ソニーがSony/ATV Music Publishingの
未保有の持分50%を取得することを
ソニーとMJ財団が合意
◆ぼくらの可愛い坊やSONY
ソニーの創業者、井深大氏と盛田昭夫氏。
彼らは根っからの技術者、ものづくり屋だった。
清志郎は、
内ポケットにいつも oh~トランジスタラジオ、
う~授業をさぼって、ひとりホットなナンバーを聴いた。
RCの『トランジスタラジオ』――
日本人が作った小型トランジスタラジオから、
教室で教科書を広げている彼女も 誰も知らないメロディーが
空に溶けてく・・
清志郎は・・
こんな気持ち、うまく言えたことがない、ないないない~と。
世界中の音楽小僧たちに小型ラジオを届けた
かつて無線に夢中だったソニーの創業者たちは、
誰よりも、清志郎の、こんな気持ち、の
理解者だったにちがいない。
彼らがこの歌を聴いたなら、
我が意を得たりと満面の笑顔、さぞ満足だっただろう。
ソニーの創業時経営方針
一 不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に
重点を置き、いたずらに規模の大を追わず。
一 経営規模としては、むしろ小なるを望み、
大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、
技術の進路と経営活動を期する。
一 極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、
量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い
高級技術製品を対象とす。
また、単に電気、機械等の形式的分類は避け、
その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶対許さざる境地に
独自なる製品化を行う。
一 技術界・業界に多くの知己関係と、
絶大なる信用を有するわが社の特長を最高度に活用。
以て大資本に充分匹敵するに足る生産活動、販路の開拓、
資材の獲得等を相互扶助的に行う。
一 従来の下請工場を独立自主的経営の方向へ指導・育成し、
相互扶助の陣営の拡大強化を図る。
一 従業員は厳選されたる、かなり小員数をもって構成し、
形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、
人格主義の上に置き個人の技能を最大限に発揮せしむ。
一 会社の余剰利益は、適切なる方法をもって全従業員に配分、
また生活安定の道も実質的面より充分考慮・援助し、
会社の仕事すなわち自己の仕事の観念を徹底せしむ。
なんという素晴らしい経営方針!
「小」という文字が愉快に躍っている。
ぴかぴかの小さな坊やが歌を歌いながら弾んでいるよう。
キュッと小さいということは素敵なこと。
日本人でこその発想だ。
盛田氏は「国際人」と称されることに違和感を感じていたようで、
「私は、国際人ではなく、日本人だ」と言った。
井深氏も盛田氏も、戦争中は、
宮崎駿の『風立ちぬ』の主人公のように、
御国の軍需開発に取り込まれた技術者だった。
ここに揚げた経営方針の他に、
『会社設立の目的』という8か条を読むと解るが、
自分たちは、仲間と共に仕事を伸び伸びと愉しんで、
お国のためではなく、国民のために貢献するのだ
という精神が伝わってくる。
日立、三菱電機、東芝は今も官公庁需要に寄った会社だが、
ソニーは、そうではない点で異質な道を選んだ会社だった。
内外を問わず消費者が楽しめる良いものづくりを志して
必然的に海外に出て行ったのだ。
『SONY』というブランド名は、
音(sound)の語源であるラテン語のsonusと
「可愛いい坊や」という意味のsonnyを重ねて
「SONY」の4文字に落ち着いたという。
これは自分達の会社は小さな子どものようだが、
溌剌とした者の集まりであるという意味を込めたという。
しかし、ソニーは、可愛い坊やではなくなった。
今や、外国人の持ち株比が55.8%(2015年)となった。
ソニーは、もはや、"ぼくらのソニー"ではない。
◆世界のSONY 盛田~大賀
ソニーは、1975年以降「ソニーのベータ対松下のVHS」
性能の良いハードを持ちながら
1988年、いわゆる「ビデオ戦争」に完全に大敗した。
その反省から「ハードとソフトの両輪経営」に乗り出した。
1989年、盛田氏の後継、ソニーの社長になった大賀典雄氏の時代だ。
大賀氏は、盛田氏が惚れ込み、
3日3晩、口説き招き入れた人物で、
ソニーのブランドイメージ、インダストリアルデザインを作って来た。
東京芸大卒後、ドイツに留学しベルリン国立芸術大学卒、
二期会でバリトン歌手をしていたという変わり種でもある。
1988年にCBSレコードグループを買収して、
ソニー・ミュージックエンタテインメントを設立。
1989年にはコロンビア映画を買収して
ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを設立。
コロンビアを買収したときに「日本はアメリカの魂を買った」
とまで言われたが、これは盛田会長の意向によるものだったと言われる。
この買収されたCBSレコードの子会社のエピック・レコードに
1975年からモータウンから移籍していた金の卵が、
ジャクソンズのマイケルジャクソンだ。
80年代からソニーは、マイケル特需に多大な恩恵を受けた。
◆さよならSONY 出井~ストリンガー
大賀氏は、後継者について、盛田氏から
「次はエンジニアを社長にしてくれ」と頼まれていたので、
大賀氏は腹の中では、丸山茂雄氏と決めていたが、
マスコミによる丸山氏のスキャンダル攻撃のため、これが叶わず、
1995年、初のサラリーマン社長出井伸之氏が後継となった。
出井氏は、デジタル化時代に対応する
「デジタル・ドリーム・キッズ」を唱え、
ガバナンスも欧米流の事業部制の複合企業へと変貌させていった。
ソニーは、コンテンツとしては、
上記のソニー・ミュージック、ソニー・ピクチャーズを抱え、
ハードとしては、CD/MD、ウォークマン、ゲーム機、VAIO、
ハンディカム、デジタルカメラ、
そしてメモリースティックまで開発していた。
つまり、AV機器とIT機器すべてをネットワーク化できる
まさに、「ハードとソフトの両輪」をもつ状況に立っていた。
にもかかわらず、優れたデジタル商品を
インターネットにつなげることができなかった。
当時ソニーは世界最大のCDディスク生産企業であり、
ソニーに参するアーティストは1枚のアルバムで創作表現を行う。
著作権の問題もあるだろう。
このような点で、ソニーは、利害相反に陥り、
顧客の不満に対応できなかったのだ。
2003年4月、東証でソニー株が急落。
世界のソニーブランドの株価暴落に連動して
市場は売り一色となり「ソニーショック」と呼ばれた。
(因みに、マイケルは、音楽メディア界の「ダウンロード」という変革に敏感に反応していた。
彼は、明確に、顧客、市場に眼差しを向けている。
*2003-07-16日 米下院に新法案が提出された。
違法なファイル交換に重い刑罰を科すものであった。
この法案がもし通れば、ひとつでも著作権で保護された作品を
ダウンロードすれば、重罪にするもので音楽もそこに含まれる。
マイケル・ジャクソンは、この法案が可決されることに異議を唱え
メディアに対して自分自身の利益よりもアーチストとファンにとって
よりよい方法に焦点を当て以下の声明を発表した。
「楽曲をダウンロードした音楽ファンを刑務所送りにして
懲らしめるなんて考えには僕は言葉も出ない。
違法ダウンロードは間違ったことだが、
その解決策が刑務所であるはずがない」
「ここアメリカでは、逆境から新しい機会を創りあげてきた。
決してそれは刑罰の法ではなかった。
僕たちは新しい技術を見つけるべきで、
APPLEのニューミュージックストアのような解決策を。
こういう方法の革新が続くのがアメリカの証明なんだ。
音楽ビジネスの成功がファンあってこそなのだということを
僕は忘れられていないだろうということを祈る。」こう語った。
その後、2005年に退陣した出井氏の後任は、
初の外国人社長、映画事業を軌道に乗せたストリンガー氏。
「Sony United」を謳い企業の統合を行ったが、
市場が求める肝心のハード機器とネットを結ぶことは、
眼中になかった。
ソニーの充実した「ハードとソフトの両輪」は、
連動することなく空回りし、ストリンガー時代から、
ソニーは資産売却に走って行った。
◆見知らぬSONY 平井
2012年4月、ストリンガーの後任として、
平井一夫氏がソニーの社長となった。
ソニーは、もう、なり振りかまわない。
資産の"大放出"をはじめた。
もちろん、それに伴い大量のリストラも行われた。
技術者も去って行った。
2013年に、ニューヨーク本社ビル、ソニーシティ大崎ビル、
エムスリー<2413.T>株の一部など不動産や株式の売却。
エムスリー株の一部、スカパーJSATホールディングス<9412.T>株の
全保有株を売却。
2014年には、楽曲情報事業の米グレースノートを売却したのに続き、
パソコン「VAIO」事業を譲渡。
創業の地に建つ旧本社ビル(NSビル)も売却した。
2015年10月半ば、マイケルが1985年に買収したATVの
株式の半分50%を買い取り、
1995年に設立した合弁会社ソニー/ATVミュージックパブリッシングの
持ち分を売却することを検討しているという情報がリークされた。
この件においては、契約上「バイ・セル」という条項があり、
売却する場合は、互いが買収する権利を持つというものだ。
よって、買い手は、MJ財団ということになる。
ところが、先日、情勢は逆転し、
ソニー側がMJ財団の50%の株式を買い取るという。
ソニーは、出井氏以降20年低迷し続け、
2014年は191億円の赤字だったが、
会社経営の決算を赤字から黒字にする安直な方法、
社長命令で人減らしをして人件費を減らす、
その手を使っても尚赤字という、
内容の「悪い赤字」だった。
たしかに、2015年、"画像センサー"が好調で、
営業益2000億円超となったという。
2015年、ソニーは、2017年度までの3年の中期経営計画において、
3つの柱を立てた。
一つが、デバイス事業、CMOS"画像センサー"の増産。
一つが、分社化の推進。結果責任、説明責任を明確にし
競争力を高める。
そして、もう一つが、
特定の顧客と継続的で安定したビジネスを行う方針を打ち出し、
これを「リカーリング事業」と呼んでいる。
「recurring=循環する」
今回のMJ財団から7億5000万ドル(約840億円)で取得した
50%のソニー/ATV株式購入は、この一環ということになる。
安定収益につながる楽曲の著作権管理を主力とする
パブリッシング事業は、recurringする。
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しかし、
なぜ、MJ財団は、この版権を売却するという判断を下したのだろう。
マイケルは、決して望まなかっただろう。
つづく・・・