く。
「うるせぇ!お前らがこいつをからかうからだろうが!!」
「土方さ~ん、それじゃあ射的の意味ねぇじゃん!!まぁ…俺もサミットが参加賞だったら…ぜってぇに阻止するけどな」
「そうだな…俺もなおが参加賞としてでも俺以外の誰かに口説かれてたら…相手はフルボコ…だな」
「なっ…なんだよお前ら…ちょっと彼女持ちだからって…チクショーお前ら羨まし過ぎる!!」
歳三さんの怒鳴り声とみんなのからかう声、永倉さんの叫び声が響く中、屋台の準備は着々と進んでいった。