
『ゆきゆきて、神軍 (1987年公開)』
これほど衝撃的なドキュメンタリーは、観たことがない。
キャッチコピーは「知らぬ存ぜぬは許しません」
ニューギニア戦の地獄の中から生き残った一人の兵士の、
沸点を超えて揮発する怒り。彼の狂気をどうとらえればいいのか?!
彼の国家、戦争への怨念の凄まじさは、戦地で果てた兵士の亡霊の怨念の如き。
チャップリンの『殺人狂時代』以上の作品だと思う。
英題は『The Emperor's Naked Army Marches On』である。
マイケル・ムーア監督は、
「生涯観た映画の中でも最高のドキュメンタリーだ。」と語った。
奥崎謙三は、太平洋戦争の
元独立工兵隊第36連隊のウェワク残留隊、
出陣した兵士の9割が死亡したニューギニア戦の生き残りである。
飢餓とマラリヤに苦しんだ日本兵の一人で、
奇跡的に日本に生きて帰ってきた。
69年に、死んだ戦友の怨念をこめて“ヤマザキ、天皇を撃て!"と叫んで、
天皇にパチンコ玉4個を発射した男である。
奥崎は、ニューギニアの地に自分の手で埋葬した戦友、故・島本一等兵の母を訪ね、
彼女をニューギニアの旅に連れていくことを約束した。
奥崎は、隊長による部下射殺事件があったことを知り、
殺害された二人の兵士の親族とともに、処刑に関与したとされる元隊員たちを訪ね、
真相を追い求める。
奥崎の暴力を以ってしてでも自白を迫る詰問に対し、
当事者らは、処刑に立ちあったことは白状したものの、
ある者は空砲だったと言い、ある者は二人をはずして引き金を引いたと言う。
いったい誰が彼らを“撃った"のかは不明のままだった。
しかし、そこで語られた話は、さらに、恐ろしい。
彼らは飢餓状況の中で人肉を食したことをも証言するのだった。
黒人兵や原住民を「黒豚」と呼び食し、
そればかりでなく、隊の下級の兵など無用な者から殺されて、
食肉となっていった事実が、重い口から語られていく。
兵隊の中で派閥のようなものができ、
次は誰を殺すかという鬼気迫る極限的な状況にあり、
兵士の間で、カニバリズムが行われていたのだ。
そして、隊の生き残り山田吉太郎元軍曹に悲惨な体験を
ありのままに証言するように迫り、
ついに、処刑の責任者である古清水元中隊長と対決する時を迎える。
そして--1983年12月15日、奥崎は、改造拳銃を持って古清水宅に押しかけ、
たまたま応対した息子に発砲し、逮捕され、
3年後の86年9月18日に妻・シズミが死亡。
87年1月28日、殺人未遂罪などの罪で懲役12年の実刑判決を受けた。
このドキュメンタリーの撮影は、
1982年初頭から1983年春にかけて行われたが、
発砲事件以前の1983年3月、西ニューギニアで2週間ロケが行われ、
クライマックスとして、奥崎が俘虜となった集落を訪れるシーンなどが撮影されたが、
帰国当日にインドネシア情報省にフィルムを没収されたため、
この「ニューギニア篇」は陽の目を見なかった。