クーリエ・ジャポンの記事を読んだ朝、多摩川の土手で30分、スマホをしまえませんでした。AIに聞けば10秒で初回回答は返ってくる。なのに、その返事をポケットに入れて歩くのが、やたら難しい。

こんばんは。せおっちです。

知識がいらなくなる話ではありません。むしろ、知識も読解力も前より必要です。

ただ、「調べて、それっぽい初回回答を出す価値」は下がっています。

ChatGPTなどの一般向けAIツールは、無料枠や月額数千円台で使えます。昔なら本を何冊も開いて、検索して、詳しい人に聞いて、ようやくたどり着いた情報に、いまはかなり短い時間で触れられる。

知性の業務用スーパー化です。高級食材だった知識が、でかい冷凍袋に入って棚に積まれている状態です。

問題は、そこからです。

初回回答は、もう高級品ではない

そのクーリエ・ジャポンの記事では、AIが広がったあとの仕事で、人間に残る力として「すぐ答えを出す賢さ」だけではなく、問いを長く持ち続ける力が重要になる、という話が紹介されていました。

私はそれを読んで、かなり嫌な汗をかきました。

なぜなら、AIに聞いて終わるのは気持ちいいからです。

「なるほど」「勉強になった」「あとでやろう」

この3兄弟が出てきたら危険です。だいたい「あとで」は来ません。来たとしても、別人の顔をして請求書だけ持ってきます。

私もよくやります。5分の作業を避けるために5時間かけて自動化ツールを作る人間です。面倒くささの永久機関を胸に積んでいます。

でも、仕事で差が出るのはここです。

AIに聞いて、そのまま使う。ここまでは、もう特別なことではありません。

そのあとに、「自分の現場では本当にそうか」と戻れるか。

この戻りが、思考スタミナ税関です。AIの回答をそのまま通す前に、現場へ持ち込んでいい荷物か確認する場所です。

AIの初回回答をノーチェックで入国させるのか。荷物を開けて、自分の仕事に使える形か見るのか。

この関所を通れる人は、思ったより少ないです。

AIは地図を出す。ぬかるみは自分で踏む

たとえばEC運営で、AIにこう聞いたとします。

「売上が伸びない商品ページを改善するには?」

たぶん、返ってくるのはこんな感じです。

商品画像を改善しましょう

商品名に検索キーワードを入れましょう

レビューを増やしましょう

広告運用を見直しましょう

競合分析をしましょう

正しい。でも、このままだと現場ではまだ何も動きません。

「商品画像を改善しましょう」は、きれいな標語です。現場用に分解すると、こうなります。

1枚目の画像で、誰向けの商品か3秒で伝わるか

スマホ表示で文字が潰れていないか

競合上位10商品と並べたとき、価格以外の違いが見えるか

2枚目にサイズ感、3枚目に使用シーン、4枚目に不安解消を置けるか

レビューが少ないなら、広告費をどこまで許容するか

ここまで落ちて、ようやく作業になります。

粗利800円の商品なら、1件売るために広告費を800円超えて使うと、その注文単体では赤字です。もちろんLTVや同梱購入まで見るなら話は変わります。でも少なくとも、「広告を強めましょう」では足りない。

うちの場合なら、こう考えます。

「粗利800円。新規獲得目的なら初回は赤字を許容するのか。単品回収ならクリック単価いくらまでか。レビューが10件未満の間だけ広告を絞るのか」

これは普遍ルールではありません。商品単価、リピート率、競合状況、在庫の重さで全部変わります。

でも、少なくともここまで考えて、やっと判断になります。

AIは地図を出してくれます。

でも、ぬかるみに靴を突っ込むのは自分です。

AIがくれるのは、きれいに印刷された作戦図です。現場には補給線も、雨も、なぜか昨日から休んでいる担当者もいます。

作戦図だけで勝った気になると、だいたい前線で弁当が足りなくなります。

「賢い人」より、問いを持ち帰れる人

私は楽天運営、Amazon、中国輸入まわりを6年ほどやってきました。自社システムは約260社、Chrome拡張は約700ユーザーに使ってもらっています。

この数字を看板にしたいわけではありません。むしろ、その現場で何度も見た差が地味だった、という話です。

成果が出る人は、「知っている人」ではありません。知ったあとに、直す人です。

AIの返事を見て、翌日も戻ってくる人。一度作った画面を、自分で触って「これ、初期表示で迷子になるな」と削れる人。設定項目を20個並べたあと、「ユーザーに必要なのは最初の1個だけでは」と考え直せる人。

私はよく、ツールの仕様を盛りすぎます。

CSV取り込み。自動判定。通知。履歴。例外処理。管理画面。設定画面。設定画面の設定画面。

気づくと、小さな業務改善のつもりが、機能過積載戦艦になっています。大砲は立派だけど、重すぎて港から出られないプロダクトです。

そこでAIに壁打ちします。

「この機能、本当に必要?」「初回ユーザーが最初に押すべきボタンは?」「設定を減らすなら何を残す?」

AIは便利です。ただ、最後に削るのは自分です。

AIは「どれも重要ですね」と言いがちです。やさしい顔で全部盛り定食を出してくる。

その全部盛りを見て、米だけ残す。ここに人間の仕事が残ります。

問いを寝かせるのは、根性論ではない

「精神のマラソン」と聞くと、滝行みたいに聞こえます。

違います。滝行も自己啓発セミナーも不要です。

必要なのは、スマホをしまう5分です。

今日いちばん面倒だった作業は何か。AIに任せすぎた判断はどこか。なんとなく違和感があったのに、流した場面はどこか。

これを、すぐ答えにしない。

問いを持ったまま歩く。寝かせる。翌朝もう一回見る。数字にする。人に見せる。小さく試す。

私はこれを、未解決案件の巡礼路と呼んでいます。すぐ解決しない問いを、毎日少しずつ担いで歩くための道です。

正直、邪魔です。

でも、その道を一度も歩かずに決めたことは、だいたい軽い。10秒で出た初回回答は、10秒ぶんの重さしかありません。

大事な問いは、少し重くしてから扱ったほうがいい。

「この事業を続けるのか」「この機能は誰の痛みを減らすのか」「この投稿は本当に出すべきか」「AIに任せたあと、自分はどこで責任を持つのか」

こういう問いに即答すると、たいてい自分に都合のいい言葉を選びます。

だから歩く。だから戻る。だから、いったん未読にする。

毎日5分でいいです。

1週間で35分。1ヶ月を30日で見ると約150分。1年で約30時間。

30時間あれば、かなりの問いが熟します。

もちろん、毎日きれいに考えられるわけではありません。私は散歩中に「この機能いらないかも」と思った3分後、別のAIツールの料金ページを見ています。

危険です。

毎月のカード明細に、小さなSaaS小藩が乱立している。それぞれのサービスが「月額たった○○円です」と年貢を取りに来る状態です。

先日も、妻に言われました。

「これ、何の月額?」

その一言で、わが家の中央銀行総裁が金融引き締めに入ったことを悟りました。

だから、問いは仕事だけではありません。

この課金はまだ必要か。この習慣は成果につながっているか。この自動化は、本当に時間を生んでいるか。それとも、面倒を避けるために別の面倒を育てているだけか。

年間30時間の脳内決算です。頭の中の棚卸しを、1日5分ずつ積み立てる作業です。

ここで大事なのは、反省で自分を殴らないことです。殴ると続きません。人間は意外とすぐ閉店します。

ただ、見る。

数字を見る。作業を見る。違和感を見る。AIの初回回答と、自分の現場解のズレを見る。

この「見る」を続けられる人が強い。

土手に戻ります

これから価値が下がるのは、賢さそのものではありません。

「調べただけ」「初回回答を出しただけ」「それっぽくまとめただけ」

このあたりの価値です。

逆に残るのは、問いを捨てない人です。AIの返事を見て、すぐ信じず、すぐ否定もせず、自分の現場まで運べる人です。

考えて、試して、ズレて、削る。もう一度聞いて、また現場に戻す。

地味です。ぜんぜん映えません。

でも、この地味さに耐えられる人は強いです。

今日も私は、多摩川の土手でChatGPTに聞きます。

「これから生き残るには、何が必要ですか?」

AIは10秒でそれっぽく答えます。私はその返事を読んで、スマホをポケットにしまいます。

そして30分かけて、いったん未読にします。

仕事術もAI論も、信じる前に小さく試したほうがいいです。この記事も例外ではありません。あなたの現場の泥で、一度踏んでみてください。