朝の多摩川を歩いていたら、ふと思ってしまいました。
「AIに指示を出す仕事」すら、そろそろ面倒くさい。
ここまで来ると、人類の進歩なのか、私の怠惰がついに文明側へ寝返ったのか、判断が難しいところです。心拍数だけシリコンバレー化しました。
こんばんは。せおっちです。
2026年6月7日、Addy Osmaniさんが「Loop Engineering」という記事を公開しました。
そこで語られているのは、AIに毎回プロンプトを打つのではなく、AIエージェントを動かす ループそのものを人間が設計する、という話です。
もともとはコーディングエージェント文脈の話です。Issueを見て、修正して、テストして、PRを作る。そういう開発現場の話。
ただ、私はこれを読んで思いました。
これ、EC運用にも、記事制作にも、業務改善にも、そのまま来るやつだな、と。
ループとは「半自動で下準備する小さな工場」
たとえば商品ページを改善するとき、現場ではこんな作業が発生します。
競合を見る。レビューを見る。画像の弱点を見る。タイトル案を出す。広告表現として危ない言い方がないか確認する。最後に人間が判断する。
これを毎回チャットで、
「競合を見てください」「次にレビューを分類してください」「改善案を3つください」「禁止表現っぽいところを見てください」
と打つのは、普通に労働です。
AIに仕事を渡すための仕事。なんだその新しい事務作業は、という話です。
ループエンジニアリングは、この一連の流れ自体を設計します。
ただし、最初から「AIが勝手に全部やって公開まで行く」ではありません。そこは危ない。だいぶ危ない。深夜のドン・キホーテでテンションが上がった状態の買い物くらい危ない。
まず作るべきは、完全自動ではなく 半自動ループ です。
AIが下準備する。AIが分類する。AIが下書きを作る。AIが危なそうな点を洗い出す。最後に人間へ戻す。
ここまでで十分、仕事はかなり軽くなります。
Addyさんの記事が面白い理由
Addyさんの記事では、Loop Engineeringに必要な部品として、5つと、もう1つの記憶場所が挙げられています。
automation。決まった時間に探索や分類を走らせる仕組み。worktree。複数のAI作業がぶつからないように分ける作業場所。skills。毎回説明しなくていいように、プロジェクト知識を書いた手順書。connectors。Slack、GitHub、DB、Notionのような実ツールとつなぐ入口。sub-agents。作るAIとチェックするAIを分ける仕組み。そして state。何をやったか、次に何をするかを残す記録場所。
これが重要なのは、「AIにいい感じに頼む話」から「AIが働く作業環境を作る話」に変わっているからです。
プロンプト単体ではなく、予定表、作業場所、手順書、道具接続、検品係、記録簿まで含めて設計する。
これはもう、チャット術というより、現場設計です。
少なくともコーディングエージェント周辺では、仕事の重心が動き始めています。「コードを書く人」から「AIがコードを書く流れを設計する人」へ。
ECで言えば、「毎回商品ページを直す人」から「商品ページ改善が半自動で回る流れを設計する人」へ。
地味ですが、かなり大きい変化です。
プロンプトは配管になる

プロンプトが不要になるわけではありません。
むしろ、ループの中にはプロンプトがたくさん入ります。
たとえば、競合レビュー監視ループなら、こんな部品になります。
「低評価レビューだけを、配送・品質・価格・説明不足に分類する」「改善テーマを、売上影響が大きそうな順に3つ出す」「広告表現として確認が必要そうな文を、人間レビュー対象として抜き出す」
プロンプトは消えません。ただ、主役ではなくなります。
今までは、プロンプトそのものを一生懸命磨いていました。
「あなたは優秀な編集者です」「ステップバイステップで考えてください」「不足情報があれば質問してください」
このへんは、もはやAI時代の般若心経です。唱えると、なんとなく賢そうな返答が返ってくる。
でもループでは、プロンプトは配管です。
どこから情報を取るか。どの順番で処理するか。どこで検品するか。どこに記録するか。どの条件で止めるか。
家全体の設計がないまま、水道管だけピカピカに磨いても、台所に水は来ません。悲しいピカピカです。
便利さより先に「止まり方」を決める
ループは便利です。でも、勝手に動くものは、勝手に間違うこともあります。
Addyさんの記事でも、これはまだ初期段階であり、トークンコストにも注意が必要だとされています。ループは気づかないうちに何度もAIを呼ぶので、設計が甘いとお金も判断も漏れます。水道の蛇口を閉め忘れた状態です。水道代で泣くやつです。
だからループ設計で最初に決めるべきなのは、「何をさせるか」だけではありません。
どこで止めるか。何をもって完了とするか。どの失敗なら人間に戻すか。何を記録すれば、あとで追えるか。
ここが本体です。
「記事を書いて」だと危ない。
「指定URLの事実だけを使い、3000字前後の記事案を作り、未確認の主張を別リストに分け、公開前チェックで止める」なら、少し扱えます。
「商品説明を改善して」だと危ない。
「レビューから不満を分類し、改善案を3つ作り、法務・広告表現は専門家または社内基準で確認する項目として分け、公開は人間承認まで止める」なら、現場に乗せやすい。
AIは手を増やしてくれます。でも、ハンドルまで握ってくれるわけではありません。
260社に使われる仕組みで「AIがそう言った」は通らない

私はECを6年やってきて、楽天やAmazon、中国輸入の運用も見てきました。今は業務改善ツールやAIエージェント周りの仕組みも作っています。自社システムは約260社、Chrome拡張は約700ユーザーに使ってもらっています。
だからこそ思うのです。
止まり方を設計しない自動化は怖い。
現場で本当に怖いのは、AIが間違えることそのものではありません。間違えたまま、誰も気づかずに進むことです。
レビューを読み違える。競合の強みを誤解する。広告表現として確認が必要な文を、そのまま商品ページに入れる。売上が落ちたあとで、どの変更が原因かわからない。
これが一番まずい。
「AIがそう言ったので」は、仕様書ではありません。「たぶん大丈夫」は、運用設計ではありません。「なんか良さそう」は、深夜2時のラーメン替え玉判断です。翌朝だいたい後悔します。
人間の仕事は減ります。でも、人間の責任は減りません。
むしろ、責任の場所が変わります。
毎回の作業を頑張る責任から、回る仕組みを設計し、止め、検品する責任へ。
ここを間違えると、AI活用は省力化ではなく、ブラックボックス製造機になります。
5分の作業をサボるために5時間かける人間へ
私は「5分の作業をサボるために5時間かけて自動化する」タイプの人間です。
普通に見ると負けです。5分で済むことに5時間使っています。算数が泣いています。
でも、その5分が毎日発生するなら話は変わります。
1日5分。月20営業日で100分。1年で1200分。つまり20時間です。
5時間かけて仕組みを作っても、保守にさらに5時間かかったとして、まだ10時間残ります。時給5,000円で考えるなら、5万円分くらいの余白です。
このへんで、我が家の中央銀行総裁、つまり妻が登場します。
「で、その余白で何するの?」
鋭い。通貨発行権を握る者の問いは、いつも本質を突いてきます。
時間を浮かせるだけでは弱いのです。
浮いた時間で、何を良くするのか。商品ページの検品を厚くするのか。新しい企画を考えるのか。お客様対応の品質を上げるのか。あるいは、ちゃんと寝るのか。
最後のやつ、かなり大事です。寝不足の人間が作る自動化は、だいたい途中でExcel方眼紙になります。
明日使える「5行ループ」

いきなり会社全体をAIループ化しようとすると、だいたい失敗します。
壮大な構想資料だけが残り、現場は今日もExcelを開きます。そしてセル結合が増えます。人類の罪です。
最初は、小さいループで十分です。
毎週やっている15分から60分の作業を1つ選びます。そして、5行で分解します。
何を見るか。何を分類するか。何を作るか。何をチェックするか。どこで人間に渡すか。
たとえば、競合レビュー監視ループならこうです。
URLを見る。低評価レビューを「配送・品質・価格・説明不足」に分類する。改善テーマを3つ出す。広告表現として確認が必要そうな文を分ける。SlackやNotionに下書き保存して、人間確認で止める。
これだけで、最初の設計図になります。
記事制作なら、こうです。
指定URLとメモを見る。使える事実と未確認情報を分ける。記事構成を作る。出典外の事実追加やNG表現をチェックする。Markdown下書きとして保存し、人間が公開判断する。
問い合わせ対応なら、こうです。
新着問い合わせを見る。緊急度とカテゴリを分類する。返信案を作る。個人情報・返金・法務判断が絡むものを除外する。担当者に確認依頼として渡す。
このくらい小さくていいのです。
小さく回して、ちゃんと止まる。まずはそこからです。
ループ設計メモ
保存しておくなら、この形が使いやすいです。
目的:何を軽くしたいのか
入力:AIが何を見るのか
判断基準:何を良い・悪い・危ないとするのか
出力:何を作るのか
停止条件:どこまで行ったら止まるのか
人間確認:誰が、何を見るのか
記録先:次回のためにどこへ残すのか
この7項目があるだけで、AIへの丸投げ感はかなり減ります。
逆に、これが書けない仕事は、まだループ化しない方がいいです。人間側が仕事を分解できていない状態でAIに渡すと、AIはその曖昧さをきれいな文章で包んで返してきます。
見た目は立派。中身は未整理。お歳暮の箱に入ったケーブル地獄です。
丁寧な怠惰が、いちばん強い
AIに詳しい人だけが勝つ、とは思いません。
これから強いのは、現場の面倒くささを知っている人です。
「ここ、毎回同じことしてるな」「この確認、先にAIにやらせられるな」「この判断だけは人間が見ないと危ないな」「この記録が残れば、次回もっと楽になるな」
こういう小さな違和感に気づける人。
最強の才能は、たぶん怠惰です。
ただし、雑な怠惰ではありません。丁寧な怠惰です。
面倒くさいから、仕組みにする。忘れるから、記録させる。見落とすから、検証を入れる。怖いから、止まり方を決める。
AIを賢く答えさせる時代から、AIが賢く回る環境を作る時代へ。
たぶん、仕事の重心はそこへ移ります。
そして私は明日の朝も、多摩川の土手を歩きながらChatGPTに話しかけていると思います。
「この作業、毎回お願いするのも面倒なんだけどさ」
AIに話しかけることすら自動化したくなる。人類の進歩なのか、私の怠惰がまた一段階進化したのか。
判断はあなたにお任せします。
小さく回す。小さく止める。大きく壊さない。
参考:Addy Osmani「Loop Engineering」https://addyosmani.com/blog/loop-engineering/