早朝から今シーズン初めて大谷翔平が2打席連続ホームランで気分良いその午後、同じNHKBSで「マネー・ボール」を見た。2000年代初頭MLB最低クラスの財力しかない球団(アスレチックス)のゼネラルマネージャーとなった男、ビリー・ビーン(映画ではブラッド・ピット演ずる)が統計学的手法ーセイバーメトリクスを使って、ヤンキースの1/4程度の年棒総額で、プレーオフ進出の常連チームに作り上げる実話の映画化である。

野茂英雄渡米以来のMLBファンである私は当然この事実およびセイバーメトリクスは知っていて、このブログでも何度か取り上げているが映画は見たことは無かった。ビリー・ビーンはスタンフォード大学の奨学生の権利を蹴って(ドラフト1巡目指名の)メッツに入団したが鳴かず飛ばずだった経歴が出て来て、今年同じ権利を得てスタンフォード大学に進んだ大谷翔平の母校の後輩ー佐々木麟太郎を思った。さらに、聞いてはいたものの、アメリカにおけるゼネラルマネージャーの権限の高さを思い知った。スカウト陣には報告を求めるだけで、チーム編成について、彼らに「従うのは神とオーナーだけか」と言わせている。つまり、それについて全権限を持つということだ。相談するのは自ら入社させたハーバード大学(映画ではエール大学)出の分析専門家だけだ。

この映画の原作の原題はMoneyball:The Art of Winning An Unfair Game(不公正なゲームに勝つ手法)で、不公正とはヤンキースに代表される財力、それに拠らないで勝つ方法を述べたものだ。まず、運による数値ではなく、実力のみが反映される数値だけで選手を評価する。他の球団では表彰対象となる数値(打者なら打率、投手なら勝利数など)を重視しているのに対し、打者なら出塁率、長打率(この2つを合わせたものがOPS)、選球眼、慎重性、投手なら与四球、奪三振、被本塁打数、被長打率を重視する。結果的に埋もれた能力者を安く獲得できることになる。運に拠らず、3アウトとなる可能性を減ずることのみ追及することが勝利に繋がると考えるのだ。例えば、今年アメリカで批判されている大谷の得点圏打率・打点の低さなど「単なる偶然」と切って捨てる。当然1アウトをただで与えるバントは厳禁となる。危険性のある盗塁は作戦に用いない。

ビリー・ビーンの成功はアメリカ野球を変えた。ただ、皮肉なことに、どの球団もそのart(手法)を取り入れたので現在アスレチックスは常勝球団ではなくなり、やはり金満球団が強くなっている。そして、このartは、試合数が160試合もあり大数の法則の働くレギュラーシーズンでは有効だが、短期決戦であるプレーオフでは「揺らぎ」の影響が大きくなる(事実、当時アスレチックスは圧倒的な勝率を挙げたがプレーオフでは勝てず「ワールドチャンピオン」にはなっていない)。

バントの完全否定は私も支持する。ただ2020年からは状況が異なる。それは、試合時間短縮のため(引き分けを認めないMLBでは、試合終了が午前0時をまわることなど珍しくなかった)、延長戦タイブレーク制(無死2塁でスタートする)を採用しているからだ。延長に入ったら、少なくとも後攻チームは、先攻チームが無得点あるいは1得点の場合、先頭打者は絶対にバントをすべきだ。1点取れば勝てる(先攻が0の場合)のであるし、1点取らなければ負ける(先攻が1点の場合)のだから。これは確率的に証明できるはずだ。にもかかわらず、相変わらずほとんどのチームがしないのはバント練習そのものが消え去ったのか。

また、失敗の無い盗塁なら、魅せる要素として不可欠ということも強調したい。

アメリカでは野球人気はアメリカンフットボール、バスケットボールを下回るという。それにしては野球映画がよく作られる。人気が上のはずの2つのスポーツ映画は知らない。あるいは、作られても、興行成績を考えて日本公開はしないのか。普通のアメリカ映画の中でアメフトやバスケのシーンはよく見ることは確かだが。