
人間もまた、この世界に生きる
ちいさな一匹の獣。
この宇宙に存在するものすべては、
備えられた霊力を精一杯に鬩ぎ合せながら
調和している。
久々に物凄い映画に出会ってしまった。
全感情が決壊し、
どこから溢れ来るのか解らない涙が・・。゚(T^T)゚。
モーリス・センダックの
「かいじゅうたちのいるところ」
あるいは、宮崎駿の「もののけ姫」・・
野性の魂を描いた傑作は、数々あれど、
今までに見たこともない
聖なる怪獣の姫君を 実写で拝みたいなら、
製作費200万ドルという低予算映画で、
ルイジアナ・モンテガットの地元住民とともに作られた
「ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~」がお奨めだ。
ハッシュパピーは、
私たちの中に、小さな怪獣が眠っていることを教えてくれる。
人間は、毛皮を脱ぎ、牙を落とし、前脚を地面から離し、
その手でせっせと強力な武器を作り、
終いに、命から放射する霊力を錆びつかせてしまった。
どうせなら
自由になった両手で
せっせとおいしいソウルフードをつくって
子供を抱きしめ
ダンスを踊ろう。
魂の底から溢れる涙を流し、
錆を洗い流し、
霊力を復活させよ!
ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~
原題: Beasts of the Southern Wild
父親ウィンクと二人で暮らす、
少女ハッシュパピーは、
全ての生き物の、それぞれの鼓動に耳を澄ます。
そして、信じている。
「この世界は繊細な仕組みを持ちながら、
命を持ち、呼吸をし、生きている。
そして宇宙にあるすべてのものがうまく収まっている。」と。
南ルイジアナのミシシッピ川の三角州、
『バスタブ』と呼ばれる
文明に見捨てられ、沈みゆく
「バイユー・カントリー」には
ケージャン・クレールの民が住む。
彼らの土地は、地球温暖化、水質汚染の影響を忽ち受け、
ひと嵐来れば、家は水没してしまうワイルドで危険な環境だ。
政府は、彼らを島から強制退去させ
難民キャンプに指定した病院に押し込めようとするが、
彼らは、支配され飼いならされることを拒絶し
自由を選択した民の末裔なのだ。
国も彼らを支配することはできない。
彼らは獣なのだ。
心臓病を患い余命わずかなハッシュパピーの父は、
難民キャンプの病院のベッドに括られ、
現代医療を受けながら死ぬことを望まない。
彼らは故郷に戻ろうと病院から逃亡するのだった。
いつしかバスタブの子供たちは、
母が住んでいると信じている海の彼方を目指して
漂うように海を泳いでいた。
海で彷徨う子供たちは、不思議な舟に拾われ助けられる。
そして、幻のような海辺の船上のナイトクラブに連れて行かれ、
湯気の立つ料理と灯りの煌めくホールで、
娼婦に抱きしめられてダンスを踊った。
すべてがバスタブにはないもので満ちている。
現実の厳しさを忘れさせてくれる安らぎだ。
子供たちは、母のような優しい胸に顔をうずめ、
甘い香りに満たされるのだった。
しかし、ハッシュパピーは、
父のもとに戻らねばならない。
母に似た面影を漂わせる娼婦の抱擁を
振り払って、決然とバスタブに向かった。
家が沈み、動物たちは沼の中で腐敗し、
魚は、腹を見せて浮かんでいる。
父の心臓も鼓動が止まる時が近づいていた。
ハッシュパピーは、
自然界の秩序が崩壊に向かい、
有史以前の獰猛な猛獣たちが氷河の墓場から目覚め、
大地を横切って全てを踏み潰しに来る足音を聞く。
しかし、ハッシュパピーは、
野人のようにバスタブを生き抜いた父に
魂の底に宿る野性の力を学んだ少女だ。
ちいさな身体を震わせて、雄叫びをあげれば
生命力が満々と漲る。
地響きを轟かせて迫ってくる巨大な猛獣の足音。
ついに、猛獣が、目前に迫ってきた。
世界の破滅が迫ってきた。
巨大な猛獣は、
ハッシュパピーの鼻先にまで迫り、
少女の目をじっと見つめ、
その目が、自然の理を直観的に知っている
賢者のものだと悟ると、
前脚を折って、跪き、
やがて、去っていく。
ちいさな少女が、猛獣の行進を
鎮めたのだ。
彼女の名前は、hushpuppy。
hushpuppyという言葉の意味を調べてみた。

因みに、古くルイジアナのケージャン達の間に伝わる
球状の揚げパンをhushpuppyと言う。
これを揚げるといい香りが辺りに漂い、
犬達は吠え始める。
ケージャン達は、
犬(puppy)を、黙らせる(hush)ために、
この揚げパンを投げ分けてやった。
hushpuppyとは、
ケージャン達の知恵が息づくソウルフードの
名前なのである。
ハッシュパピーのママが作るのは、
特製の鰐の肉入りのhushpuppyだ。
つまり、その名が意味するのは、
バッファローブルのような巨大な猛獣も
子犬のように黙らせる霊力。
恐れたり、捻じ伏せるのではなく、
分ち合うことによって和解する力だ。
やがて、
父の心臓は、鼓動を止めた。
ハッシュパピーは、父の舟に亡骸を浮かべ、
火を点けて、海へと流した。
死もまた、この世界は繊細な仕組みの中に
うまくおさまっていくことなのだ。
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ケージャンたちが暮らすバイユーとは、
チョクトー語で「小さな小川」を意味する
bayukに由来する。
ルイジアナのバイユー
ケージャンとは、北米にあるフランスのアカディア植民地に居住していたフランス語系の人々のうち現在の米国ルイジアナ州に移住した人々とその子孫。
クレールとは、フランス人とアフリカ人、インディアンの混血を意味する。
北米アカディアのフランス系住民は18世紀半ばのフレンチ・インディアン戦争が起こった。
イギリス人入植者が敵対したのは、フランス軍及び、フランス軍と同盟を結んだインディアンの部族である。
ケージャンこと、彼らアカディア人(acadian)たちは、イギリス国王に対する忠誠表明を拒否したため、英国植民地に強制追放され、ルイジアナに分散して移住した。ルイジアナ州のニューオリンズおよびルイジアナ州南部の「アケイディアナ」と呼ばれる地域に定着した集団がよく知られている。