取次店の指導を受けたのだろう、件の本屋(ここは、自らは何の考えも意欲も無い)に石井暁「自衛隊の闇組織」(講談社現代新書)が平積みされていた。9月終了したばかりの大ヒットした「VIVANT」(TBS)の影響であることは明白だ。手に取ってパラパラとめくってみる。終章に「佐藤優からは『インテリジェンスに関する戦後最大のスクープ』と過分な評価を受けた」とあったから、即、購買を決めた。
200ページ足らずの薄っぺらな本だが、内容も薄い。そのほとんどが取材の苦労話に終始するのだ。
新たに知ったことと言えば、海外展開先が「露・華・鮮」(ロシア・中国・朝鮮半島ー北朝鮮は無理なので韓国)であること位、だ。ここに軍人(自衛官)であることを隠して民間人として情報収集するのが「別班」である。
私は、軍人がヒューミント(人的情報活動)にたずさわることを問題視はしない。日露戦争勝利の1要因となった明石元二郎大佐の工作活動(ロシアの革命支援に代表される)を見れば自明のことだ。どこの国でもやっている。しかし、その活動を防衛相・首相も知らない「別班」の活動は、シビリアンコントロール上ゆゆしき問題と言わざるを得ない。
以下、ソ連崩壊の混乱時ゴルバチョフの生存を世界でただ1人突き止めた実績のあるインテリジェンスのプロ、佐藤優の鋭い分析を紹介する。
「自衛官を含む公務員が入手した情報は国民のものだ。その情報は国益のために用いなければならない。ヒューミントで得られた秘密情報は、外交・安全保障政策の決定に用いられて初めて意味を持つが、主管大臣である防衛相の統制から外れた別班が得た情報が、政府の決定に用いられることはあり得ない。なぜなら高いレベルの政策決定に影響を与えるような秘密情報については、情報の内容だけでなく、情報源の信頼度、入手の経緯、他の情報と照合した上での評価を併せて報告しなければならず、出所が明示できない別班の情報は評価の対象外になるからだ。」
「別班の名の下に『私的インテリジェンス』を行って、国家権力を簒奪しているにすぎない。・・・まさに日本のインテリジェンスの恥」とまで断罪している。
内容は薄いが、「別班」の存在をあぶり出した功績は大だ。日本テレビの「そこまで言って委員会」の識者がこの本の著者に対し、本当か?と訝しんでいたが、読了して、取材の困難さがわかり、様々な取材から、私は信憑性が担保されていると評価する。存在しないことになっており、自衛隊員でもほんの一部の者しかその存在を知らないのだから。にもかかわらず、5年半の長期にわたり取材を続けた著者は「痴漢にでっち上げられないよう注意しろ」とも佐藤優から忠告を受けている。著者にとって、いろいろ「佐藤さまさま」と思う。
本自体は5年前の出版だが、「VIVANTで話題沸騰!・・・「別班」の深層に迫った唯一の書」と腰巻にある。「VIVANT」は面白かった。しかし、現実の「別班」は放置してはならない。正規の組織にすべきだろう。