「あのね…ゆきちゃん…おねぇのアパートまで歳三さんがね…送ってくれるって言うから…」
先輩は真っ赤な顔をしてぽそぽそと呟く。
「大丈夫ですよ。私も総司さんに送ってもらいますし。うふふ~超楽しかったです。この後のお話は明後日にゆっくりですね。楽しみにしてますから。じゃ!おやすみなさーい」
背の高い土方さんに手をひかれ、ちょこちょこと歩く先輩の小さな背中を見送る。
俯いたり、少し顔を上げて笑ったり…そんな先輩の姿を見ているうちに、ある歌を思い出した。
「土方さんも変わってるよね。コロボックルちゃんみたいなおかしな子がいいなんて」
総司さんは私の手を取り歩き出した。
「先輩は確かに少し変わってますけど、いい人ですよ。おしゃべりしてると面白いし」
「…?先輩?コロボックルちゃんはゆきの先輩なの?」
総司さんは大きく目を見開いて、心底驚いた表情を見せた。
「そうですよ。入社当時からずーっとお世話になってますもん」
「ふっ…ふふふふっ…コロボックルちゃんが…先輩…あはははははっ…あんなに小さいのに?」
「あははははっ…背の高さは関係ないですよ~。まぁ確かに小さいけど。でも~、土方さんと先輩の後ろ姿を見てたら~『赤い靴』の歌を思い出しました。先輩、ちょうど赤っぽい靴履いてたし」
赤い靴 履いてた 女の子♪
ご機嫌ついでに私は歌いだす。
「赤い靴って…女の子が異人に攫われるって内容の歌…だよね?……あははは…ウケる…土方さん、送り狼じゃなくて…ひっ人攫いかぁ…あはははは…」
(あっ…今度はただの男の子みたいな顔だ…総司さんって不思議な人だなぁ…)
「コロボックルちゃんは人の前に妖精だけどね~」
(あっ…また意地悪王子に戻った…)
「総司さん面白い事言いますね。先輩が妖精かぁ~。まぁ確かに少し人とずれてるところもありますけど~」
「でしょ?でもね…僕はゆきみたいに普通の女の子が好きだから興味ないよ」
クスクス笑いながら私に顔を寄せる。
「えっ!あっ!いや~ん…恥ずかしい!」
「ふふっ…可愛いね…ゆきは…また会いたいな…いいでしょ?」
耳元に熱い息がかかる。
「はっ!はい!喜んで!!また来ます!先輩と来ます!!絶対に来ます!!!」
鼻息も荒く興奮する私を不思議そうに見つめながら、総司さんは呟いた。
「ふーん…君もコロボックルちゃん…か…。しょうがないな…じゃあ、いい事教えてあげる。桜花はね、日中はカフェなんだ。隣は花屋だよ。今度来るときはカフェか花屋においで。花屋の方がいいかな?ゆきのために花束を作ってあげる」
(君のためになんて客心理をめっちゃくすぐるこの言葉…わかっていながらも王子に言われると…マジ陥落する…)
「それに夜は君みたいなかわいい女の子が出歩いてたら危ないでしょ?コロボックルちゃんは…野良ネコに狙われて大変だしね。口に咥えられて攫われたら…さすがの土方さんも助けるのに苦労するなぁ…クス…そうなったらさすがにかわいそうだよね?」
(やーん…総司さん…超優しい…。先輩の身の危険まで心配するなんて~)
「でも…どうしても夜に会いたいなんて我が儘を言うのなら…僕を呼んでね。必ず迎えに行くから…」
「はい!勿論総司さんご指名でお願いします!!」
楽しく話をしているうちに、家の近くまで着いてしまった。
(あ~楽しい時間って早いな~)
総司さんはにっこりと笑い、私の手を取った。
「おやすみ…僕のゆき…また夢の中で会おうね…」
総司さんは跪き、私の手にキスをする。
(うわぁぁぁぁ~出た!出た!出たー!!王道王子出た!最後まで王子だぁ~!!)
総司さんの背中を見送り、夢心地で家の中に入る。
寝巻きに着替え、余韻を楽しむようにベッドに潜り込んだ。
(ethlin先輩…誘ってくれてありがとう。めっちゃ楽しかった~。こんな経験…もう出来ないかもだよ~)
先輩への感謝の気持ちと総司さんの甘い台詞を胸に、私は眠りについた。
そして今。
土方さんのお土産のスイーツを冷蔵庫に入れて戻ってくると、先輩はなぜか『着物王子』こと若様とにらみ合いになっていた。
ケースの影からこっそりと様子を伺う。
先輩は相当怒っているらしく、睨み合う二人の間に火花が散っている。
土方さんが止めに入ったけど、先輩はガンとして土方さんの前から動かない。
(先輩…王子に守られると思ったら…今度は王子のために戦うんですね…先輩かっこよすぎます。愛する王子のために身を呈して戦う小さな姫君…はぁ~萌える…。あっ…あぁ~「ぶん殴るなら殴ってみろ」なんて…そんな啖呵まできって…。先輩は心底土方さんを愛しているんですね)
やがて先輩と若様の前にすごい美女が現れた。
(えっ…三角関係から、まさかの四角関係!?せっ…先輩…王子への愛を貫いて勝利を勝ち取らないと!!先輩…ファイト!!)
私もついつい拳に力が入る。
美女は先輩とひとしきり会話をすると、笑いながら若様を連れて去っていった。
(先輩!先輩の勝利!?先輩の愛が勝ったんですね!!こうしていられない…ちいさな身体で戦い抜いた姫君にねぎらいの言葉をかけないと!!)
私は急いで先輩の元に駆け寄った。
「せんぱーい!!めっちゃくっちゃかっこよかったです~。あの着物王子と対等に勝負するなんて。先輩?ethlin先輩?どうしました?興奮し過ぎで放心状態なんですか?大変!!裏の休憩所に行きましょう。はい、土方さんこっちです。先輩…我を忘れるくらいアダルト王子のために戦ったんですね。えっ?なんですか土方さん。アダルト王子ってなんだ?いや~ん!!土方さんの事に決まってるじゃないですか~。あっ…お店の事は私に任せてください、今日は暇ですからね~。ささっ…土方さんも、むさくるしい休憩所ですが先輩とごゆっくり~うふふふ~じゃあ!!失礼します」
(うふふふふふふふっ~後でゆっくり話し聞こうっと♪)
二人が気になるものの、私は足早にお店へと戻った。
やっぱり私は先輩が好きです。
無茶するし、押しが強かったり、肝心な時に弱かったり…不器用に生きてる人だけど
自分の信念を曲げずがんばる先輩が大好きです。