久しぶりの休日。
私はやっと新品の携帯を手に入れた。
残念な事に電話帳はすべて消え去ってしまっていた。
(おねぇの番号は手帳に控えたし、ゆきちゃん達は会社に行ったら聞いて…)
ふうっとため息をつく。
(問題は歳三さんの携帯番号だよね…いきなり音信不通にしたから…怒ってるよね。メール…メルアドは…センターにメールが止まってたらわかるけど…でも…)
とりあえず数日の間確認していないメールの問い合わせをしてみる。
(3日間ともなると、結構たまってるな…いつもの占いと…それから…)
ある特定のメルアドから数件のメールが届いている。
(誰だろ?)
最新のメールから一つ一つ開封していく。
目に入った瞬間、心臓が跳ね上がった。
(どうしよう…歳三さんからだ…なんかすごいいっぱいメールきてるんだけど…)
一通り目を通してみる。
どのメールも私を心配する事ばかりだ。
後半は私の携帯が壊れた事をおねぇから聞いてたと書いてあった。
それでもいつ読むかわからない私へのメッセージが、何度も届いていた。
(どうしよう…私の事心配してくれてるのに…何で連絡取らなかったんだろう…。携帯の番号がわからないなんて、ただの言い訳だってわかっていたのに…)
ふと、携帯番号を教えてもらった時の事を思い出した。
あの時、歳三さんからもらったメモに書かれた番号にすぐ電話をかけて、電話番号を交換し合った。その後メモは…
(私、手帳にはさまなかった?)
慌てて手帳を取り出し、ポケットを探る。
(やっぱり…)
自分の不甲斐なさにあきれ返り、その場にへたり込む。
「私…ちょお…バカじゃない?子供じゃないんだから、落ち着いて考えればわかったのに…」
と言っても電話をするのは気まずい。
お花屋さんに会いに行くとしても、どんな顔をしていけばいいのか。
「はぁ…どうしよう…」
「ねぇ?」
「ギャーッ!?」
突然肩を掴まれ奇声を上げる。
「ごめんごめん…驚かせるつもりじゃなかったんだけど?」
振り向くと、そこには沖田さんが立っていた。
「コロボックルちゃん久しぶりだね。お姉さんに聞いたけど仕事忙しいんだって?今日は休みだよね?」
「えっ?あの?はい?」
何か意地悪な事を言われるとしどろもどろになっていると、沖田さんはクスクスと笑いながら私の手をひっぱる。
「花屋行かないの?最近全然来てないよね?」
「あの…今日は…いかな…」
「悪いけどコロボックルちゃんの予定なんてどうでもいいんだ」
私の言葉を遮るように腕を伸ばし、まるで荷物のように抱えられてしまった。
「ちょっと沖田さん!下ろしてください」
暴れてバランスを崩す私を落とさないように、更に腕の力が強くなる。
「悪いけど暴れないでくれる。妖精とはいえ、君は人並みに重いんだから」
あっという間にバンの助手席に乗せられてしまった。
「さっきも言ったけど、コロボックルちゃんの予定なんてどうでもいいよ。ただ土方さんが不機嫌になった責任だけ取ってくれればね」
あっという間に車は走り出し、降りる事もできない。
「あの…歳三さん…機嫌…悪いですか?」
おそるおそる聞いてみる。
「そりゃあもう。様子がおかしいと思ったら、今度は不機嫌になるし…みんなすごく困ってるよ。責任取ってよね」
「様子がおかしいって…何かあったんですか?」
「本人に直接聞いたらどうかな?聞く勇気があればだけどね」
クスリと意地悪な顔で笑いかける沖田さんが怖い。
「あの…私…もう…車から降りたいです…」
沖田さんも怖いし、歳三さんと話をするのが怖い。
自分の知らない何かがあるのかと思うと、目からじんわりと涙が出てきた。
「ふぅ~ん…結構無責任だね?クス…仕事は放り出さないくせに、こんな事になるとホント意気地なしになるんだね」
鼻で笑う沖田さんがさらに怖い…。
いっそ車から飛び降りて逃げようかと考えていると、急に右腕を掴まれた。
「飛び降りるなんてバカな真似しないでよ。君に怪我させたら、僕はお姉さんになんて言えばいいのさ」
「ごめんなさい…」
「僕にごめんなさいなんて言わなくていいよ。言う人相手が違うんじゃない?」
しょんぼりとうなだれていると、膝の上に飴が一粒落ちてきた。
「正真正銘のお菓子だから食べたら?」
いつもの意地悪そうに笑う沖田さんなのに、何かが違う気がする。
でもそれが何なのかは、今の自分にはよくわからない。
「僕は土方さんの事嫌いだから…正直あの人が落ち込もうが不機嫌だろうがどうでもいいし興味もないよ。でも…近藤さんがやたらと気にするし…それに…」
少し照れくさそうに目を逸らす沖田さんをじっと見つめる。
「沖田さんは近藤さんって人が好きなんですね?」
「うん。好きだよ。近藤さんの為に生きてきた…って言っても過言じゃない」
「過去形って事は…今はもっと大切な人がいるんですか?」
少し驚いた表情で睨まれたと思ったら、いつもの意地悪な顔に戻る。
「ホント…君って他人の事はよく見てるね。そうだよ。近藤さんは今も大切だし大好きだよ。だけど同じ天秤でははかれないくらい大切な人が他にいる。君、詳しくは聞かないつもりでしょ?」
「だって…沖田さんの秘密だから…」
「秘密…か。誰でも秘密にしてる事はあるよ。もちろん土方さんもね。今は秘密でも…君はいつかすべてを知ってしまう。その時が来たら…君は目をを逸らすわけにいかない。すべての秘密を知った時、君はどうするのかな?」
沖田さんの意味深な発言を心の中で何度も反芻する。
そして気がつくと、お花屋さんの駐車場に着いていた。
「今はその時じゃないし…まぁ…とりあえず、自分の目の前の事だけ気にしたらどう?」
むせるように香る花の匂いと緊張で、私は動けずにいた。