「愛されているのに、寂しいのか」
彼は、窓の外を眺める彼女の横顔を、見た。
彼女の横顔からは、何も読み取れなかった。
「寂しいわ」
窓の外を見たまま、彼女は応えた。
白い頬をいっそうほの白く見せる、淡い桜色の口紅を丁寧にほどこした形良く整った唇を、彼は見た。
唇は、再び無言となった。
彼女は、ゆっくりと彼のほうを見た。そして、真正面から、彼を見た。
一瞬、何の理由もなく、店内が静まり返ったような気が、彼にはした。
彼は、彼女の視線を受け止められなかった。
だから、唇を、見た。
そして、こう訊ねた。
「寂しいなら、どうするんだ。」
優しさの消えた低い声で、彼女は応えた。
「耐えるだけよ。ひとりで。」
桜色の唇が、閉じた。
唇の両端が、ほんの少し微笑みを形作ったように、彼には見えた。