昨日に続き今日も快晴だ。
今日何度目かのメールをチェックするものの、午前に一度届いたきり返事がない。
(まぁ…仕事が忙しいんだろ)
6月のある夜電話がかかってきた時、やけに返事が遅いと思ったら電話の向こうで寝息を立てて眠っていた。
あの小さな笑顔を思い浮かべる。
最近は寄り道をする時間がないほど忙しいらしい。
(あのちいせぇ体でなにがんばってんだか…)
「トシ、どうした?楽しそうだな」
肩を強く叩かれた。
後ろを振り向くと、満面の笑みを浮かべた近藤さんがいた。
「よぉ、近藤さん。今日はどっちの手伝いに入るんだ?」
「今日は花屋の方だ。原田くんがウエディングの打ち合わせに行っているからな」
そう言いながらシャツの腕をまくり、エプロンを身に着ける。
「この機会に総司に花束の作り方を習おうと思ってな。総司と仕事をするのも久しぶりだな。アハハハハ」
(近藤さんがいるなら総司も大人しいもんだ。明日も 花屋の方にいてくれりゃぁ助かるんだが…)
「近藤さん、明日はどうする?」
「どうした?トシ…何か急用か?」
心配そうに顔を覗き込む近藤さんに苦笑いする。
「近藤さんが花屋の方にいれば総司の悪戯もおとなし…いや…総司が喜ぶからな、明日も花屋の手伝いだといいな…そう思っただけだ」
「やだなぁ~土方さん。明日はコロボックルちゃんが来るから僕が悪戯しないように見張ってて欲しいって、はっきり言えばいいのに」
総司がかすみ草の入った箱を抱えて戻ってきた。
「てめぇ…なんでその事を知ってやがる!!」
「総司、なんだ?その…ころ…ぼっくる…?ってのは?あの小さい妖精の事か?」
近藤さんは不思議そうな顔で総司に問いかける。
「クス…図星なんだ。…あれ?土方さん、コロボックルちゃんの事近藤さんに言ってないんだ?ふ~ん」
ニヤニヤと笑う総司に舌打ちをして、かすみ草の箱を奪い取る。
「土方さん、早く箱から出してあげないと、かすみ草が窒息しちゃいますよ。クス…それに丁寧に扱わないと…小さいから壊れちゃうしね」
「うるせぇ…総司…近藤さんにおかしな事いうなよ!!」
総司に釘を差し、空のバケツを掴んで花の並ぶケースの方へ移動した。
「クスクス…土方さんも忙しい人だなぁ…青くなったり赤くなったり…」
「総司…その…コロボックルって言うのは…なんだ?」
近藤さんは少し戸惑い気味に声をかける。
「クスクス…心配しなくていいよ、近藤さん。コロボックルちゃんって言うのは、今、土方さんが大切にしている子の事だよ」
「なんと…トシが…そうか…そうだったのか!?」
近藤さんの顔がパッと明るくなった。
「クスクス…妖精は夜出歩くと野良猫に狙われるから、昼の桜花にしょっちゅう出没してるよ。そうだ!お姉さんの方は会った事あるんじゃないかな?長い黒髪の綺麗な…」
「もしかしたら原田君の大切な人の事か?」
少しだけ胸が痛んだが、悟られないように言葉を続ける。
「そう…あのお姉さんの妹だよ。クスクス…ホント似てないんだ」
「そうかそうか…トシが…心配していたが…そうか…。で?どんな女性なんだ?」
近藤さんの言い方がツボに入って、僕はお腹を抱えて笑い出す。
「女性!?女って言うより…あはははは…子供だよ…クスクス…土方さんも初めて会った時は『どこのガキだ!!』って怒鳴りつけたからね」
「もしかしたら学生なのか?女子高生とか?」
近藤さんのストレートな物言いと質問は面白すぎて、僕は笑いが止まらない。
「あはははは・・・はは…今時の高校生の方がよっぽど色っぽいよ。『女』以前に『妖精』だからね、コロボックルちゃんは…あはははは…世間知らずで警戒心が無くて色気もないし…ほんとイライラするくらい子供だよ。『あの人』とは正反対だ。それがいいのか悪いのか…僕には関係ないけどね」
近藤さんは少し寂しそうに笑って、土方さんをそっと見ている。
「総司の目の前に『大切な人』が現れたように、トシにも『守りたい人』が現れたんだな…」
「本人は複雑だと思うよ…でも…まぁいいんじゃないかな?今の土方さん見てると面白いしね」
土方さんはケースの前で、相変わらず無愛想な顔で接客をしている。
「近藤さんも絶対に見た方がいいよ、コロボックルちゃん。あんな顔してる土方さんを笑わせるんだからね」
「それは楽しみだな。もちろん、総司の『大切な人』に会えるのも楽しみにしてるぞ」
(本当はね…近藤さんはもう会ってるんだよ)
僕はそっと心の中でそっと呟いた。