冬の東京。
限界まで凍えた夜の風は、六本木にも強く吹き抜ける。
聖也は一人で歩いていた。目的地はなかった。
昼過ぎに起き出して夕方までテレビを見るが、夕闇が迫ってくると寂しくてたまらない。だから毎日のように母親から小遣いを受け取ってはこの街に逃げ出してくる。
今夜の六本木はまるで異国のように感じる。酔ってはしゃぎ通り過ぎる若者の狂態が目に入るだけで苦しい。
自分以上に惨めな人間がこの街に一人でもいるのだろうか。
大学は二年で退学した。バイトは一年でクビになった。女には半年でふられた。
大学中退は、自分が怠けていたのだから当然の結果だ。気楽だったカラオケ屋のアルバイトも、遅刻を繰り返せば雇い側だって我慢の限界もくるだろう。
しかしエミの仕打ちはあまりにも残酷だった。付き合い始めたころの彼女は会うたびに嬉しそうにしていた。「一緒にいるだけで幸せ」と言っていた。初めて小さな指輪を贈ってはちきれるほどの笑顔を返された時は、自分が男として生きている実感があった。
その悦びを知ってからは、聖也の贈り物はエスカレートしていった。ブランドバッグ。靴。ホテルのディナー。海外旅行。。。。しかし、額が増せば増すほど、彼女は逆に冷淡になっていった。贈り物がないデートの日は、あからさまに時計を気にして帰りたがった。「次の土曜には箱根の旅館に泊まろう。豪華だよ」。そう言うとぱっと表情は華やぐが、次に会う時はまた不機嫌になっていた。
聖也の容姿は圧倒的だった。初対面の女はきまって自分にぼう、と見とれることを彼は知っていた。自分はすべての女に選択権を持っていたと言っていい。ところが彼に選ばれた女はきまって、いざ本格的に交際が始まるや退屈そうにあくびをかみ殺し始める。関係は深まりながらも「その日は用事があるのよ」と、別の都合を優先し始める。決定的だったのは「すごいお金持ちのお坊ちゃまだって聞いたけど実際は大したことないって言ってたぜ」と友人から聞かされた瞬間だった。幼いころから使わずに取っていた小遣いとお年玉とバイト代の、百万以上もの金をすべて費やした結果がそれだった。
エミに限らない。聖也が女と交際し始めるといつも結末はこうだった。「俺が彼女を選んだ」「彼女は俺に選ばれた」はずだったのに。俺の何がいけないんだ。納得がいかなかった。いや、本当はうすうすわかっていた。
俺と二人きりだとそんなにつまらないのか。
根源的な答えが明確に見えてくるにつれ、聖也の心は沈み込む。ちやほやしてくる女は、しょせんその他大勢の取り巻きにすぎない。それを軽くあしらえばあしらうほど、女たちは夢中になる。しかしそのうちの一人にひとたび自分をさらけ出せば、とたんに立場は逆転して飽きられる。その現実は聖也のプライドをずたずたに切り裂いた。
夜の六本木はひたすら喧騒の街だった。
一人さまよう聖也だけが、ただ打ちのめされていた。
つづく
大学は二年で退学した。バイトは一年でクビになった。女には半年でふられた。
大学中退は、自分が怠けていたのだから当然の結果だ。気楽だったカラオケ屋のアルバイトも、遅刻を繰り返せば雇い側だって我慢の限界もくるだろう。
しかしエミの仕打ちはあまりにも残酷だった。付き合い始めたころの彼女は会うたびに嬉しそうにしていた。「一緒にいるだけで幸せ」と言っていた。初めて小さな指輪を贈ってはちきれるほどの笑顔を返された時は、自分が男として生きている実感があった。
その悦びを知ってからは、聖也の贈り物はエスカレートしていった。ブランドバッグ。靴。ホテルのディナー。海外旅行。。。。しかし、額が増せば増すほど、彼女は逆に冷淡になっていった。贈り物がないデートの日は、あからさまに時計を気にして帰りたがった。「次の土曜には箱根の旅館に泊まろう。豪華だよ」。そう言うとぱっと表情は華やぐが、次に会う時はまた不機嫌になっていた。
聖也の容姿は圧倒的だった。初対面の女はきまって自分にぼう、と見とれることを彼は知っていた。自分はすべての女に選択権を持っていたと言っていい。ところが彼に選ばれた女はきまって、いざ本格的に交際が始まるや退屈そうにあくびをかみ殺し始める。関係は深まりながらも「その日は用事があるのよ」と、別の都合を優先し始める。決定的だったのは「すごいお金持ちのお坊ちゃまだって聞いたけど実際は大したことないって言ってたぜ」と友人から聞かされた瞬間だった。幼いころから使わずに取っていた小遣いとお年玉とバイト代の、百万以上もの金をすべて費やした結果がそれだった。
エミに限らない。聖也が女と交際し始めるといつも結末はこうだった。「俺が彼女を選んだ」「彼女は俺に選ばれた」はずだったのに。俺の何がいけないんだ。納得がいかなかった。いや、本当はうすうすわかっていた。
俺と二人きりだとそんなにつまらないのか。
根源的な答えが明確に見えてくるにつれ、聖也の心は沈み込む。ちやほやしてくる女は、しょせんその他大勢の取り巻きにすぎない。それを軽くあしらえばあしらうほど、女たちは夢中になる。しかしそのうちの一人にひとたび自分をさらけ出せば、とたんに立場は逆転して飽きられる。その現実は聖也のプライドをずたずたに切り裂いた。
夜の六本木はひたすら喧騒の街だった。
一人さまよう聖也だけが、ただ打ちのめされていた。
つづく