△JR福島駅西口を歩く安倍首相

自民党総裁選に立候補した安倍晋三候補は9月18日、福島市のザ・セレクトン福島で演説し、「今は会津と長州はお友達ですから」と語った。唐突な発言だが、自民党総裁選に関心を持っている人であれば、何を言いたいのか想像がつく。8月26日の「薩長同盟」発言がきつい印象を与えたので、それを緩和しようとしたのだ。
安倍はその日、鹿児島県鹿屋市を訪れた。総裁選への立候補を踏まえた上で「しっかりと薩摩藩、長州藩が力を合わせて、新たな時代を切り開いていきたい」と強調。選挙区が山口4区の安倍は、戊辰戦争で勝ち組になった両藩が明治維新をリードしたと言いたくて、「薩長同盟」を持ち出したのだ。
この発言に対しては、東北地方などから反発の声が上がった。立憲民主党の枝野幸男代表 (栃木県出身)は「国民を分断するような、国全体のリーダーとしては間違った言い方だ」と批判した。

戊辰戦争では薩長同盟の新政府軍(西軍)と奥羽越列藩同盟の旧幕府軍(東軍)が戦い、新政府軍が勝った。この戦争で両軍の間に遺恨が生まれ、シコリが残った。それは現在も消えておらず、いまだに「会津VS長州」がよく話題になる。
今年は明治維新・戊辰戦争から150年に当たる。政府は「明治150年」をスローガンに掲げ、内閣官房に関連施策推進室を設けて、さまざまな記念事業を行っている。9月29日に開幕する福井国体は「明治150年記念」という冠がついた。政府が福井県に要請したのだ。

△JR会津若松駅前に掲げられたのぼり

一方、東北地方では「戊辰戦争150年」というスローガンが使われている。今年は明治維新から150年ではなく、戊辰戦争から150年という感覚なのだ。ここに勝ち組と負け組の意識の違いが表れている。
枝野が「国民を分断するような…」と批判したのは、安倍発言が寝た子を起こす行為に等しいからだ。安倍は、鹿児島県向けのリップサービスで「薩長同盟」を持ち出したのだろうが、総裁(事実上の総理)選を前にした発言としては明らかに不適切だった。

「薩長同盟」がデリケートな要素を含んでいることは安倍も知っているはずだ。過去を振り返ると、そのものズバリの発言もあった。
安倍は2007年4月14日、福島、会津若松、郡山、いわきの4市で街頭演説した(第1次政権時代)。参院補選に立候補した元福島県議会議長の山口勇候補を応援するためだ。当時の安倍はご当地ネタを得意にしており、各市でこんな話をした。

福島市「花見山(桜の名所・私有地)を一般解放しているのは阿部一郎さんです。『アベさん』に悪い人はいません」
会津若松市「山口県の先輩がご迷惑をかけました」
郡山市「(改修が計画されている)開成山野球場は立派な球場にすればいいんです。楽天と巨人が試合をするときは、私が始球式をします」
いわき市「(映画で有名になったスパリゾートハワイアンズの)フラガールは地域活性化の起爆剤です」

会津若松市での発言は、県内だけでなく、全国的に話題になった。「会津VS長州」は歴史にあまり関心のない人でも、関心を示すテーマだ。白虎隊がよくテレビドラマの題材になるのも、会津の悲劇が巷に知れわたっているからだ。
念のために言うと、この選挙は旧民主党の増子輝彦候補(現国民民主党幹事長代行)が山口候補に大差をつけ、初当選した。知名度の差が決定的だった(増子は衆院議員3期の実績あり)。

△JR会津若松駅にある福島民友の広告

2016年7月の参院選で自民党は大勝したが、新潟県を含む東北7県では正反対の結果が出た。各県とも改選議席が1という状況で、自民党は1勝6敗となった。自民党が議席を手にしたのは、元プロ野球選手の石井浩郎候補が再選を目指した秋田県だけ。選挙マニアの間では「なぜ、東北地方はこういう結果になったのか?」と話題になった。
これを受けて、秋田県の佐竹敬久知事は「戊辰戦争みたいだ」とコメントした。佐竹の本家である佐竹家の久保田藩は、戊辰戦争の途中で奥羽越列藩同盟を離脱し、新政府軍に参加した。その歴史的な事実を引き合いに出して、参院選の結果を論評したのだ。

秋田県は戊辰戦争で態度を変えた過去があるため、東北他県から裏切り者扱いされることがある。よく引き合いに出されるのが、1998年10月に開かれた「戊辰戦争130年IN角館」というイベントだ。各市長が出席した座談会で、白石市の川井貞一市長は「奥羽越列藩同盟が負けたのは秋田の裏切りのせいだ」と指摘し、お祭り的だった会場のムードを一変させた。

ただ、秋田県も一枚岩というわけではなない。現在の秋田県は久保田藩だけでなく、南部藩や亀田藩の領地も組み入れられている。久保田藩は前述したように奥羽越列藩同盟を離脱したが、南部藩と亀田藩は最後まで離脱しなかった。同じ県内に勝ち組と負け組が混在しているという複雑な事情を抱えているのだ。
それが秋田県民歌に影響を与えている。同県民歌は4番まであるが、公の場では2番までしか歌わず、3~4番は省略することが多い。3番に「錦旗を護りし 戊辰の栄は」という歌詞があるからだ。戊辰戦争で久保田藩が勝利したことを誇っているのだが、県内には負け組もいるので、歌うことを避けるようになったのだ。

△会津若松市の神明通りにも横断幕が…

安倍は「今は会津と長州はお友達ですから」と言ったが、これには伏線がある。
安倍は今年1月22日、施政方針演説の冒頭で山川健次郎(1854~1931年)を引き合いに出した。
「150年前、明治という時代が始まったその瞬間を、山川健次郎は政府軍と戦う白虎隊の一員として迎えました。しかし、明治政府は国の未来のために、彼の能力を生かし、活躍のチャンスを開きました」
そう前置きした上で、「あらゆる日本人にチャンスをつくることで、少子高齢化もきっと克服できる。今こそ、新たな国づくりのときです」と訴えた。

白虎隊出身の山川は、戊辰戦争で若松城籠城戦に参加し、薩長を中核とする新政府軍と戦った。戊辰戦争後は才能が認められてアメリカに国費留学。イェール大学で物理学の学位を取得して帰国した。48歳で東京帝国大学総長になり、後に九州帝国大学、京都帝国大学の総長なども務めた。「国の力は人に在り」を持論とし、貧しい家庭の若者に学問の道を開くことに力を入れた。

安倍の意図は明確だ。恵まれない境遇にあっても、才能があれば、あるいは努力すれば活躍のチャンスはあると言いたいのだ。同時に「明治政府(長州藩)は山川(会津藩)に活躍のチャンスを開いた」と言いたいのだ。これが「今は会津と長州はお友達」という発言につながっている。
ただ、長州藩が会津藩に寛容だったわけではない。各帝大の総長を務めた山川は、会津藩出身者では例外的な存在である。会津藩は領地を没収された上、旧藩士は下北半島の斗南藩に移住させられた。現地は過酷な自然条件だったので、苦しい生活をしいられた。

△会場に向かう吉野、菅家、森議員

安倍が18日に福島市で講演したのは、亀岡偉民衆院議員(福島1区、比例復活組)に依頼されたからだ。亀岡は同日、後援会女性の会の会合を開き、安倍を講師として招いた。女性の支持率が伸び悩む安倍にチャンスを提供した格好だ。
9月1日は白河市で石破茂候補が講演した。主催したのは女性リーダーの研究会。安倍が福島市で講演したのは、これに対抗する目的があったと見られる。
講演会の会場には菅家一郎衆院議員(福島4区)、復興相の吉野正芳衆院議員(福島5区)、森雅子参院議員(福島選挙区)もいた。

菅家は会津若松市長を経て、衆院議員になった。東日本大震災のときは市長を務めており、2011年4月に萩市から贈られた義援金2200万円の目録を受け取った。同年7月に萩市を訪問し、野村興児市長に感謝の意を示した。安倍が「今は会津と長州はお友達ですから」と言ったのは、こうしたことも背景にある。
ただ、今年は戊辰戦争150年という節目に当たる。このため、福島県では「あの戦争は何だったのか」「奥羽越列藩同盟はなぜ敗れたのか」ということを検証するムードが高まっている。福島民報や福島民友新聞だけでなく、全国紙(福島面)もそうした連載に取り組んでいる。会津若松市の各所には「戊辰150周年」というのぼりが掲げられており、長州とお友達になろうという空気は皆無だ。

【文と写真】角田保弘




9月16日、自民党総裁選の街頭演説会が仙台市青葉区の藤崎ファーストタワー前で開かれた。自民党の安倍晋三総裁と石破茂元幹事長の2人が街宣車の上から演説し、聴衆に支持を訴えた。聴衆は約1500人だった。
街宣車は道路に駐車し、聴衆は歩道で2人の演説を聴く格好になった。歩道が聴衆で埋め尽くされると、一般の歩行者が迷惑する。このため、歩道にカラーコーンが約1㍍間隔で2列に並べられ、その間が歩行者のための通路として確保された。聴衆はカラーコーンの東側と西側で演説を聴くように係員に指示された。通路で立ち止まった人に対しては、係員が「止まらないでください!」と注意した。

演説会の間、白いプラカードを掲げて通路を行き来する奇妙な集団がいた。
プラカードにはテレビ各局の報道姿勢を批判するフレーズが書いてあった。
「おい、金平茂紀 偏向報道は犯罪なんだよ!」
「おい、TBS 偏向報道は犯罪なんだよ!」
「おい、NHK 偏向報道は犯罪なんだよ!」
「おい、池上彰 子役に総理を叩かせる お前は日本の恥だ!」
「こら、フジテレビ 子役に総理を叩かせる お前らそれは犯罪だろ」
「こら フジテレビ 偏向報道は犯罪なんだよ!」
彼ら(女性が1人いた)は通路を何往復もした。立ち止まらなかったので、係員が注意することはなかった。演説会は1時間。15分で1キロくらい歩けるので、単純計算で計4キロ歩いたことになる。

そのフレーズからすると、彼らは安倍シンパのようだ。TBS、NHK、フジテレビが安倍に批判的な報道を繰り返しているので、こうしたプラカードを掲げて、抗議の意思を示したのだ(私自身はテレビなしの生活を6年半続けているので、各局の報道姿勢がよく分からない)。
演説会の終了後、彼らが1カ所に集合していたので、「(プラカードの)写真を撮らせてください」と声をかけてみた。リーダー格と見られる男性は「いいですよ」と即答。すると、他の人々は立ち位置をそれぞれ変え、お互いのプラカードが重ならないようにした。
「他の演説会場でも(同じ行為を)やっているんですか」と聞くと、リーダー格の男性は「やっています」と回答した。

彼らの近くに別の集団がおり、聴衆に新聞を配っていた。新聞の題字は「顕正新聞」。宗教団体「顕正会」のメンバーだ。同会は安倍政権と創価学会に批判的で、新聞もそうしたスタンスで記事が書かれている。
「顕正会って、創価学会と敵対している宗教団体ですよね?」と言うと、相手(中年女性)は「敵対しているのではなく、間違いを正しているんです」と強調した。「私は創価学会員じゃないし、シンパでもありませんから、そんなに力を込めて言わなくても大丈夫ですよ」と言うと、相手は「あっ、そうなんですか?」と苦笑いした。
新聞を目にした瞬間、「創価学会と敵対している宗教団体」と指摘したので、相手は「もしかして、創価学会員?」と警戒したようだ。
プラカードを掲げていた集団と顕正会は、政治的な立場が正反対だ。一方は安倍シンパで、もう一方は反安倍の立場を鮮明にしている。ただ、トラブルはなかった。プラカードを掲げていたのは30~40代の男性、顕正会のメンバーは中年女性が中心だったので、お互いにスルーしたのだ。共に30~40代の男性だったら、面白いことが起きたかもしれない。

今日18日は、福島市で安倍の演説会がある。街頭演説ではなく、屋内で行われる。主催は亀岡偉民衆院議員の事務所(福島1区)=昨年10月の衆院選は小選挙区で落選、比例で復活当選=なので、石破は出席しない。
会場や開始時間は公表されていない。ネットでいくら検索しても出てこないが、私は知っている。
部外者なので、会場に入るのは難しいだろう。ただ、安倍の写真を撮りたいので、会場の近くで張り込みをしたいと思う。そのとき、警官に職務質問されるのは確実だ。

安倍が福島県に足を運ぶのは今年3月10日以来だ。このときは、相馬福島道路の開通式に出席することが目的だった。
私は安倍の写真を撮るためにJR福島駅西口で待機した。すると、警官に職務質問され、名前、住所、職業を聞かれた。その後は世間話になり、安倍が到着するまで1時間半も警官と付き合うはめになった。
今回も同じ展開になるだろう。警官に「なぜ、ここにいるのか?」と事情を聞かれるのは確実。説明するのが面倒なので、本ブログを提示し「これを読んでください」と言おうと思っている。そのために、急いでこのブログを書いた。ブログを提示したら、警官はどんな反応を示すだろうか。

【文と写真】角田保弘