昨夜、23時47分。私はサーキュレーターを買いました。3,980円。商品ページの一番上に出ていた一行、「総じて高評価。運転音がやや気になるという声も少数あり」。それだけ読んで、購入確定まで40秒でした。

星の数も、レビュー本文も、1件も見ていません。今朝、妻に「なんでそのサーキュレーターにしたの」と聞かれて、私は固まりました。答えが出てこないんです。「AIが、いいって言ってたから」。それ以外、何も出てこない。うちの妻は日常の無駄遣いを検知する中央銀行総裁のような人で、この手の質問を外しません。

その数時間後、あるnote記事を読んで、この感覚に名前がついていると知りました。「AIに考えさせると、人は考えなくなる」という話を、買い物を例に論じた記事です。読みながら、昨夜のサーキュレーターのことを思い出して、背筋がひやっとしました(参考として記事末にリンクを置きます)。

これ、ECをやっている側からすると笑えない話です。今日はその話をします。

「レビュー要約本位制」――一行が、貨幣になった

ちょっと大げさな言い方をさせてください。いま、買い物の世界ではレビュー要約本位制が始まっています(今、名付けました)。

昔の金本位制は、金がある分だけお札を刷っていい、というルールでした。お札の価値の裏には、金庫の金がある。同じように、昔の買い物には「自分で読んだレビューの量」という裏付けがありました。20件読んで、星3の人の不満まで目を通して、それでも買う。その納得が、購入ボタンの裏付けでした。

レビュー要約本位制では、裏付けが「AIの一行」に置き換わります。自分では一件も読んでいない。それでも「AIが総合して高評価と言った」という一行が、納得の代わりに流通する。私のサーキュレーターも、まさにこれでした。

ここで正直に言っておくと、AI要約が効くのは基本、商品ページの中、つまり「どの商品を選ぶか」の場面です。 同じ商品を複数の店が扱っているケースでは、「どの店で買うか」の場面にも同じ理屈が働くはずだ、というのが私の見立てです。楽天やAmazonのマーケットプレイスは、まさにこの「同じ商品、複数の店」が起きやすい場所です。

判断の傭兵契約――脳の仕事を、外に出す

この現象には、ちゃんと名前があります。認知オフローディング。冒頭のnote記事で紹介されていた概念で、要は「考える作業の外注」です。

覚える、比べる、判断する、といった脳の仕事を、外(メモ・電卓・検索・AI)に出すこと自体は、人類がずっとやってきた、ごく普通のことです。電話番号を全部暗記している人は、今いません。スマホに外注したからです。それで誰も困っていない。夕飯のおかずを自分で決められない人も何人か知っています。一人は、私です。

問題は、外注していい仕事と、外注すると自分が空っぽになる仕事が、見た目そっくりなことです。ここで新しく名付けさせてください。判断の傭兵契約。自分の脳の一番手強い仕事、「なぜこれを選ぶのか」という判断そのものを、AIという傭兵に丸ごと委託する契約のことです。

傭兵は強い。戦(比較検討)は一瞬で片付く。でも契約が切れた瞬間、つまりAIの一行が手元から消えた瞬間、自分の陣地には何も残っていません。今朝の私がそうでした。妻に「AIが言ってたから」以外の返事ができず、しばらく無言でコーヒーを淹れていました。

「傭兵の寝返り」が来る店、来ない店

ここから、作る側・売る側の話です。中国輸入でEC(楽天・Amazon)を6年やって、AIエージェント/AI業務改善ツールを約260社に提供している人間の、現場の本音です。

まず整理させてください。Amazonのレビュー要約や楽天のAI関連機能は、プラットフォーム側が生成・配置するもので、店が「要約の上に何かを置く」ことは基本できません。店が触れるのは、自分の商品説明文の中身だけです。うちが実際に試したのは、この自分の商品説明文の一番上に、AI要約と似た体裁の一行、つまり自作の「まとめコピー」を自分で書いて置く、という施策でした。

正直な数字はここでは伏せます。ただ、体感としてはっきり動きました。迷っている人の背中を、その一行が代わりに押してくれる感覚です。短期の数字だけ見れば悪くありません。

ただし、そうやって「一行に押されて」買ったお客さんは、なぜうちの店で買ったのかを、自分で言語化できません。リピートの理由が「AIっぽい一行が良さそうだったから」しかない。次に別の店のページで、もっと説得力のある一行が出てくれば、同じ顔でそっちへ行きます。これは計測して確認した話ではなく、店をやっている人間としての観察です。私はそう見ています。

指名買い、つまり「この店だから買う」という、ECで一番太い客が育たなくなる。私はこれを、レビュー要約本位制の「傭兵の寝返り」と呼んでいます。一行のお札を刷りすぎた店は、いざ「あなたの店の何が好きですか」と聞かれたとき、金庫が空っぽになっているんです。

逆に、寝返りが来ない店もあります。次のセクションで話す一行家訓を、要約のすぐ下に置いている店です。傭兵(AIの一行)が連れてきたお客さんに、傭兵には書けない一行を渡せている店は、次も名前で選ばれます。

一行家訓――要約の下に、店の言葉を差す

要約は入口に置く。本質は、要約のすぐ下に、自分の言葉で置く。線引きはこれだけです。

老舗が代々受け継ぐ家訓のように、AIには絶対に要約できない一行を、店が自分で刻んでおく。名付けて一行家訓。たとえば「このサーキュレーター、運転音は正直大きめです。でも風量を落とさないためにあえてこの設計にしました」みたいな、作り手の理由。AIは「総じて高評価」とは言えても、「なぜこの弱点を、あえて残したのか」までは要約できません。レビューに書いていないからです。……と、ここまで書くと荘厳な話に聞こえますが、実際にうちで最初に書いた一行家訓は「梱包が雑ですみません、中身で勝負してます」でした。家訓というより、ほぼ謝罪文です。それでも効きました。

書く場所は具体名で決めてください。楽天なら、RMSの商品説明文(PC用)の冒頭Amazonなら、商品説明の最初の段落、A+コンテンツが使えるなら最初のモジュール。自社ECならファーストビューの商品説明欄。共通して「要約や星評価より上のスクロール範囲」に置くのが基本です。

穴埋めテンプレは1つだけ渡します。

「〇〇(弱点)は事実です。でも△△(弱点を残した理由・狙い)なので、私たちはこれで出しています。」

これに実店舗の言葉を当てはめるだけで、最初の一行家訓は書けます。

「要約のすぐ下」が物理的に取れない場合もあります。楽天のスマホ表示や、Amazonの商品説明が下の方に追いやられる構成のときです。その場合は、商品画像の2〜3枚目を「一行家訓カード」にして画像内テキストで出す、または商品説明文の一番上に持ってくる、の2択で代替してください。要は「レビューや星評価を見た直後の視界」に入っていればよく、位置そのものは絶対ではありません。

AI要約そのものを消したほうがいいのでは、と聞かれることがあります。違います。お客さんはもう、30件のレビューを読む世界には戻りません。戻れと言うのは、電卓を捨てて筆算に戻れと言うのと同じ、ただの精神論です。戻すのではなく、要約の下に一行家訓を差す。逆らうのではなく、隣に座る。

効いているかどうかは、何で測るか

一行家訓を入れて満足しないでください。見るべきは短期のCVR(購入率)ではなく、そのあとです。

リピート率:一行家訓を入れた商品と、入れていない商品で、90日以内の再購入率を比べる。

指名検索:店名やブランド名での検索流入が増えているか(楽天なら店舗検索、自社ECなら「〇〇(店名) 商品名」でのGoogle検索流入)。

レビュー内の言及:新しく付いたレビューの中に、一行家訓で触れた理由(弱点を残した狙いなど)への言及が出てくるか。出てきたら、お客さんが自分の言葉で理由を持ち始めた証拠です。

短期のCVRと長期の指名買いはトレードオフになり得る、という話をここまでしてきました。トレードオフである以上、短期の数字だけ見て一行家訓を削るのは本末転倒です。最低でも1商品、90日は様子を見てください。

プラットフォームによる違いも一言。Amazonはレビュー要約の生成・配置を完全にコントロールしていて、店が触れるのは商品説明とA+コンテンツだけです。楽天はレビュー欄まわりの設計に店舗側の裁量が残っているぶん、一行家訓を置ける場所の選択肢はむしろ多くなります。自社ECは全部自由です。「AI要約」とひとくくりにせず、自分の売り場でどこまで触れるかを、まず確認してください。

傭兵と家訓、それから今夜のサーキュレーター2台目

AIにレビューを要約させること自体は、止められません。私だって明日も使います。買い物は速いほうがいい。

ただ、作る側の私たちは、覚えておいたほうがいいと思っています。お客さんが判断を傭兵に委託すればするほど、店は「傭兵には書けない一行」を自分で用意しておかないと、AIが別の店を勧めた瞬間、何も残りません。

今夜、また買い物をしました。同じブランドの卓上サーキュレーター、寝室用にもう1台です。AI要約の一行を読んだあと、あえて下までスクロールして、店が自分の言葉で書いた一文を探しました。ありました。「このモデル、運転音は正直大きめです。でも風量を落とさないためにあえてこの設計にしました」。さっきの弱点は運転音だったな、と思いながら、私はそれを理由に選びました。

今、23時52分。妻はもう寝ています。明日の朝、また「なんでこれにしたの」と聞かれたら、今度は答えられます。「音は大きいけど、風量を落としたくなかったから」。AIの一行だけでは、たぶん出てこなかった答えです。

それでは、また。

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書いた人:せおっち。中国輸入でEC(楽天・Amazon)を自分でやりつつ、AIエージェント/AI業務改善ツールを提供しています。

参考:AIに考えさせると、人は考えなくなるという話を書いたnote記事(https://note.com/dreamy_borage868/n/n602ea23de01f)