僕らは毎朝公演していた。
通勤する人。ごみを出す人。学校に行く人。
なにかその日1日を始めようとする人たちがその舞台を通りがかりに観ていった。
僕らは汗をかき1回1回の舞台を創った。
スポンサーの一人が言った。
なぜあの舞台を使わないのか、と。
僕らはいわゆる普通の劇場、普通の舞台を使っていた。
スポンサーが言う舞台というのは、
ちょっと変わっていた。
野っ原に造られたその舞台は、客先が地上と地下に設けられており、どちらも1つの舞台を観られる。
1つは明るく日が差し1つは暗く陰影を際立たせる。2つとない、ヘンテコで、これ以上ない完成された舞台だった。
僕はその舞台が氣に入らなかった。
きっとあの舞台で演ったら、今よりお客さんは感動し、今よりもっとたくさんお客さんが来てくれるだろう。
現状に不満はなかった。
変化が怖かった。
僕らが汗をかき、笑い、泣く今に何が問題があるのか。
あの舞台はあまりに立体的で、できすぎていた。
僕らのために口を開けて待っているオブジェのようだった。
空っぽの舞台は毎朝陽を浴びて、空っぽのまま僕らを待っていた。
空っぽなのに充実感に満ちているようなその舞台が、僕には憎らしかった。
舞台に立つために、僕らは日々訓練を受けていた。
劇場をひたすらグルグル移動する訓練を。
劇場内は広大な迷宮のようだった。
通路は一定区間ごとにレジで区切られていた。
レジからレジの間の動きは逐一評価され、レジでその評価がレシートになって渡される。
自然と、僕らの動きは洗練されていった。
1回1回、決まりきった規則的な動きなのに、飽きが来なかった。
「僕らは何をやっているんだろうね」
動きながら、そんな話をした。
僕らは1人1人が競争相手だった。
それにもかかわらず、誰かを出し抜こうとはせず、
淡々と一人一人ができる限りの動きをしていた。
僕らは朝舞台に立ち、昼は稽古し、夜は誰かの舞台裏でひっそり息をひそめていた。
夜は、裏方の時間だった。華々しい舞台の裏で生息する生き物。
歓声があがっても、それは届いてこない。
淡々と、舞台が滞りなくすすむように下ごしらえし、後処理をした。
…そんな夢をみた。