「また枝毛できとるやんけ」

ナイトのように仕える秀希と対照的に、保志は女たちに容赦なかった。しかし「今日はトリートメントしていけ。俺がやったるから」と有無を言わさず強引にリードされればNOと言える客はおらず、施術後は

「な?俺の言うた通りやろ?めっちゃ綺麗になったで。俺まで惚れてまう」と優しく髪を撫でるのだから女はまた夢中になる。たとえ予算を大幅に上回る料金になったとしても、逆に

「保志にビシビシ言われたおかげで綺麗になった」と満足して次回の予約を入れて帰って行くのだった。

 

「なんてうまいんだ…」

聖也は舌を巻いていた。

これまでの自分はせいぜい大学の構内か夜の街でキャーキャー言われて遊ぶばかりで、ここまで女たちに貢がせた経験はない。それどころか尽くせば尽くすほど面倒がられては惨めに捨てられボロボロに傷ついてきた。ところが秀希と保志はどうだ。客への接し方は極端に異なる二人でも、それぞれの個性で彼女たちを「もっと、もっと」と、さらにのめり込ませる魅力に満ちている。そもそも客に店の前で入り待ちをされる美容師など彼らの他にいるだろうか。しかもそこに保志はポルシェで秀希に至ってはなんとフェラーリで現れるのだ。二人がそれぞれの車から降り立つたびに取り巻きのファンにはどよめきが起きる。そして片手を上げ自信に満ちた笑顔で歓迎に応える彼らの姿はもはや美容師を超越したスターそのものであった。そしてそれが毎朝繰り広げられることに違和感さえ抱かせないほど彼らの姿は輝いていた。

 

スターというよりもう神様じゃないか―――。

 

床に無数に舞い落ちた髪をモップでぼんやり掃き集めながら聖也は二人の神の背中を見つめていた。

 

「聖也くん」

その日最後の客を見送りドアに施錠したあと、秀希が声をかけてきた。

「君、床掃除はもっと気を入れてやってね。ぼんやりしてちゃだめだよ」

彼は客の髪をあざやかな手つきでカットしながら鏡越しに聖也の仕事ぶりを見抜いていたのだ。

「それから、さっきのお客様にお出しした雑誌さ、あんな若いお嬢さんに『週刊プロレス』はないだろう」

「タオルの洗い方も足りないから頑張って。飲み物を出すタイミングも見計らってね。シャンプー台の掃除が十分でないよ。予約の電話の取り方ももう少しはきはきと。それから…」

 

美容室「CIEL」は夜更けまで銀座の街に明かりを灯し続けていた。

 

                            つづく