昨日の「美しい日本の言霊」の付録である。

中学生の藤原正彦が奈良光江歌う「赤い靴のタンゴ」を聴いて「彼女が私に対して恋心を抱いていると確信した」。「3番の〈飾り窓さえ〉と言うところを歌うと、高音がかすれてすすり泣くように聞こえ、思わず私も目を潤ませ、(心の中で)じっと彼女を抱きしめた。その後、彼女の姿をテレビで見た時、この世のものとは思えないやさしさと美しさと気品に仰天した。歌謡史上最高の佳人であった。私の視力を疑う人は、ユーチューブを見ればすぐに納得する。」こう書かれてYouTubeを検索しない男はいない。

果たして、想像以上だった。藤原の形容通りで表現にいささかの誇張もない。それも、藤原が「愛に年齢は関係ない」と書くように、彼のちょうど20歳上にもかかわらず、現代的な美しさなのだ。この「歌謡史上最高の佳人」の美しさをなぜ私が全く知らなかったのだろう。調べてみるとNHK紅白への出場は1960年が最後で、我が家にテレビが入ったのは、相当遅く、東京オリンピックの1964年なのだ。

「赤い靴のタンゴ」以外では「青い山脈」の映像が多い。藤山一郎とのデュエットもある。これが多分彼女の歌声ではよく聞いたものだろう。そして藤山一郎と並ぶと彼女の背が高いこともわかる。

この佳人の生地であり、静かに眠る青森県弘前は藤原の「聖地」である。墓を訪れ(東大での講義のため)「愛しながら葬式にも行かなかった非礼を詫びた」そうである。