樋口英明 元最高裁裁判長
原発は圧力容器の中にウラン燃料が入っている。
ウラン燃料は水に浸されている。
ウラン燃料が熱を発し水蒸気が出る。
水蒸気でタービンを回し電力を作るという単純な仕組み。
どの原子炉も広島型原発の1000万発分の死の灰の威力をもつ。
原発はいざ地震が起きたとき、
普通の火力発電のように「止める」で済むものではない。
「止める 冷やす 閉じ込める」を行わなければならない厄介なもの。

311福一事故の際に1〜3号機までが動いていたが、
最も危険だったのは、4号機であった。
4号機には、使用済み核燃料もプールに浸して置いてあった。
この水は4〜5日でなくなる。
3/11に事故が起き、15日頃になると水が失くなり、
使用済み核燃料が頭を出せばメルトダウンし、
日本は一巻の終わりだとアメリカなどは絶望視していた。
菅直人が原子力委員会の近藤駿介 委員長に、
被害のシュミレーションを依頼したところ、
原発から250kmの範囲が避難区域になると算出した。
東京を含む東日本が全滅となるという事だ。
使用済み核燃料の貯蔵プールの水が、
なくなってしまえば、一巻の終わりである。
この危機一髪の状況で、奇跡が起こったのだ。
事故当日、4号機はちょうど定期点検中で、
震災4日前から原子炉ウエルに水を張っていた。
たまたま、工事が遅れていたのである。
そして、その横に使用済み核燃料を沈めた貯蔵プールがあった。
未だに理由は分からないが、
なんらかの理由で、たまたま工事が遅れて水を貯めていた原子炉ウエルと
貯蔵プールの間の「仕切りがずれて」「水が流れ込んだ」のである。
これが4号機の奇跡である。
奇跡は他にもあった。
2号機の奇跡。

2号機は運転してた。
原発のウラン燃料は熱を発し続け沸騰し続け、
普段は自分で起こした電気で
海水をぐるぐる回して自分で冷やしているが、
いざ、地震が来て、
制御棒をウラン燃料の間に差し込んで運転を停止すると、
電気を起こさなくなり、海水を循環させる事ができなくなる。
熱を発し続けるウラン燃料を冷やす事ができなくなるのである。
ウラン燃料が水から頭を出し、メルトダウンする。
火力発電所の電気を送電線で引っ張ってきて、
海水を循環させて冷やす方法があるが、
地震で鉄塔が倒れて使えなかった。
次に非常用電源を使う方法があるが、
非常用電源の一系統は地震でやられ、
それ以外は津波でやられた。
2号機の格納容器の圧力は、
設計基準の2倍を超えて高まっていた。
圧力が高まると爆発してしまう。
爆発させないためには、
放射能もろとも空気を抜く(ベント)しかない。
吉田所長はベントを部下に命じたが、
ベントできなかった。
吉田所長の脳裏には、250kmが放射能汚染され、
東日本壊滅の文字が浮かんだだろう。
しかし、なぜか爆発せずに助かった。
なぜか理由ははっきりとは分からない。
要は、欠陥機であったために、どこかの空気が抜けたのだ。
さらに奇跡は続く。
「風向き」の幸運である。
風向きがほとんど西から東に吹いたのだ。
偏西風というのは、ずっと上の方を通る風で、
下の方を吹く風は、運次第なのだ。
チェルノブイリでは南風が多く吹き、北側の被害が大きかった。
福一では、西風が多かったので、
ほとんどが海に流れ、
放射能被害が事故の大きさの割に少なく済んだ。
しかし、トモダチ作戦に来ていた米兵が被爆した。
いくつもの奇跡によって、
途轍もない規模の原発事故の中で、
日本壊滅が辛うじて免れたのである。